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一章 空回りな王様
王様は甘やかしたかった
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満面の笑みで現れた陛下は、両手を広げて俺を歓迎してくれた。歓迎してくれたのだが…なんなんだこの状況…。
遡ること3分前…
テーブルに近づいて直ぐ陛下は対面に置かれていた椅子を俺の直ぐ横に移動させた。陛下がベルを鳴らすと、侍女が現れたものの、紅茶を手早くでも丁寧にいれて直ぐどこかへ行ってしまった。そして…ケーキを食べさせられている俺。誰にと問われれば陛下以外にいるはずもなく、まるでおままごとでもしているように遊ばれている。
陛下は嬉々として菓子を俺の口に運んでいるが、この状況による混乱と試験はどうなったのかという不安で全く味がわからない。
口は動かしているものの、俺が悶々とした表情をしているのに気がついたのか、陛下の菓子を運ぶ手が止まった。
「菓子が気に入らなかったか?」
「いえ、そういうわけでは…」
「じゃあ、なんだ?」
「今日は仕官の試験を受けに来ていたのですが…もう開始時間を大幅に過ぎてしまっていて…。」
はぁとため息をつく。せっかく遠くまで出向いて来たのに無駄になってしまった。
「ああ、そのことか。伝えるのを忘れていたな…。」
「…?」
「お前を俺の側近にすることにした。」
「……はあ⁉︎」
思わず椅子から立ち上がる。いきなりだったので、驚いたのか陛下が少し身を引いていた。もし、もう少し陛下が下がっていて椅子ごと倒れたりしたら、俺は傷害罪で逮捕されてしまっていただろう。国王陛下はそれほど大切な人なのに良く考えずに行動してしまった。
「申し訳ありません、陛下…。」
慌てて頭を下げると、肩をグイッと押されて元の姿勢に戻された。
「楽にしろ。呼び方もまた戻っている。」
「ですが、ここは王城ですし、誰に見られているか…。」
「俺の言うことが聞けないのか?」
陛下の目が鋭くなった。そんなことを言われてしまうと、この国の一国民である俺に反対することなど出来るはずもない。
「…いや、そうじゃなくて…。すまない。無理矢理言わせたいわけじゃない…。ただ、お前との距離が遠いから少しでも近づきたかった。」
「いえ、お気になさらないでください。でも本当に良いのですか?」
「人払いはしてある。少し離れたところに護衛はいるが…。」
陛下に本当に俺のことが好きなのかもしれない。強引ではあるが、俺の事を考えてくれている事は伝わってくる。
でも俺は陛下の事を全く知らないし、男同士の恋愛を否定するわけではないが、俺は女性が好きだ。だからきっと陛下の想いには答えられない。
「…俺をラインハルト様の側近にすると言う事ですが、辞退させて頂いてもよろしいでしょうか。」
「なぜだ?王城で仕官として働きたいのだろう。」
「それはそうですが、今ラインハルト様の元で働いている側近の方々に失礼だと思うのです。ラインハルト様が俺を能力的に見て側近にしたいと思ったとは感じられません。」
「…。」
「俺は、人の力を借りて出世はしたくありません。…失礼します。」
話を無理矢理切ると、俺は出口へと向かった。自分で言っておいてなんだが、あとで処罰されやしないかヒヤヒヤする。兄上と親しいみたいだし、甘く見てくれないだろうか…。
馬車に戻ると、御者は直ぐに馬車を出してくれた。あの場に残っていたくなかったからありがたい。兄上に報告しなくてはな…。邸に戻ったら直ぐに手紙を書こう。
3日後。兄上から手紙の返事がきた。早速開いてみると、ものすごい長文が書かれていて読むのにとても時間がかかってしまった。まあ、『そんなやつ放っておいて早く帰って来い!』といわんばかりの文だったとだけ言っておこう。
兄上の長々とした手紙を読んでいる間に、新たに一通手紙が届いていた。セバスチャンにテーブルの上に置いておいてくれと頼んでいたはずだが…。
…王族の方達が使う封蝋印が押されている。封筒をめくると案の定陛下の名前が書いてあった。
もしかしてお叱りの手紙か?にしては届くのが遅いような…。封を切って便箋を開くと、予想に反して先日のことについて謝罪する旨が書かれていた。
『 ユニファート・ハロイド殿
先日は、申し訳ない事をしてしまった。君の意見も聞かず、勝手に事を進めていたのはあまりにも自分勝手だったと思う。
だから、君がもう一度試験を受けられるように手配した。他の者の試験が全て済むまで待っていたので少し遅くなってしまったが、まだ王城で働いてくれる気があるのなら、2日後の午前9時に王城にきて欲しい。
ラインハルト・ファンゼルダ
P.S. 許可証は同封している。 』
…もう一度試験が受けられる?もうダメだと思っていたが、またチャンスがやってくるとは!陛下の心遣いに感謝しなければいけないな…。
…いや待てよ?前のチャンスを潰したのも陛下だからこれでプラマイ0だな。
