一人で生きることは、死ぬよりも辛い

しぃ

文字の大きさ
6 / 42

6話

しおりを挟む
 病室の分厚いカーテンを開けると気持ちのよい陽光が僕を包んだ。
 こんな日はどこかの山にピクニックにでも行きたくなる。
 そうしたアウトドア的な経験について聞かれると、僕はなにも答えることができないのだが。
 つまるところ単なる僕の願望だ。もちろん僕に外出の自由はない。

 昔の僕ならピクニックという言葉はまず浮かばなかっただろう。天気や気分に関係なく暇な時間は自然と勉強をしてしまうのだ。習性のようなものだったのだろう。

 自分はもうすぐ死んでしまうということを知らされた日から、僕は少しずつ変わり始めている。

 涙かなにかも分からなくなるほど泣き叫んだあの日を僕は忘れないだろう。

 僕は後悔を数えるように日々を過ごした。アレもやっておけば良かった、コレもやっておけば良かったと、僕がどんなにつまらない人間なのかを痛感した。

 今から焦ってももう僕にその願望を叶えるだけの自由はない。

 いつでもいいやと後回しにすることの愚かさ、浅はかさを僕は知った。

 僕らは、今を生きている。そしてそれを忘れてしまっているのだ。

 その尊さは失ってからでなくては気づけないカラクリになっているのかもしれない。
 神様ってやつが意地悪なのか、【生きる】ということに慣れた人間が愚かなのか。答えのない問題を考えることの無駄さに気付き僕はロビーの貸出コーナーへと向かった。



 
Q.貴方の性別と年齢を答えなさい
A.君はなんだか偉そうだね。そっちこそいくつなんだい?どうせ女の子なんだよね?


A.■■■■■■■■■(ボールペンでぐちゃぐちゃに塗られて読めない)


A.すみません。私は15歳の女子です。

Q.貴方のことを教えてください。



 彼女からの真摯な返事が小さくかわいい文字で書かれていた。

 ぐちゃぐちゃにして消した部分から彼女を怒らせてしまったことがうかがえる。

 そりゃ怒るよ。

 改めて読むと自分がどういう気持ちでこの文章を書いたのか自分を問い詰めたくなった。

 失礼極まりないその文字列を彼女は受け入れてくれた。
 15歳だと言う彼女の心の広さに驚き、尊敬した。それから、こんな僕を見放さないでくれた彼女に感謝した。それと同時に2つも年上の自分がとても恥ずかしくなった。
 まずは謝りたい。そう思い今日も持参してきたボールペンを手に取った


Q.貴方のことを教えてください。
A.君はすごく優しいんだね。それと、ごめんなさい。前のアレ、あまり深く考えずに書いたんだ。君をムカつかせてしまったようで申し訳無い。この前の無礼を許してほしい。

僕は、17歳の男子です。実は瀕死なんだよね。少し前に突然余命宣告されて、それからは毎日この病院のベッドで生活してる。先月の4月から入院してるんだ。こんな感じでいいかな?

嫌でなければ、君のことをもっと知りたい。

長文失礼しました。



 僕は、溜め込んだ感情を黒いインクへと注ぐ。
 
 本当はもっと書きたいことがあった。

 僕を知ってほしい。君を知りたい。もっともっと。
 珍しく前向きな気持ちで溢れていた。


 君がここにいればいいのに…

 …?

 今の気持ちはなんだろう?

 充実感にも似ていて、幸福感のようにも感じる。なのに落ち着かない。心がざわつくような、チクリチクリと細い針で刺されるような感覚。

 得体の知れぬその感情がなんだか怖くて、僕は君のことを考えるのをやめた。

 その瞬間、気づいてしまう。

 否が応でも、意識が君に引きずられていくことに。君のことを考えてしまう僕がいた。

 僕は、名前も顔も知らない君が気になって仕方がないのだ。

 
 君は、どうなのだろう?

 考えるとまた心がざわついた。


 ほぼ手紙のような文量となったメモをまた挟み込み、本棚へと戻した。
 今日は一旦寝よう。頭が回らなくなっている。


 それから僕は、足早に自室に向かい、まとまらない頭を休ませるために昼寝をした。
 その日は、覚えてはいなかったがなんだか素敵な夢を見た気がした。
 
 なにかが、僕の中で膨らみ始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?

akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。 今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。 家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。 だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

処理中です...