一人で生きることは、死ぬよりも辛い

しぃ

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19話

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 虚空を見上げていた彼はゆっくりと座り直し、なにから話そうかと考えている様子だ。


「君は、延髄って知ってる?」
 聞きなれない言葉に私は首を横にふった。
「そっか。僕はそこに腫瘍があるんだ。延髄って言うのはさ、脳にあってそのなかでも脳幹部って言われる部分にあるんだよね。脳幹部って言うのは脳の中でも一番重要な部分で脳幹部が全く働かなくなると脳死になるんだって」

 同じだ。
 私と同じ脳に腫瘍を抱えているんだ。
 それだけでことの重大さは理解できた。

「僕もよくは知らないけど大脳から神経繊維が集中してる部分で呼吸や意識に関係したところだから摘出手術ができないみたいなんだよね。ネットで一度調べてみたんだけど、誰がどんな手術をしても治らないんだって。ちなみに僕の余命は…まぁもう少し仲良くなったら教えてあげるよ。ちなみにこの病気は脳幹グリオーマって総称があるらしいよ。名前はかっこいいよね」
 世間話でもするようにさらさらと自身の病状を教えてくれた。
 なんでそんな平気でいられるんだろう。

「ねえ、病気のことを知ったとき貴方は泣いた?」
 たまらず聞いてしまった。

 彼は思い出しているのだろう。うーんと唸りながら少しだけ目をつむり黙った。
「最初は状況を理解できても実感がわかなかったから初めて病気のことを聞いたときは泣いてないな。僕の場合は、毎日泣いている母さんを見たり、学校では友達も作れなかったからいざ入院して誰もお見舞いに来ない日が続いていくうちに僕はなんのために生きてたんだろうって悲しくなったり、だからこそ死ぬ前に誰かと深く繋がりたいと願って、現状に絶望して、色んな後悔を数えていくうちにたくさん泣いたよ。実は僕…こんなに他人と話すのは君が初めてなんだ」
 人差し指でほっぺたをポリポリかいて困ったように彼は笑った。

 病気のことを聞いているうちに彼の本当は話したくなかった部分にまで私は触れてしまったようだ。
 彼がそこまで話してくれたことが私は嬉しかった。


 私は彼の手を取ると、優しく両手で包み込み握りしめた。
 本当は抱き締めてあげたかったけど、その勇気は私にはまだない。

「私がいるから」
 そう言うと、彼はありがとうと答えた。

 ふと、素に戻ると恥ずかしくなり私は彼の手を慌ててほどき、両手を軽くあげてわざとらしくポーズをとった。
「なんか盛り上がっちゃって、ごめん…」
「大丈夫、ありがとう」
 彼は笑った。

 そのあどけない笑顔に心音が高鳴り、早まる。
 


 悟られぬよう今度は私の番だと姿勢を正した。
 さて、どこから話そうかな。
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