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7話
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その日、久しぶりの発作がきた。
発作と言っても普段は手足が痺れてきたり、急に頭痛がきたりといった程度だ。
手足の痺れはよくあることだが、その日は痺れに加え何故か甘い臭いがした。
「お母さん、なんかケーキとか買ってきた?」
母は不思議そうな顔で私を振り返る。
「ごめん、今日はなにも買ってきてないなぁ」
「え?そうなの?サプライズかと思ったのに。でもなんだろう?なんか甘い臭いがするんだよねー」
「なんだろうね?ちょっとお母さん売店に行ってくるわね」
逃げるように病室を出る母の表情が陰るのを私は見逃さなかった。
別室にて。
「先生、娘がありもしないケーキのような甘い臭いがすると言ってきました」
「断定は出来ませんがそれは、症状の1つではないかと思います。」
主治医は冷静に言葉を並べていく。
「もしかすると、進行速度が上がった可能性があります。娘さんは不安に思うかも知れませんが、近いうちに精密検査をした方が良いと思います」
「そうですか…よろしく、お願いします」
次の日
なんだか妙に明るく振る舞う母に違和感を感じた。
「どしたのお母さん?」
「え!?なにが?」
分かりやすいなお母さん。
「いや、まぁいいんだけどさー」
こりゃなんかあったな。私に。やっぱりそうか。痺れる左手をそっとさすった。
「あのさぁお母さん。隠してたけど最近私、手足の痺れがすごいんだけど先生になにか聞いてる?」
眉をひそめ、母は静かに私に語りかけた。
「あのね、昨日あなたが甘い臭いがするって言ってたでしょ?アレ、病気の進行が早くなったからなのかもしれないの。だからね、検査をした方がいいって先生が…」
そうだったのか。私も手足の痺れを隠していたことは謝らないとな。
「そっか、じゃあ早く検査受けなきゃだね。あ、私ちょっと売店行ってくる」
久しぶりにこれはキツいな。
私は、あと少しで死んでしまう。そんなことはずっと前からわかっている。変えようのない事実を、私はとっくに受け入れた。
受け入れたつもりだった。
いざ、その事実がにじり寄ってくると、逃げ出したくなった。
受け入れても、諦めても、やっぱり死ぬのは怖い。私はまだ生きていたい。そう強く望む他なかった。
逃げるように病室を出た私はいつもの場所にたどり着いた。
ロビーの一角。小さな本の貸出コーナー。
手に取る本に挟まれたメモを開く。
たくさんのキレイな手書きの文字が私の目に飛び込んだ。
その中の【瀕死】という言葉が胸を打つ。
彼にも【リミット】があるようだ。
私と同じだ…
なんだか少しだけ嬉しかった。彼には悪いが、同じ道を歩いている人がこんなに近くにいたという事実を私は幸せととらえたのだ。まぁ彼のことを私はほとんど知らないんだけどね。
再び私は彼の言葉を読み返す。何度も何度も。
優しいか…私はただ、貴方と繋がっていたかっただけで、許すとか受け入れるなんてそんな気持ちはあまりなかった。ただ私は必死だった。
貴方だって、自分の非を認めてちゃんと謝ってくれた。
私も貴方も案外素直なのかもしれない。もしかしたら、私たちは似ているのかな。
彼の綴った文字が、意味を帯びて情報となり、私の中に蓄積した。その事実だけで、さっきまでの悲しい気持ちは吹き飛んでいった。
私のことを知りたいという彼の質問に答えようとペンを取る。
そこで、私はある質問が頭に浮かんだ。
聞いてみたい…
けど、すごく怖い。
私たちはまだ顔も知らなければ互いに余命わずかだということしか知らない。あ、貴方はまだ私の病気のことをしらないんだっけ。
迷いと不安で揺らぐペンがゆっくりと走り出した。
A.私も、実は瀕死です。もしかすると貴方よりも先に、死んでしまうかもしれません。脳に腫瘍があるんです。でも、明るく生きようと考えてます!
Q.私が死んだら悲しいですか?