兄上に帰りはもう少し遅くなると連絡しないと…。また、長文が送られてきたらどうしようか…。
希望を持って王都に来た筈が、全く良くない事ばかり起こる。なかなかにうまくいかないものだな。
遡ること3分前…
テーブルに近づいて直ぐ陛下は対面に置かれていた椅子を俺の直ぐ横に移動させた。陛下がベルを鳴らすと、侍女が現れたものの、紅茶を手早くでも丁寧にいれて直ぐどこかへ行ってしまった。そして…ケーキを食べさせられている俺。誰にと問われれば陛下以外にいるはずもなく、まるでおままごとでもしているように遊ばれている。
陛下は嬉々として菓子を俺の口に運んでいるが、この状況による混乱と試験はどうなったのかという不安で全く味がわからない。
口は動かしているものの、俺が悶々とした表情をしているのに気がついたのか、陛下の菓子を運ぶ手が止まった。
「菓子が気に入らなかったか?」
「いえ、そういうわけでは…」
「じゃあ、なんだ?」
「今日は仕官の試験を受けに来ていたのですが…もう開始時間を大幅に過ぎてしまっていて…。」
はぁとため息をつく。せっかく遠くまで出向いて来たのに無駄になってしまった。
「ああ、そのことか。伝えるのを忘れていたな…。」
「…?」
「お前を俺の側近にすることにした。」
「……はあ⁉︎」
思わず椅子から立ち上がる。いきなりだったので、驚いたのか陛下が少し身を引いていた。もし、もう少し陛下が下がっていて椅子ごと倒れたりしたら、俺は傷害罪で逮捕されてしまっていただろう。国王陛下はそれほど大切な人なのに良く考えずに行動してしまった。
「申し訳ありません、陛下…。」
慌てて頭を下げると、肩をグイッと押されて元の姿勢に戻された。
「楽にしろ。呼び方もまた戻っている。」
「ですが、ここは王城ですし、誰に見られているか…。」
「俺の言うことが聞けないのか?」
陛下の目が鋭くなった。そんなことを言われてしまうと、この国の一国民である俺に反対することなど出来るはずもない。
「…いや、そうじゃなくて…。すまない。無理矢理言わせたいわけじゃない…。ただ、お前との距離が遠いから少しでも近づきたかった。」
「いえ、お気になさらないでください。でも本当に良いのですか?」
「人払いはしてある。少し離れたところに護衛はいるが…。」
陛下に本当に俺のことが好きなのかもしれない。強引ではあるが、俺の事を考えてくれている事は伝わってくる。
でも俺は陛下の事を全く知らないし、男同士の恋愛を否定するわけではないが、俺は女性が好きだ。だからきっと陛下の想いには答えられない。
「…俺をラインハルト様の側近にすると言う事ですが、辞退させて頂いてもよろしいでしょうか。」
「なぜだ?王城で仕官として働きたいのだろう。」
「それはそうですが、今ラインハルト様の元で働いている側近の方々に失礼だと思うのです。ラインハルト様が俺を能力的に見て側近にしたいと思ったとは感じられません。」
「…。」
「俺は、人の力を借りて出世はしたくありません。…失礼します。」
話を無理矢理切ると、俺は出口へと向かった。自分で言っておいてなんだが、あとで処罰されやしないかヒヤヒヤする。兄上と親しいみたいだし、甘く見てくれないだろうか…。
馬車に戻ると、御者は直ぐに馬車を出してくれた。あの場に残っていたくなかったからありがたい。兄上に報告しなくてはな…。邸に戻ったら直ぐに手紙を書こう。
3日後。兄上から手紙の返事がきた。早速開いてみると、ものすごい長文が書かれていて読むのにとても時間がかかってしまった。まあ、『そんなやつ放っておいて早く帰って来い!』といわんばかりの文だったとだけ言っておこう。
兄上の長々とした手紙を読んでいる間に、新たに一通手紙が届いていた。セバスチャンにテーブルの上に置いておいてくれと頼んでいたはずだが…。
…王族の方達が使う封蝋印が押されている。封筒をめくると案の定陛下の名前が書いてあった。
もしかしてお叱りの手紙か?にしては届くのが遅いような…。封を切って便箋を開くと、予想に反して先日のことについて謝罪する旨が書かれていた。
『 ユニファート・ハロイド殿
先日は、申し訳ない事をしてしまった。君の意見も聞かず、勝手に事を進めていたのはあまりにも自分勝手だったと思う。
だから、君がもう一度試験を受けられるように手配した。他の者の試験が全て済むまで待っていたので少し遅くなってしまったが、まだ王城で働いてくれる気があるのなら、2日後の午前9時に王城にきて欲しい。
ラインハルト・ファンゼルダ
P.S. 許可証は同封している。 』
…もう一度試験が受けられる?もうダメだと思っていたが、またチャンスがやってくるとは!陛下の心遣いに感謝しなければいけないな…。
…いや待てよ?前のチャンスを潰したのも陛下だからこれでプラマイ0だな。
兄上に帰りはもう少し遅くなると連絡しないと…。また、長文が送られてきたらどうしようか…。
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