妹のせいで婚約破棄になりました。が、今や妹は金をせびり、元婚約者が復縁を迫ります。

百谷シカ

文字の大きさ
24 / 28

24 嵐のあと

しおりを挟む
 嵐が来た。
 毎年の事なので、ドルイユに住む誰もがやり過ごし方を心得ている。

 作物は丘の上でたっぷりと備蓄し、被害によっては配布し、必要がなければデュモンの手で輸出され、交易品か富となって返ってくるので安心だ。
 輸入という方法もあるので、領民が飢える事はまずない。

 灰色の空、雷鳴、雨音。
 嵐はこの時期、2度通り過ぎる。そのあとでデュモンは大海へ赴く。
 今年は少しだけ、気持ちの変化があった。求婚のせいだ。

 一昼夜降り続いた雨が、明け方にかけて弱まり、小雨になった。
 
 今日は晴れる。
 そう知っている私は、いつもと同じように窓の外を眺めた。丘の下に広がる町並みに大きな被害は見受けられない。ひとまずは安心だ。


「……」


 違和感を覚えた。

 人が出ている。
 麦の粒ほどの大きさで、当然、何処の誰かまでは判別できない。
 けれど、嵐の過ぎた朝早くに人が出る事はあまりない。なにか問題や心配事があるのだろうか。私は気になって、書斎の窓から双眼鏡を構え、覗き込んだ。


「……!」


 ぞわりと、肌が粟立つ。

 ドルイユの人間ではなかった。
 町の様子を窺うようにして出歩いている数人の男性は皆、同じ甲冑に身を包んでいる。憲兵ではない。

 

 心臓が跳ね上がり、私は一度、双眼鏡を下ろした。
 初めての事態に一瞬だけ頭が真っ白になる。

 けれど、すぐに覚悟は決まった。
 私がこのドルイユを守るのだと。

 再び双眼鏡を構えると、丘を駆けあがってくる馬が見えた。デュモンだ。
 私は執事のセシャンを起こし、使用人への伝達を指示した。私は武術の心得はない。けれど、このドルイユに攻め込めばなにを敵に回すかは相手も理解しているはずだ。

 
「……ベルト」


 彼女の顔が浮かび、玄関広間に走った。
 ちょうどデュモンが着いて、彼を招き入れる。全身を小雨にしっとりと濡らし、彼は厳しい顔つきで言った。


「ここを出ないでください。俺が片付ける」


 断固とした口調には、いつもの飄々とした彼の余裕が感じられない。


「なにが起きているの?」

「嵐が通り過ぎるのを待ってどこかの小連隊が侵入してきたんです。幸い、町の全員が嵐に備えて戸も窓も塞いでいる。出る前に外を覗くはずだから、よほどの馬鹿じゃなきゃ身を潜めていますよ」

「追い出さないと」

「わかってる。でも、あなたはここにいてください」


 彼は本気だった。
 でも、私も本気だった。


「そうはいかないわ。私は領主なのよ」

「あなたにはなにもできない」

「私は、なにもしないわけにはいかないの。下へ連れて行って」

「……」


 デュモンが口を噤んだ。
 黙り込んでいる時間も惜しい。私は彼の胸に触れ、鋭い目を覗き込んだ。


「ねえ、ベルトは大丈夫?」

「ああ、じっとしてますよ」

「妊婦仲間が6人くらいいたでしょう? 彼女たちにも、なにもないといいけど」

「まだ数人が偵察に入っているだけです。奴らを上手くまいて、妊婦たちはここへ連れて来ましょうか。家はずぶ濡れで火をかけられる心配はないでしょうが、他所の兵士が走り回ってるのを見てショックを受けても医者を呼べなくちゃ危ない」

「彼女たちと子供たちを最優先に守らないと」

「わかりました。ここにいてくださいよ」

「嫌よ」

「プリンセス」


 彼の声は静かだった。
 けれど、私の腕を掴む手の力は、強い。

 だから私も彼の腕を掴んで、揺すって、彼の目を見つめた。


「違う。私はレディ・ドルイユ。力になって」


 逡巡のあと、デュモンは小さく頷いて風のように出て行った。
 
 呼吸を整える。
 甲冑はないけれど、馬がある。ドルイユの馬は、雨に慣れている。

 負けるわけにはいかない。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

不倫した妹の頭がおかしすぎて家族で呆れる「夫のせいで彼に捨てられた」妹は断絶して子供は家族で育てることに

佐藤 美奈
恋愛
ネコのように愛らしい顔立ちの妹のアメリア令嬢が突然実家に帰って来た。 赤ちゃんのようにギャーギャー泣き叫んで夫のオリバーがひどいと主張するのです。 家族でなだめて話を聞いてみると妹の頭が徐々におかしいことに気がついてくる。 アメリアとオリバーは幼馴染で1年前に結婚をして子供のミアという女の子がいます。 不倫していたアメリアとオリバーの離婚は決定したが、その子供がどちらで引き取るのか揉めたらしい。 不倫相手は夫の弟のフレディだと告白された時は家族で平常心を失って天国に行きそうになる。 夫のオリバーも不倫相手の弟フレディもミアは自分の子供だと全力で主張します。 そして検査した結果はオリバーの子供でもフレディのどちらの子供でもなかった。

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

処理中です...