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9 ハッピーエンド

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「お前、魚屋とか花屋とか肉屋とか靴屋とかの娘じゃないの?」

「はい。私ドーガ伯爵令嬢です」

「ここでなにしてんの?」


 あ。
 なるほど。

 そりゃそうだ。

 ハンスも変な人だけど、私もけっこう、道を踏み外してたんだった。
 私は簡潔に自分の状況を説明した。その間、ハンスは親身になって、うんうんと相槌を打ちながら真剣に話を聞いてくれた。

 そして、しんみりとこう呟いた。


「お前……可哀相な子だったんだな。できた妹のせいで」

 
 それは聞き捨てならない。


「ちょっと、やめてくださいよ! 婚約破棄されたからって凹みませんよ!? そんな暇ありませんから! あとっ、妹に婚約者を奪われたとか誤解ですから!!」


 その時だ。


 ド ゴ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ン ッ !!


「!?」

「!」


 壁に穴が空いたので、私とハンスはひしっと互いを抱きあって怯えた。

 空いた穴からは、太い鎖の先にトゲトゲの鉄球がついた凶器を携えて冷酷な目をした妹シェスティンが煙とともに現れた。旅行用ドレスのままで。


「私の幼気なお姉様を誑かしてさらってイケナイ事しようってゲスいクソ野郎はどこのどいつでいらっしゃいますかぁ~?」

「……」


 今までにない展開。


「あ。あなたでしたかぁ……ハァンス」


 妹の顔が、憤怒に歪む。
 そして野太い叫びとともに鎖をジャリっと引き寄せた。


「レーヴクヴィストォォォォォォォッ!!」

「!」


 刹那。
 ハンスがスッと妹の間近に迫り、なにかをパッと囁いた。


「!」

「!?」


 妹が、正気に戻った。


「そっ、そっ、そっ、それは……本当なんですの……ッ!?」

「?」


 なんだろう。
 妹が、興奮している。

 そして、妹は上機嫌で、ハンスに笑顔で手まで振ってすんなり去っていった。
 壁の穴を残して。


「な、なにを言ったの?」


 あの妹をいともあっさり退けるなんて、この男……只者じゃない!!


「うん? ちっちゃくて可愛い令息を紹介してやるって」

「……」


 あ。
 そゆこと。


「……」


 私の妹って、そういうヘキの人だったんだ……
 あ、なるほどなるほど……

 そういえば、母の結婚相手つまり私の父ってチ────


「リナ」

「?」


 ふいにハンスが、うっとりするような真摯な声で私を呼んだ。
 そして私の前に跪き、跪いて、改まって言ったのだ。

 
「俺と結婚してください」

「……!」


 こうして私は無事に結婚した。
 ノリがよくて、ちょっと変だけどイケメンな、優しいハンスと。

 妹も結婚した。
 ジャスティスっていう、小柄で可愛らしい、お人好しっぽい、童顔な伯爵と。
 幸せそうな彼女を見ていると、嬉しいのに、どこか寂しいような、切ないような……ふしぎな気持ちになった。


「卒業しても、ずっとずぅ~っと愛していますわ! お姉様ぁ~っ!!」

「卒業?」


 ま、いっか。
 私には、私だけを愛してくれる夫がいるし、みんな幸せで、ハッピーハッピー♪



                                 (終)
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