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2 ルイゾン怯える
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それからというもの、彼からは音沙汰ナシ。
当初の結婚予定日が近づいて来た事もあり、父が動いた。
そして久しぶりの対面。
もちろん中間地点ではなく、ティボー伯爵家に招かれた。
それなりの旅路……を労うでもなく、彼は妹の肩を抱いて私と父を迎えた。
ティボー伯爵夫妻はフェリシエンヌの婚家シムノン伯爵家へと赴いているらしい。
「ちょうどいいところへ来てくれましたね、シドニー伯爵。実は折り入ってルイゾンに頼み事があるのです」
「はあ」
父は若干の戸惑いを浮かべながら、紅茶を啜った。
私は、正面からフェリシエンヌに睨まれている。
「妹のフェリシエンヌはこの度、不利な離婚を言い渡されました。打ちひしがれる憐れな我が妹に、できる限りの事をしてやりたいのです」
「まあ、当然ですな」
父はテーブルクロスを見つめている。
「そこで」
「ねえ、マルク」
「!」
私が話を遮って名前を呼ぶと、目の前のフェリシエンヌが剣呑さを増した。
だからなによ。
「私に話したら? 御父上はいらっしゃらないのだし、相手は私よ」
父はテーブルクロスを見つめたまま頷き、紅茶を啜る。
「……」
フェリシエンヌの視線。
離婚は私のせいじゃないというのに、なぜか恨まれている。
こういう義妹ができると思うと、かなり気が重くなった。
「ありがとう、ルイゾン」
彼は意気揚々。
「君には良き姉としてフェリシエンヌを支えてほしい。婿探しを手伝ってくれ」
「えっ?」
な、なんて?
「お兄様のように素敵な方なんて、この世にいるわけがないわ」
「……」
父が静かにカップを置いた。
「どんな相手を連れてこようと無駄。お兄様がいちばんよ」
「あ……ええっ!?」
フェリシエンヌがマルクにしなだれかかり、その手を見つめて持ち上げると、手の甲に音を立ててキスをした。
私たち父娘は絶句です。
いったい、呼びつけられた上、なにを見せられているのか……
「いやぁ、フェリシエンヌは甘えん坊でね。そこのところ、よろしく頼むよ」
「お兄様、この方には無理ですわ。だって、結婚のなんたるかもわからないお子ちゃまですもの」
「……」
あんたの兄と結婚する予定だったのに、滞ってるのよ。
あんたのせいでね!
「ルイゾン、今日のところはもう失礼しよう。今、忙しい時期だから」
「ええ、そうね」
「ああ! やっとお兄様とふたりきりになれるわ!」
「こらこらフェリシエンヌ」
そうよ。
失礼だわ!
兄としてガツンと言ってやりなさいマルク!
「まだ1時間も経ってないじゃないか」
そっちかい!!
「では」
父が立ちあがる。
私も立って、マルクが立ち上がろうとして、フェリシエンヌが引き留めた。
なぜかしら……虫唾が走るわ……
「あははは、失礼。シドニー伯爵、妹の傍にいてやりたいので、お見送りできない無礼をどうかお許しください」
「結構ですとも。行こう、ルイゾン」
父と並んで足早に部屋を出た瞬間、フェリシエンヌが燥ぎ声をあげた。
「……」
どっと、疲れが押し寄せる。
執事に見送られ馬車に乗り込み、帰路につくと、私は父の腕を掴んで震えた。
「なんだか気持ちが悪い兄妹だわ」
「まったくだ」
「あんな男と結婚するなんて嫌よ」
「わかっている。可愛いお前をあんな家にやるものか。この縁談はナシだ」
「ありがとう」
「あとは任せなさい」
悍ましいティボー伯爵家から逃げるように、馬車が速度をあげた。
察しのいい御者に感謝だ。
当初の結婚予定日が近づいて来た事もあり、父が動いた。
そして久しぶりの対面。
もちろん中間地点ではなく、ティボー伯爵家に招かれた。
それなりの旅路……を労うでもなく、彼は妹の肩を抱いて私と父を迎えた。
ティボー伯爵夫妻はフェリシエンヌの婚家シムノン伯爵家へと赴いているらしい。
「ちょうどいいところへ来てくれましたね、シドニー伯爵。実は折り入ってルイゾンに頼み事があるのです」
「はあ」
父は若干の戸惑いを浮かべながら、紅茶を啜った。
私は、正面からフェリシエンヌに睨まれている。
「妹のフェリシエンヌはこの度、不利な離婚を言い渡されました。打ちひしがれる憐れな我が妹に、できる限りの事をしてやりたいのです」
「まあ、当然ですな」
父はテーブルクロスを見つめている。
「そこで」
「ねえ、マルク」
「!」
私が話を遮って名前を呼ぶと、目の前のフェリシエンヌが剣呑さを増した。
だからなによ。
「私に話したら? 御父上はいらっしゃらないのだし、相手は私よ」
父はテーブルクロスを見つめたまま頷き、紅茶を啜る。
「……」
フェリシエンヌの視線。
離婚は私のせいじゃないというのに、なぜか恨まれている。
こういう義妹ができると思うと、かなり気が重くなった。
「ありがとう、ルイゾン」
彼は意気揚々。
「君には良き姉としてフェリシエンヌを支えてほしい。婿探しを手伝ってくれ」
「えっ?」
な、なんて?
「お兄様のように素敵な方なんて、この世にいるわけがないわ」
「……」
父が静かにカップを置いた。
「どんな相手を連れてこようと無駄。お兄様がいちばんよ」
「あ……ええっ!?」
フェリシエンヌがマルクにしなだれかかり、その手を見つめて持ち上げると、手の甲に音を立ててキスをした。
私たち父娘は絶句です。
いったい、呼びつけられた上、なにを見せられているのか……
「いやぁ、フェリシエンヌは甘えん坊でね。そこのところ、よろしく頼むよ」
「お兄様、この方には無理ですわ。だって、結婚のなんたるかもわからないお子ちゃまですもの」
「……」
あんたの兄と結婚する予定だったのに、滞ってるのよ。
あんたのせいでね!
「ルイゾン、今日のところはもう失礼しよう。今、忙しい時期だから」
「ええ、そうね」
「ああ! やっとお兄様とふたりきりになれるわ!」
「こらこらフェリシエンヌ」
そうよ。
失礼だわ!
兄としてガツンと言ってやりなさいマルク!
「まだ1時間も経ってないじゃないか」
そっちかい!!
「では」
父が立ちあがる。
私も立って、マルクが立ち上がろうとして、フェリシエンヌが引き留めた。
なぜかしら……虫唾が走るわ……
「あははは、失礼。シドニー伯爵、妹の傍にいてやりたいので、お見送りできない無礼をどうかお許しください」
「結構ですとも。行こう、ルイゾン」
父と並んで足早に部屋を出た瞬間、フェリシエンヌが燥ぎ声をあげた。
「……」
どっと、疲れが押し寄せる。
執事に見送られ馬車に乗り込み、帰路につくと、私は父の腕を掴んで震えた。
「なんだか気持ちが悪い兄妹だわ」
「まったくだ」
「あんな男と結婚するなんて嫌よ」
「わかっている。可愛いお前をあんな家にやるものか。この縁談はナシだ」
「ありがとう」
「あとは任せなさい」
悍ましいティボー伯爵家から逃げるように、馬車が速度をあげた。
察しのいい御者に感謝だ。
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