【死】という言葉を書いたとき、手が震えてしまった。
そして、どうしても聞きたかった。
私の死をどう思うか。
そして、悲しいと言って欲しかった。
だって、私は貴方がこの世界からいなくなることが想像できない。だけど、貴方が瀕死だと知ったとき、私はとても悲しくなった。
私は、貴方も同じ気持ちでいてほしいと思った。
発作と言っても普段は手足が痺れてきたり、急に頭痛がきたりといった程度だ。
手足の痺れはよくあることだが、その日は痺れに加え何故か甘い臭いがした。
「お母さん、なんかケーキとか買ってきた?」
母は不思議そうな顔で私を振り返る。
「ごめん、今日はなにも買ってきてないなぁ」
「え?そうなの?サプライズかと思ったのに。でもなんだろう?なんか甘い臭いがするんだよねー」
「なんだろうね?ちょっとお母さん売店に行ってくるわね」
逃げるように病室を出る母の表情が陰るのを私は見逃さなかった。
別室にて。
「先生、娘がありもしないケーキのような甘い臭いがすると言ってきました」
「断定は出来ませんがそれは、症状の1つではないかと思います。」
主治医は冷静に言葉を並べていく。
「もしかすると、進行速度が上がった可能性があります。娘さんは不安に思うかも知れませんが、近いうちに精密検査をした方が良いと思います」
「そうですか…よろしく、お願いします」
次の日
なんだか妙に明るく振る舞う母に違和感を感じた。
「どしたのお母さん?」
「え!?なにが?」
分かりやすいなお母さん。
「いや、まぁいいんだけどさー」
こりゃなんかあったな。私に。やっぱりそうか。痺れる左手をそっとさすった。
「あのさぁお母さん。隠してたけど最近私、手足の痺れがすごいんだけど先生になにか聞いてる?」
眉をひそめ、母は静かに私に語りかけた。
「あのね、昨日あなたが甘い臭いがするって言ってたでしょ?アレ、病気の進行が早くなったからなのかもしれないの。だからね、検査をした方がいいって先生が…」
そうだったのか。私も手足の痺れを隠していたことは謝らないとな。
「そっか、じゃあ早く検査受けなきゃだね。あ、私ちょっと売店行ってくる」
久しぶりにこれはキツいな。
私は、あと少しで死んでしまう。そんなことはずっと前からわかっている。変えようのない事実を、私はとっくに受け入れた。
受け入れたつもりだった。
いざ、その事実がにじり寄ってくると、逃げ出したくなった。
受け入れても、諦めても、やっぱり死ぬのは怖い。私はまだ生きていたい。そう強く望む他なかった。
逃げるように病室を出た私はいつもの場所にたどり着いた。
ロビーの一角。小さな本の貸出コーナー。
手に取る本に挟まれたメモを開く。
たくさんのキレイな手書きの文字が私の目に飛び込んだ。
その中の【瀕死】という言葉が胸を打つ。
彼にも【リミット】があるようだ。
私と同じだ…
なんだか少しだけ嬉しかった。彼には悪いが、同じ道を歩いている人がこんなに近くにいたという事実を私は幸せととらえたのだ。まぁ彼のことを私はほとんど知らないんだけどね。
再び私は彼の言葉を読み返す。何度も何度も。
優しいか…私はただ、貴方と繋がっていたかっただけで、許すとか受け入れるなんてそんな気持ちはあまりなかった。ただ私は必死だった。
貴方だって、自分の非を認めてちゃんと謝ってくれた。
私も貴方も案外素直なのかもしれない。もしかしたら、私たちは似ているのかな。
彼の綴った文字が、意味を帯びて情報となり、私の中に蓄積した。その事実だけで、さっきまでの悲しい気持ちは吹き飛んでいった。
私のことを知りたいという彼の質問に答えようとペンを取る。
そこで、私はある質問が頭に浮かんだ。
聞いてみたい…
けど、すごく怖い。
私たちはまだ顔も知らなければ互いに余命わずかだということしか知らない。あ、貴方はまだ私の病気のことをしらないんだっけ。
迷いと不安で揺らぐペンがゆっくりと走り出した。
A.私も、実は瀕死です。もしかすると貴方よりも先に、死んでしまうかもしれません。脳に腫瘍があるんです。でも、明るく生きようと考えてます!
Q.私が死んだら悲しいですか?
【死】という言葉を書いたとき、手が震えてしまった。
そして、どうしても聞きたかった。
私の死をどう思うか。
そして、悲しいと言って欲しかった。
だって、私は貴方がこの世界からいなくなることが想像できない。だけど、貴方が瀕死だと知ったとき、私はとても悲しくなった。
私は、貴方も同じ気持ちでいてほしいと思った。
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