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3 驚かないで

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 彼の下の娘カトリナが喘息ぎみだと聞いていたので、郊外で指輪と髪留めを売り、薬師を経由して薬を買い、彼に渡した。彼は目を見開いて驚いていた。


「ええっ!? おっ、覚えてくださっていたなんて……!」

「一度聞いた事は忘れない。名前も忘れない。あの子はカトリナ」

「……奥方様……ッ!」

「もう奥方じゃない」

「……」

「私はエーディットよ」

「エーディット様! そうだ、エーディット様だ! すみません、覚えていましたが、あ、あ、頭が真っ白で出て来なくって」

「落ち着いて。手綱を握っているあなたが取り乱していると、動揺する。もう驚かせたくないから先に言っておくけど、あなたの上のお嬢さんはフェベで奥さんはエマ、エマが抱えている元気な坊やはティモテス、そしてあなたはペペイン・ヴィンテルよ。改めてよろしく、ぺペイン」

「は……ハイッ! よろしくお願いします!!」


 道を指示するため、私は彼と並んで御者席に座っている。
 

「あの特別高い木の手前で右へ行って。野生のクマがいるけどこの時期は餌が豊富で日中はのんびり惰眠を貪っているから森を駆け抜ければ危険はないわ」

「了解です、エーディット様!」


 そんな話をして親睦を深めながら、第一日目の宿となるカハール子爵家についた。


「へっ!? エッ、エーディット様ッ!?」

「ごきげんよう。突然の訪問ごめんなさい」

「いいえ……! どっ、どうなさったんですか!?」

「小賢しいからという理由で離婚を叩きつけられて急遽実家へ帰るところ。着の身着のままで指輪を売って貸馬車屋の一家を雇ったの。今夜、彼らも含めて泊めていただけたら本当にありがたい」

「……」


 カハール子爵は亡き父の教え子のひとりであるドミンケス伯爵の家臣でこの地域一帯を管理している。私も子供の頃から父の地質調査団で顔を合わせてきた、旧知の間柄だ。
 

「離婚なさったんですか?」

「そう」

「では、あなたの身元を引き受けるのは、現在のフェルフーフェン伯爵?」

「当然、そう」

「どうぞお入りください! 狭いところですが我が家と思ってお寛ぎください! そして、なんなりとお申し付けください!!」

「本当にありがとう」

「おかえりなさいませッ!!」


 父の件があって、降って湧いたバッケル伯爵からの求婚をこれ幸いと受けてしまってから、私たちは少しギクシャクしていた。それはカハール子爵だけではない。2日目と3日目の宿となったドミンケス子爵、4日目の宿となったアマージャ子爵、5日目の宿となったタバレス伯爵もそう。
 余談だけれど、タバレス伯爵から一筆書いてもらって、父とはあまり交流のないビラリーニョ伯爵領の端っこを横断してかなり近道する事ができた。そして同伯領のロメロ子爵家に泊まった。

 7日目、生家に到着。


「エーディット……!」

「お久しぶり、お兄様」

「お、おう。どうした?」

「離婚した」

「えっ!?」
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