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5 プロポーズ

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 アレンが微笑んだ。
 蕩けるような笑顔はまるで花が開いたように美しい。なにこの人……


「ルシンダ。嬉しいよ。ねえ、僕が君に昨夜言った事はどれも本当の事なんだ。君は優しくて、可愛くて、それに勇気があって面白くて……これは言ってないけど。とにかく、君は完璧なんだ。ずっと一緒にいたい」

「……そう」


 つい、相槌を打ってしまった。
 それもアレンは目を細めて笑ってくれる。すごく優しい笑顔に、心の緊張が解けていった。でも、ドキドキはおさまらない。

 なにがどうなっているの……?
 なんだって言うのよ……!


「そうだよ。ルシンダ、まだ会ったばかりだけど君が大好きだ。君は?」

「そうね……」


 言っていいの? 
 本当の、気持ちを。

 ──愛のキューピッドだなっ。むふっ♪

 バージル卿の笑顔が脳裏に弾ける。私は確信した。
 OKだ。


「あなたが好き」

「本当? 嬉しいよ。ああ、ルシンダ。君に出会えて本当に幸せだ。抱きしめてもいい?」

「ええ」


 朝の廊下で、アレンは私をぎゅっと抱きしめた。
 私も彼の背中に手を回して、広い背中をぎゅっと抱いた。

 
「……」


 ふしぎだった。
 とても正しい事のように感じる。

 私たちはこうなるべきだった。これは運命だ。

 さようなら。
 そしてありがとう、ハワード・ウォーターズ。セシリア嬢とお幸せに。


「ルシンダ。今すぐ君にキスしたい気持ちだけど、大切な初めてのキスを廊下でする事について意見を聞かせてもらえる?」

「あなたとなら時間も場所も関係ないけど、せっかくならふたりきりになれる場所がいいかもね」

「そうだね。じゃあ行こう」


 抱擁を解いて、アレンが私の手をひいて歩きだした。
 どこに行こうとしているのか、なんとなくわかっていた。お屋敷を出てあの花壇に向かっている。私たちが出会った、薔薇の前に。

 朝日の中、美しい深紅の薔薇が咲き誇っている。
 私たちはお喋りしながら花園へ進んでいった。まだまだお互いに知らない事だらけで、ひとつずつ知るのがとても嬉しい。例えば誕生日や、子供の頃のあだ名とか。

 彼が立ち止まって私と向き合った時には、すっかり心が落ち着いていた。
 それは夢が醒めるような感じとは違って、熱いときめきと安堵を残して、清々しさに満ちていた。

 たしかな道が拓けたのだ。
 愛しあい、共に歩む道が。


「ルシンダ」

「アレン」


 互いに名前を呼び合うと、アレンの手がそっと頬に添えられる。
 優しくて甘い、初めてのキス。私は目を閉じて、胸いっぱいの幸せを噛み締めた。


 そして、キスのあとは……


「ルシンダ・レイク。僕と結婚してくれますか?」


 答えは決まっている。


「はい。喜んで」


 私たちはどちらともなく、またキスをした。
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