貴族なのに結婚できない‼︎‼︎

アクエリア

文字の大きさ
8 / 40
一章 空回りな王様

王様は甘やかしたかった

しおりを挟む
 満面の笑みで現れた陛下は、両手を広げて俺を歓迎してくれた。歓迎してくれたのだが…なんなんだこの状況…。

遡ること3分前…

 テーブルに近づいて直ぐ陛下は対面に置かれていた椅子を俺の直ぐ横に移動させた。陛下がベルを鳴らすと、侍女が現れたものの、紅茶を手早くでも丁寧にいれて直ぐどこかへ行ってしまった。そして…ケーキを食べさせられている俺。誰にと問われれば陛下以外にいるはずもなく、まるでおままごとでもしているように遊ばれている。

 陛下は嬉々として菓子を俺の口に運んでいるが、この状況による混乱と試験はどうなったのかという不安で全く味がわからない。

 口は動かしているものの、俺が悶々とした表情をしているのに気がついたのか、陛下の菓子を運ぶ手が止まった。

「菓子が気に入らなかったか?」

「いえ、そういうわけでは…」

「じゃあ、なんだ?」

「今日は仕官の試験を受けに来ていたのですが…もう開始時間を大幅に過ぎてしまっていて…。」

はぁとため息をつく。せっかく遠くまで出向いて来たのに無駄になってしまった。

「ああ、そのことか。伝えるのを忘れていたな…。」

「…?」

「お前を俺の側近にすることにした。」

「……はあ⁉︎」

 思わず椅子から立ち上がる。いきなりだったので、驚いたのか陛下が少し身を引いていた。もし、もう少し陛下が下がっていて椅子ごと倒れたりしたら、俺は傷害罪で逮捕されてしまっていただろう。国王陛下はそれほど大切な人なのに良く考えずに行動してしまった。

「申し訳ありません、陛下…。」

慌てて頭を下げると、肩をグイッと押されて元の姿勢に戻された。

「楽にしろ。呼び方もまた戻っている。」

「ですが、ここは王城ですし、誰に見られているか…。」

「俺の言うことが聞けないのか?」

 陛下の目が鋭くなった。そんなことを言われてしまうと、この国の一国民である俺に反対することなど出来るはずもない。

「…いや、そうじゃなくて…。すまない。無理矢理言わせたいわけじゃない…。ただ、お前との距離が遠いから少しでも近づきたかった。」

「いえ、お気になさらないでください。でも本当に良いのですか?」

「人払いはしてある。少し離れたところに護衛はいるが…。」

 陛下に本当に俺のことが好きなのかもしれない。強引ではあるが、俺の事を考えてくれている事は伝わってくる。

でも俺は陛下の事を全く知らないし、男同士の恋愛を否定するわけではないが、俺は女性が好きだ。だからきっと陛下の想いには答えられない。

「…俺をラインハルト様の側近にすると言う事ですが、辞退させて頂いてもよろしいでしょうか。」

「なぜだ?王城で仕官として働きたいのだろう。」

 「それはそうですが、今ラインハルト様の元で働いている側近の方々に失礼だと思うのです。ラインハルト様が俺を能力的に見て側近にしたいと思ったとは感じられません。」

「…。」

「俺は、人の力を借りて出世はしたくありません。…失礼します。」



 話を無理矢理切ると、俺は出口へと向かった。自分で言っておいてなんだが、あとで処罰されやしないかヒヤヒヤする。兄上と親しいみたいだし、甘く見てくれないだろうか…。

 馬車に戻ると、御者は直ぐに馬車を出してくれた。あの場に残っていたくなかったからありがたい。兄上に報告しなくてはな…。邸に戻ったら直ぐに手紙を書こう。



 3日後。兄上から手紙の返事がきた。早速開いてみると、ものすごい長文が書かれていて読むのにとても時間がかかってしまった。まあ、『そんなやつ放っておいて早く帰って来い!』といわんばかりの文だったとだけ言っておこう。

 兄上の長々とした手紙を読んでいる間に、新たに一通手紙が届いていた。セバスチャンにテーブルの上に置いておいてくれと頼んでいたはずだが…。

 …王族の方達が使う封蝋印が押されている。封筒をめくると案の定陛下の名前が書いてあった。

 もしかしてお叱りの手紙か?にしては届くのが遅いような…。封を切って便箋を開くと、予想に反して先日のことについて謝罪する旨が書かれていた。

『 ユニファート・ハロイド殿

    先日は、申し訳ない事をしてしまった。君の意見も聞かず、勝手に事を進めていたのはあまりにも自分勝手だったと思う。

   だから、君がもう一度試験を受けられるように手配した。他の者の試験が全て済むまで待っていたので少し遅くなってしまったが、まだ王城で働いてくれる気があるのなら、2日後の午前9時に王城にきて欲しい。

ラインハルト・ファンゼルダ

  P.S.   許可証は同封している。 』


…もう一度試験が受けられる?もうダメだと思っていたが、またチャンスがやってくるとは!陛下の心遣いに感謝しなければいけないな…。

 …いや待てよ?前のチャンスを潰したのも陛下だからこれでプラマイ0だな。


 兄上に帰りはもう少し遅くなると連絡しないと…。また、長文が送られてきたらどうしようか…。

 希望を持って王都に来た筈が、全く良くない事ばかり起こる。なかなかにうまくいかないものだな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...