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12 愛を知らない不幸な男
「……は?」
エグバート卿は頬を押さえ、凝然と私を見つめている。
「ふたりは愛しあって結ばれたの。今も愛しあっているのよ。あなたは愚かで、可哀相な人だわ。愛という感情があるという事を知らないのね」
私は泣きながら笑っていた。
「あなたに相応しくなくて嬉しいわ。あなたと結婚しなくて本当によかった。だけどそれは、あなたが私を妻として大切にしないからではないのよ。あなたが、愛を知らない人だから」
「君、ついに狂ったのか?」
「なんとでも言って」
私はくるりと背を向けて、ロイの元に向かった。
そして膝をついて頭を垂れた。
「元婚約者クライトン伯爵に代わってお詫び致します」
「ア、デル……」
「御屋敷に上がり込み、騒ぎ、そして奥様を侮辱するような発言を繰り返し、本当に申し訳ありませんでした。申し訳……ありませんでした…ッ」
涙が溢れて、声が震える。
ロイが膝をつき、私の両肩を支えてくれた。
その指の力が、意外なほど、強い。
「こんな……君を、泣かせてしまうなんて……」
「もうしわけ」
「やめてくれ。アデル、君が謝る事ではないだろう?」
ロイの声も震えている。
そして、躊躇うように私の頭を広い胸に抱き込んだ。
「なるほど。メイスフィールド伯爵をたらし込むのには成功していたわけだ。それなら私の求婚を断る気持ちもわかる」
エグバート卿の口を塞げるなら、悪魔に魂を売っても構わない。
消えてほしい。
「アデル、耳を塞いでいなさい」
「……?」
ロイは泣きそうな微笑みを浮かべてそう言うと、立ち上がり、エグバート卿のほうへと歩いて行った。私は膝をついたままその背中を見あげ、耳を塞いだ。
ロイが、なにか伝えている。
エグバート卿はそれを、目を丸くして聞いている。
そして、血相を変えた。
「ロイ!」
私は駆け寄っていた。
エグバート卿がロイに掴みかかろうとしていたから。
でも、間一髪のところで執事と従僕と若いコックが間に合って、エグバート卿を抑え込んだ。
「はっ、放せ!! お前たち、私が誰かわかっているのかッ!?」
「不法侵入なさったクライトン伯爵ですね。御主人様、御指示を」
「つまみ出せ」
ロイが執事たちに、冷酷に言い放つ。
「くそ! アデル! この淫乱な魔女め!」
エグバート卿が引き摺られながら吠えた。
ロイが私に寄り添って、そっと手を添えてくれる。
だから、真に受ける事はない。
あんな言葉には、傷つかない。
でも。
「覚えておくんだな! たとえその伯爵と結婚できたとしても、君は後継ぎを産む家畜だ! それに愛とやらがあるとすれば、それは君じゃなく死んだ奥方のものだ! ざまあみろ!!」
エグバート卿はとどめの刺し方を、心得ていた。
エグバート卿は頬を押さえ、凝然と私を見つめている。
「ふたりは愛しあって結ばれたの。今も愛しあっているのよ。あなたは愚かで、可哀相な人だわ。愛という感情があるという事を知らないのね」
私は泣きながら笑っていた。
「あなたに相応しくなくて嬉しいわ。あなたと結婚しなくて本当によかった。だけどそれは、あなたが私を妻として大切にしないからではないのよ。あなたが、愛を知らない人だから」
「君、ついに狂ったのか?」
「なんとでも言って」
私はくるりと背を向けて、ロイの元に向かった。
そして膝をついて頭を垂れた。
「元婚約者クライトン伯爵に代わってお詫び致します」
「ア、デル……」
「御屋敷に上がり込み、騒ぎ、そして奥様を侮辱するような発言を繰り返し、本当に申し訳ありませんでした。申し訳……ありませんでした…ッ」
涙が溢れて、声が震える。
ロイが膝をつき、私の両肩を支えてくれた。
その指の力が、意外なほど、強い。
「こんな……君を、泣かせてしまうなんて……」
「もうしわけ」
「やめてくれ。アデル、君が謝る事ではないだろう?」
ロイの声も震えている。
そして、躊躇うように私の頭を広い胸に抱き込んだ。
「なるほど。メイスフィールド伯爵をたらし込むのには成功していたわけだ。それなら私の求婚を断る気持ちもわかる」
エグバート卿の口を塞げるなら、悪魔に魂を売っても構わない。
消えてほしい。
「アデル、耳を塞いでいなさい」
「……?」
ロイは泣きそうな微笑みを浮かべてそう言うと、立ち上がり、エグバート卿のほうへと歩いて行った。私は膝をついたままその背中を見あげ、耳を塞いだ。
ロイが、なにか伝えている。
エグバート卿はそれを、目を丸くして聞いている。
そして、血相を変えた。
「ロイ!」
私は駆け寄っていた。
エグバート卿がロイに掴みかかろうとしていたから。
でも、間一髪のところで執事と従僕と若いコックが間に合って、エグバート卿を抑え込んだ。
「はっ、放せ!! お前たち、私が誰かわかっているのかッ!?」
「不法侵入なさったクライトン伯爵ですね。御主人様、御指示を」
「つまみ出せ」
ロイが執事たちに、冷酷に言い放つ。
「くそ! アデル! この淫乱な魔女め!」
エグバート卿が引き摺られながら吠えた。
ロイが私に寄り添って、そっと手を添えてくれる。
だから、真に受ける事はない。
あんな言葉には、傷つかない。
でも。
「覚えておくんだな! たとえその伯爵と結婚できたとしても、君は後継ぎを産む家畜だ! それに愛とやらがあるとすれば、それは君じゃなく死んだ奥方のものだ! ざまあみろ!!」
エグバート卿はとどめの刺し方を、心得ていた。
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