一人で生きることは、死ぬよりも辛い

しぃ

文字の大きさ
21 / 42

20話

しおりを挟む
 【私がいるから】
 彼女の言葉に僕は胸がいっぱいになった。

 本当は話すつもりのなかったことだったけど、過去のダメダメな自分を晒しても彼女は僕の手を取りまた1歩僕の中に踏み込んできてくれた。
 本当に嬉しかった。少しだけ、瞳に涙が滲みかけたが僕はなんとかそれに耐えた。


 僕も、君のためになにかをしたい。そう強く思った。
 だけど…僕になにができるのかなんて思いつかない。

 そんなことを考えていると彼女に握られていた僕の手は急に解放された。
 彼女の頬はほんのりと紅潮しているように見える。
「なんか盛り上がっちゃって、ごめん…」
 どうやら素に戻ったようだ。
「大丈夫、ありがとう」
 僕は感謝を告げた。
 このとき、僕は自分が笑っていたことに気付き驚いた。

 僕はこれまで笑顔は意識して表情として貼り付けるものだと考えていたが彼女は僕の笑顔を引き出してくれているのかも知れない。
 笑顔がこぼれるとでも言うのだろうか。不思議な感覚だ。


 そんなことを考えていると彼女は姿勢を正した。次は私の番だと言うように綺麗な瞳が僕を見つめる。

 ずっとこのままでいれたらな…



「じゃあ私の番だね」
 次は僕が聞き手だ。
「お願いします」
「実は私も脳に腫瘍があるんだよね。私の場合は前頭葉の中間部分なんだ」
 驚いたな。場所まで同じなんて。
 彼女は更に説明を続けた。
「私はさ、病気が進行するとうまく喋ったり書いたりできなくなるんだって。そんで、だんだん無関心になって…」
 彼女を見ると泣いていた。
「ご…ごめん…なんか、涙が出てきて…」
「想像しちゃったんだね。わかるよ」
 僕も想像したんだ。君と話せなくなることを。だから気持ちはわかる。

 暫く彼女は嗚咽混じりになんとか泣くのを耐えようとしていた。
 だけど、そうもいかないようだ。
「うぅ…なんで…なんで私たちなのかな?」
 消え入りそうな涙ぐんだ声が僕に問う。
 いったい君がその質問を考えるのは何度目だい? 僕は最近いつも同じようなことを考えているよ。だけど、僕にその問に対する答えは用意できないんだ。僕だって知りたいよ…
 答える代わりに僕は彼女の頭を撫でた。
 緊張で少し手は震えてしまったが彼女は次第に落ち着きを取り戻した。
「ありがと…」
 涙を手で拭い彼女は呟いた。
「どういたしまして。なにか飲み物買ってくるよ。なにがいい?」
 尋ねると彼女は一瞬考えて直ぐに僕を見る。
「一緒に行く」
 涙で濡れたとても素敵な笑顔に、僕の心臓が大きく跳ねた。
 

「そ、そうしようか」
 慌てて僕は立ち上がる。
「行こっか」
 彼女の左手が僕の右手を引っ張っていく。


 女の子と手を繋いで歩くのは初めてだった。
 周囲からの視線が気になり見回すが、まわりにいる人は僕らに興味がないようだった。

 並んで歩くと彼女は思っていたよりも小さかった。そして、手は小さく、腕は細い。まるで、絵に描いた病人のようだった。
 僕は彼女の余命を聞いていないが自分よりも短いであろうことを悟った。

 そして彼女の話を思い出して今度は僕が泣いてしまった。
 ばれないように涙を拭こうとしたが直ぐにばれてしまった。
「え…なんで?」
 彼女が問う。
「わかってるくせに」
 彼女は足を止めた。
「私を想って泣いたの?」
 確認するとは趣味が悪い人だ。
「だったら悪い?」
 僕はなんだか恥ずかしくなってきた。
 答えても返事が無かったので彼女の方を見ると静かに大量の涙を流していた。
「え!? ちょっと! 大丈夫?」
 僕は慌てふためいていると、今度は彼女がガシッと僕に抱きついてきた。

 度重なる緊急事態のせいで、僕の思考はそこで停止した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?

akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。 今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。 家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。 だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

処理中です...