妹が最優先という事で婚約破棄なさいましたよね? 復縁なんてお断りよッ!!

百谷シカ

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8 エグバート卿、現る。

「アデル? 私はちょっと出かけてくるけど、その間も遠慮なくロイを口説きなさい? ふたりきりのほうが集中できるでしょう? 私の目を気にしているようだけど、はしたないなんて思いませんからね」

「いってらっしゃいませ」


 まあ、私が気にしているのは、どちらかと言うとクィンシーの視線。
 肖像画の。


「はぁ」


 こちらの気も知らずに、ガンガン押してくるゾーン公爵夫人。
 一流の令嬢に育ててくれた事は、感謝してもしきれないほど感謝している。
 でも、無理なものは無理なのだ。


「アデル。今夜は君の好きな鴨のソテーだ」

「ええ、嬉しいわ」


 ロイは私を、大きすぎる娘か、せいぜい姪くらいに思っている。
 大切にしてくれている。
 この10ヶ月、全力を注いで私を売り込んでいる。

 彼にも感謝しても、しきれない。

 だとしても、気持ちに嘘はつけない。
 彼の顔を見るだけで、言葉を交わすだけで、私は、幸せになってしまう。


「なんというか、私、自分の希望ってそこまでないみたい。おかしな人でなければいいわ。それに、まあ、私より妹を優先しない人ね」


 鴨のソテーにソースを塗りつけながら、私は朗らかに伝えた。
 ロイが微笑む。


「まだ19才だ。焦る事はない。いい結婚相手を見つけよう」

「そうね」


 ロイは私の結婚に躍起になっている。
 かつて、自分の10人の妹の結婚にかまけて私との婚約を破棄した、エグバート卿を思い出した。

 彼が私を手放してくれた事がきっかけで、私はロイと言葉を交わし、友情という絆を結べた。それに、エグバート卿はするべき事をしたのだ。それが婚約者を蔑ろにする理由にはならないと思うけれど、ロイの10倍、ロイのように奔走していたという事を考慮しなければいけない。

 とか、そんな殊勝な事を考えたのが、いけなかったのか……


「アデル!」

「はっ!?」


 エグバート卿が沸いて出た。


「どっ、どうしてここに!?」


 ここはメイスフィールド伯爵家。
 しれっと出没するなんて、ありえないのに。


「ちょうどフィリスの結婚式の帰り道だったんだよ」

「そ、そう。おめでとう」

「ああ。これでやっと肩の荷が下りた」


 すっきりした顔をしている。
 まあ、大仕事だったとは思う。

 でも、自分が破棄した婚約の、棄てた元婚約者に対して、言う事?


「それで、どうしてここにいるの?」

「だから、フィリスの結婚式の帰り道で」

「じゃなくて、どうやって屋敷に入り込んだのかって訊いてるの」


 エグバート卿が怪訝そうに首を傾げる。


「普通に、門番が開けてくれた」

「なぜ」

「さあ。彼は使用人だし、私は伯爵だからだろう」

「ロイは許さないわ」


 エグバート卿はやれやれというふうに、肩を竦めて首を振った。


「だとしたら使用人の躾が下手なのだろうね」

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