厚かましい妹の言掛りがウザ……酷いので、家族総出でお仕置きしてみた。

百谷シカ

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8 泣いたアルヴィン卿

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 妹以外そこにアルヴィン卿が潜んでいると承知の上だったのに、驚いた。
 それはもう猛威をふるう妹に釘付けになっていたものだから、ばっちり。

 母に至っては、たぶん忘れていて本気で驚いている。
 不整脈でも起こしそうなほど顔色が悪い。心配。


「エヴェリーナ!!」


 アルヴィン卿が涙ながらに妹の名を叫んだ。


「……」


 妹は、ポカンとしてる。
 あまりの事に完全に無になっている。

 たしかに、驚きの美貌だわ。
 黙っていれば、本当に奇跡の美貌なのに。


「君がそんな人間だとは思わなかったッ!!」


 アルヴィン卿は拳を震わせて、号泣。

 やってよかった。
 本心からそう実感した。

 私はふらふらとした感じを装って、椅子に座った。
 ディーンが泣いたアルヴィン卿に釘付けなまま、テーブルの上で私の手をそっと握った。


「なんて心の醜い人間なんだ! 君に心はあるのか!? こんなにあたたかなパーティーを開いてもらったのに、なぜそんな酷い事ばかり言えるんだ! 私には君がわからない! もうわからないよ!!」

「……」


 誰も口を挟めない。
 とりあえず母も座った。


「私をなんだと思っているんだ!? 君の魔法の杖かなにかか!? 違うッ!! 私はアルヴィン・クーパーだ!!」


 それはわかってる。
 大変。取り乱しているんだわ。


「アルヴィ──」

「私はッ!」

 
 口は挟めない。
 私は諦めてじっと観察する事に決めた。

 アルヴィン卿は拳を震わせて号泣しつつ、肩幅に足を開いて腰を据えて、妹に想いの丈をぶつけにかかる構えだ。


「君を愛していた!! だが君は……君はッ、その悪魔のような心を隠し、純真な令嬢を装っていた!! 私の愛したエヴェリーナは幻だ! 虚像だよ!! 君は私を騙したんだ!!」


 そうよ。
 いい感じ。

 ただ、滂沱の涙が……ちょっと心配。


「私の心は壊れてしまった!」


 ああ、壊れちゃったわ。


「君と結婚するなんてできない! 私には、君を愛する事ができないよ!!」

「アルヴィン様……」


 やっと妹が反応した。


「婚約は破棄させてもらう!!」

「……!」


 妹が覚醒。

 私たちの心は喝采をあげた。
 きっと、絶対、みんな同じ喜びを噛み締めている。絶対そう。

 妹が狼狽えている。そんな姿、初めて見る。


「アルヴィン様……これは、これは罠です!!」

「馬鹿を言うなッ!!」

「!」


 アルヴィン卿が吠えた。
 みんなびっくりした。


「みんな君を喜ばせるためにした事だ! 彼らは私の大切な友人だ! 君は友人を傷つけた!! 君は……サプライズの意味がわからない人だ。喜ばないなら仕方ない。だが喜ばないのと君の反応とでは桁が違う。君は……君はッ!」

「……」

 
 なに。
 なんて言うの。

 泣き喚くアルヴィン卿が次になにを言うか、凝視して待っちゃう。


「神にでもなったつもりか!!」


 なるほど。そっちね。


「貢ぎ物!? 君には愛が必要ないんだ。君が愛だと思っているものは崇拝だ! 崇拝は愛じゃないんだ!! そして神の愛も君には届かないッ!!」


 方向が謎。


「君は地獄の魔女だ!! 人を喰う魔女さ! 君と関わる人間は魂を喰らわれて、ボロボロになるまで碾臼ひきうすのように磨り潰されて精魂尽き果てて生きた屍になるだけだ!!」


 すごい。
 的確な場所に戻って来た。


「そして絶望のうちに死ぬ」


 言ったわ。
 素晴らしい着地。


「君と結婚したら私は死ぬ! 私の家族も領民も君の餌食にはさせない! これ以上君と同じ空気を吸うのも嫌だ! 穢れるッ!! 君との事を頭から消し去りたいよ! 君を忘れたい!!」

「アルヴィン様……っ」


 妹がうるうるし始めたけれど、涙の量からしてアルヴィン卿に完敗してるから歯が立たない。


「しっかりしてください……! 私を思い出して……っ!」

「黙れッ!!」


 アルヴィン卿は止まらない。


「君とは絶対結婚しないッ! 婚約は破棄だ!! さようならオーベリソン伯爵!」

「はっ、はい!」


 急にふられて父があたふた。
 妹が父を睨んだけれど、もう無駄。後戻りはできない。誰も。

 そしてアルヴィン卿は涙でぐちゃぐちゃな顔をディーンに向けて


「さらば友よ!」

 
 と叫んで、大股で退室するかに見せかけて戸口でふり返り、


「!」


 妹が嬉々と反応するものの、


「レディ・カルロッテと末永く幸せにッ!! 彼女は素晴らしい女性だァッ!!」


 とディーンに言い残してついに去った。


「…………」


 静寂だけが残された。
 私たちは恐らく、誰が口火を切るのか待っていたのだと思う。

 そして妹以外は喜びを顔に出さないよう、細心の注意を払って耐えていた。
 歓喜を。

 歓喜を!!

 私たちはついに勝利したのだ。
 エヴェリーナという碾臼に魔女に!


「どういう事?」


 妹が呟いた。
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