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〈牛の楽園〉
13 聖女のお迎え
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「シスター・ラファエラ」
修道院長シスター・イゾッタが挽き臼のように私の名を呼んだ。
私の顔を見て、皺くちゃの顔に厳めしい皴を加えながら。
……これは、手強いわね。
「あらまあ。院長様がいらっしゃるとは思いませんでした。すぐお茶を」
「いいえ」
シスター・イゾッタはベルナデッタを仰々しく封印。
「わざわざのお運び感謝します」
「……」
睨まれているわ。
「えっと……その、約束の木のところで待っていたのですけれど、なかなか来なくて、そうしたらコズモの牛が……走ってきて。子供をひき殺しそうだったので、助けたんです」
「聞いています」
じゃあなんでそんなに怒ってんのよ!
「シスター・イゾッタ。俺が無理に引き留めたんです。実際、ダリオは掠り傷ひとつ負っていないし、孤児院でもレオンティーナ嬢と顔見知りになって、打ち解ける事ができました」
「公爵」
シスター・イゾッタは元英雄も強気に封印。
「甘やかさないようにお願いします。シスター・ラファエラは神の僕。それを本人も重々自覚しているはずです。教皇ガブリエーレ聖下の姪御さんなのですから」
「……はい。そうです」
なぜかコズモとベルナデッタを守ってあげなきゃという気になって、私はしおらしく返事をしてしまっていた。
「帰りましょう。私用での外泊は認められていませんよ」
「わかりました」
「夕食は抜きです」
「……わかりました。シスター・イゾッタ」
強靭で鋭い枯れ木のような修道院長の後ろについていく。
私は、半泣きでふり返った。ベルナデッタが豊満な胸を挟むように拳を握って、顔を傾けて応援している。コズモは、耐えろ、と言うようにゆっくりと頷いた。
「……」
耐えるわ。
また明日、ランチを頂きに参ります。公爵。
けれど、その目論みは外れた。
「シスター・ラファエラ、あなた若いんだから洗濯をお願い」
「はい。シスター・アルマ」
「シスター・ラファエラ。廊下のランプの油を補充しておいて頂戴」
「はい。シスター・イオランダ」
「シスター・ラファエラ? 聖花用の鋏を知らない?」
「はいはい、シスター・タルクウィニア。さっき温室へ行かれませんでしたか?」
「シスター・ラファエラ!? 声がするけどどこなの!?」
「はぁい!? こっちですよシスター・チェーリア!」
「シスター・ラファエラ? 眼鏡が……」
「よかったら覚えておいてほしいんですけどシスター・ラファエラはひとりです! あと、若いからっていっぺんにいろんな事ができるわけじゃないから、そこも覚えといて!」
もう、老いた修道女たちの雑用係よ。
ここぞとばかりに溜まりに溜まった肉体労働を畳みかけてくるのよ。
「シスター・ラファエラ?」
「なんですか!? シスター・カラビ!」
大量の洗濯籠を担いで蹴ってしながら暗くて寒い通路で叫ぶ。
まったく。忙しくて祈ったのは朝だけよ。
これのどこが祈りの家だっつーのよ。
「シスター・イゾッタがお探しよ」
……。
あ、それ?
ぎくりとした数秒後、通路の向こうの角から、まるで悪魔のように冷たく顔を顰めたシスター・イゾッタがぬっと現れて、私を睨んだ。
「シスター・ラファエラ」
「……はい」
「静かに」
シスター・イゾッタは教皇の姪も一言で封印。
修道院長シスター・イゾッタが挽き臼のように私の名を呼んだ。
私の顔を見て、皺くちゃの顔に厳めしい皴を加えながら。
……これは、手強いわね。
「あらまあ。院長様がいらっしゃるとは思いませんでした。すぐお茶を」
「いいえ」
シスター・イゾッタはベルナデッタを仰々しく封印。
「わざわざのお運び感謝します」
「……」
睨まれているわ。
「えっと……その、約束の木のところで待っていたのですけれど、なかなか来なくて、そうしたらコズモの牛が……走ってきて。子供をひき殺しそうだったので、助けたんです」
「聞いています」
じゃあなんでそんなに怒ってんのよ!
「シスター・イゾッタ。俺が無理に引き留めたんです。実際、ダリオは掠り傷ひとつ負っていないし、孤児院でもレオンティーナ嬢と顔見知りになって、打ち解ける事ができました」
「公爵」
シスター・イゾッタは元英雄も強気に封印。
「甘やかさないようにお願いします。シスター・ラファエラは神の僕。それを本人も重々自覚しているはずです。教皇ガブリエーレ聖下の姪御さんなのですから」
「……はい。そうです」
なぜかコズモとベルナデッタを守ってあげなきゃという気になって、私はしおらしく返事をしてしまっていた。
「帰りましょう。私用での外泊は認められていませんよ」
「わかりました」
「夕食は抜きです」
「……わかりました。シスター・イゾッタ」
強靭で鋭い枯れ木のような修道院長の後ろについていく。
私は、半泣きでふり返った。ベルナデッタが豊満な胸を挟むように拳を握って、顔を傾けて応援している。コズモは、耐えろ、と言うようにゆっくりと頷いた。
「……」
耐えるわ。
また明日、ランチを頂きに参ります。公爵。
けれど、その目論みは外れた。
「シスター・ラファエラ、あなた若いんだから洗濯をお願い」
「はい。シスター・アルマ」
「シスター・ラファエラ。廊下のランプの油を補充しておいて頂戴」
「はい。シスター・イオランダ」
「シスター・ラファエラ? 聖花用の鋏を知らない?」
「はいはい、シスター・タルクウィニア。さっき温室へ行かれませんでしたか?」
「シスター・ラファエラ!? 声がするけどどこなの!?」
「はぁい!? こっちですよシスター・チェーリア!」
「シスター・ラファエラ? 眼鏡が……」
「よかったら覚えておいてほしいんですけどシスター・ラファエラはひとりです! あと、若いからっていっぺんにいろんな事ができるわけじゃないから、そこも覚えといて!」
もう、老いた修道女たちの雑用係よ。
ここぞとばかりに溜まりに溜まった肉体労働を畳みかけてくるのよ。
「シスター・ラファエラ?」
「なんですか!? シスター・カラビ!」
大量の洗濯籠を担いで蹴ってしながら暗くて寒い通路で叫ぶ。
まったく。忙しくて祈ったのは朝だけよ。
これのどこが祈りの家だっつーのよ。
「シスター・イゾッタがお探しよ」
……。
あ、それ?
ぎくりとした数秒後、通路の向こうの角から、まるで悪魔のように冷たく顔を顰めたシスター・イゾッタがぬっと現れて、私を睨んだ。
「シスター・ラファエラ」
「……はい」
「静かに」
シスター・イゾッタは教皇の姪も一言で封印。
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