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04 癒えない傷跡
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「フ、フレヤ様……っ、どうか……私と共に来て国境を守ってください……!」
「どなた?」
「!」
ズタボロな姿で跪くイルヴァは、汚れた顔で驚きを表す。
「フレヤ様……ッ!」
「ええ、私はフレヤ。あなたは?」
もちろん、知っている。
城下町の酒屋で、新鮮で素朴な頑張り屋の聖女だと日夜アピールしていた。
それに勇者のアバンが引っかかり、骨抜きにされた。
そしてパーティーに入ってきて、私を追い出した。
「……イルヴァです」
悔しいの?
恐いの?
イルヴァは真っ青になって震えている。
「そう。で、何の用?」
「あ……アバン様の使いで参りました。現在、東の国境は魔物と山賊に蹂躙され、悲惨な状況です」
「ではなぜ後方支援すべきあなたがここに? 恰好からして、聖女でしょ?」
「わ、私は……まだ新米で、その……お役に立てないので……」
パーティーを追い出された?
そうだとしても、留飲は下がらない。
アバンが逃がしてあげた?
そうだとしたら、呆れてものも言えない。
「ですから……ッ、希代の聖女であられるフレヤ様のお力が必要です……!」
勇者を誘惑して大先輩の聖女を追い出した女が、よく言う。
さっきのは自分が力不足だからと謙遜したのではなくて、手に負えないと甘えただけだ。アバンの真意がどこにあるかわからないけれど、使える聖女を必要としている状況なのはわかった。
どうでもいい。
私に勝って喜んでいたこの女が、苦しむなら。
ここで笑っていてやる。
「あなた、怪我をしているわね」
「あ……」
イルヴァの姿は酷い物だった。
顔も手も、露出している所は泥だらけの傷だらけ。
敗れた法衣の所々には血が滲んでいる。
跪いたままなのも私への敬意ではなくて、ただ立てないだけでしょ。
「可哀相に」
私は回復魔法をかけた。
けれどそれは、この新米聖女を思いやっての事ではない。
「あ……ありがとうございますッ!」
「消えて。あなたの話は信用できない」
「フレヤ様ッ!?」
立ち上がったイルヴァに背を向ける。
腕を掴まれて、容赦なく叩き落した。
振り返ると、怒りを目に湛える小娘がいた。
「あなたは国の一大事にこんな場所で不貞腐れていて恥ずかしくないのですか!」
「ふっ」
これは、笑っちゃう。
千切れた法衣の裾を掴んで引き寄せ、こちらから睨みつけてやった。
「……っ」
イルヴァは怯えて、忽ち涙を浮かべた。
自分の立場を思い出したようだ。
「あんた、私になんて言った?」
「……」
「勇者様の傍には美しい宝石、可憐な花がいるべきだって、それはあんたなんでしょイルヴァ。その輝きで国を救えばいいのよ」
汚れた頬に涙が伝い、顎からポタリと落ちた。
傷は治せても、汚れは拭えない。
「申し訳……ありませんでした」
「私ではなく、民に謝りなさい。勇者を誑かして腰抜けにしたせいで滅びた村の人たちは、忘れないわ。ふしだらで未熟な聖女イルヴァの御伽噺をね」
突き飛ばすと、イルヴァは簡単に倒れた。
「どうしてもと言うなら陛下の書状を持ってきなさい。決めるのはいつも、あの方よ。私たち聖女じゃなくて」
私を蹴落としたその根性で、イルヴァは走り去った。
「……」
風が呻る。
住処を守る結界の外では、獣が縄張りを守っている。
そのあとは魔物の群だ。
元気な体で、もう一度傷を負えばいい。
アバンを連れてくる?
書状を持ってこれる?
それとも逃げる?
心の傷は癒えないと言うけれど体の傷も痛いでしょ、イルヴァ。
「どなた?」
「!」
ズタボロな姿で跪くイルヴァは、汚れた顔で驚きを表す。
「フレヤ様……ッ!」
「ええ、私はフレヤ。あなたは?」
もちろん、知っている。
城下町の酒屋で、新鮮で素朴な頑張り屋の聖女だと日夜アピールしていた。
それに勇者のアバンが引っかかり、骨抜きにされた。
そしてパーティーに入ってきて、私を追い出した。
「……イルヴァです」
悔しいの?
恐いの?
イルヴァは真っ青になって震えている。
「そう。で、何の用?」
「あ……アバン様の使いで参りました。現在、東の国境は魔物と山賊に蹂躙され、悲惨な状況です」
「ではなぜ後方支援すべきあなたがここに? 恰好からして、聖女でしょ?」
「わ、私は……まだ新米で、その……お役に立てないので……」
パーティーを追い出された?
そうだとしても、留飲は下がらない。
アバンが逃がしてあげた?
そうだとしたら、呆れてものも言えない。
「ですから……ッ、希代の聖女であられるフレヤ様のお力が必要です……!」
勇者を誘惑して大先輩の聖女を追い出した女が、よく言う。
さっきのは自分が力不足だからと謙遜したのではなくて、手に負えないと甘えただけだ。アバンの真意がどこにあるかわからないけれど、使える聖女を必要としている状況なのはわかった。
どうでもいい。
私に勝って喜んでいたこの女が、苦しむなら。
ここで笑っていてやる。
「あなた、怪我をしているわね」
「あ……」
イルヴァの姿は酷い物だった。
顔も手も、露出している所は泥だらけの傷だらけ。
敗れた法衣の所々には血が滲んでいる。
跪いたままなのも私への敬意ではなくて、ただ立てないだけでしょ。
「可哀相に」
私は回復魔法をかけた。
けれどそれは、この新米聖女を思いやっての事ではない。
「あ……ありがとうございますッ!」
「消えて。あなたの話は信用できない」
「フレヤ様ッ!?」
立ち上がったイルヴァに背を向ける。
腕を掴まれて、容赦なく叩き落した。
振り返ると、怒りを目に湛える小娘がいた。
「あなたは国の一大事にこんな場所で不貞腐れていて恥ずかしくないのですか!」
「ふっ」
これは、笑っちゃう。
千切れた法衣の裾を掴んで引き寄せ、こちらから睨みつけてやった。
「……っ」
イルヴァは怯えて、忽ち涙を浮かべた。
自分の立場を思い出したようだ。
「あんた、私になんて言った?」
「……」
「勇者様の傍には美しい宝石、可憐な花がいるべきだって、それはあんたなんでしょイルヴァ。その輝きで国を救えばいいのよ」
汚れた頬に涙が伝い、顎からポタリと落ちた。
傷は治せても、汚れは拭えない。
「申し訳……ありませんでした」
「私ではなく、民に謝りなさい。勇者を誑かして腰抜けにしたせいで滅びた村の人たちは、忘れないわ。ふしだらで未熟な聖女イルヴァの御伽噺をね」
突き飛ばすと、イルヴァは簡単に倒れた。
「どうしてもと言うなら陛下の書状を持ってきなさい。決めるのはいつも、あの方よ。私たち聖女じゃなくて」
私を蹴落としたその根性で、イルヴァは走り去った。
「……」
風が呻る。
住処を守る結界の外では、獣が縄張りを守っている。
そのあとは魔物の群だ。
元気な体で、もう一度傷を負えばいい。
アバンを連れてくる?
書状を持ってこれる?
それとも逃げる?
心の傷は癒えないと言うけれど体の傷も痛いでしょ、イルヴァ。
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