厚かましい妹の言掛りがウザ……酷いので、家族総出でお仕置きしてみた。

百谷シカ

文字の大きさ
9 / 13

9 汚名

しおりを挟む
「性格ブスとは結婚したくないって」


 とりあえず、事実を伝えてみる。


「……………………」


 妹は長い沈黙を挟んでから醜悪に顔を歪め、いつものように私を睨んだ。


「はあっ!?」

「私に文句言っても無駄だと思うけど。アルヴィン卿の気持ちは、もう誰にも変えられない」

「嵌めたわねッ!?」


 妹がテーブルに放置されていたナイフを掴んだ。
 そのままテーブルを回ってこちらに向かって来る間、憤怒に満ちた恐ろしい美貌で私を睨み続けていた。

 すっとディーンが立ちあがり、私を庇う。


「俺の大切なカルロッテに手を出すな」

「どきなさいよ!」

「彼女を傷つける事は、今後、生涯を通して絶対に許さない」


 ナイフを握る妹の手首を、ディーンが握り込む。
 細い手首が大きな手に埋まる様は見ていて……胸が痛むかと思ったけれど、意外と壮観。いい気味だわ。


「あんた……頭がおかしいんじゃない!? 誰を敵に回したかわかってる!?」

「性格ブスなオーベリソン伯爵令嬢。傷物のほうの」

「キイイィィィィッ!!」


 怒声というか、ついに妹が奇声を……


「ふっ」


 だめ。
 笑いが……耐えられない……っ!


「笑ってんじゃないわよクソがぁっ!」

「口を慎め。俺の愛するカルロッテをこれ以上侮辱するな」

「はあっ!? 侮辱!? ほんとの事でしょう!?」

「君の世界は歪んでいるな」

「馬鹿言わないで! 歪んでいるのは御自分の目ん玉じゃなくって!? 私を目の前にしてそんなつまんない女を庇うんだからね!!」

「カルロッテはつまらなくない」


 父が突然フォローに入る。
 妹が父を睨んで呻った。


「なんなの……?」


 そして母を睨む。


「あんたも? あんたも私より、自分が産んだ自分に似た容姿の姉のほうがいいって言うわけ?」

「……エヴェリーナ……」


 母は今にも泣き出しそうな顔で弱々しく首を振った。
 妹が一瞬ほくそ笑む。

 けれど……


「誰も、姉妹を比べているわけではないのよ。ただカルロッテが好きで、あなたが嫌いなの」

「な……っ!?」


 母は泣き笑いのような顔をだんだんと晴れやかなものに変えていく。
 妹は憤怒と絶望で、言いようのない醜い顔に変わっていく。美しはずなんだけど、もう中身の醜さが溢れちゃって溢れちゃって止まらなくて、美貌とか関係なくなっている。

 アメージング。


「シーヴ伯爵……ディーン。迷惑をかけてしまい、申し訳なかったが、娘の事は今後きちんとこの私が責任を持って監視する」

「はあっ!?」

「カルロッテを頼む。幸せにしてやってくれ」

「ちょっと! 勝手に話進めんじゃないわよ!!」

「ディルロッテ万歳」


 父は涙ぐんでなんとなく感動している。


「オーベリソン伯爵……義父さん!」


 ディーンも乗っちゃった。
 相変わらずナイフを握って呻っている妹の手首を、ディーンが慎重に父に引渡した。

 刹那。


「キイイィッ!」

「!」


 妹が父の手を逃れ、


「うああああっ! ぐあああああッ! ふざけんなクソ◎△$×¥●&%#?! ▲☆=¥!>♂×&◎♯£!! ○×△☆♯♭●□▲★※!!」

「──」


 とても人間業とは思えない様子でたぶん罵詈雑言を喚き散らしながら、家具を手あたり次第になぎ倒し、ナイフで壁やら窓やらカーテンやらを破壊しつつ、仕上げに怯える母を蹴り倒して飛び出していった。

 凄かった。


「きゃっ」

「お前!」


 倒れかけた母を父がナイスにキャッチ。
 それよりも妹をしっかりキャッチしていてほしかったけど、まあ、いいわ。


「どうするんです。監禁しますか?」


 ディーンが物騒な事を言うので、私は軽く腕を叩いて窘めた。


「いや。自力で生きていけるような出来た人間じゃあないので、せいぜい家で暴れる程度でしょう」


 父が穏やかに返す。


「あなたひとりに重荷を背負わせるわけにはいかない」

「いいのです。幸せなディルロッテはもうエヴェリーナに関わってはいけない」


 もうひとつはカルローンだったなって、ふと思い出した。

 なぜかしら。
 インパクトに欠ける?

 息子が生まれたら……。そうだ。ポニーの名前にしてもいいわ。私たちふたりで愛でるポニーのカルローン。将来こどもたちに揶揄われそうだけれど、両親が仲いいと嬉しいものだもの。いいわよね。


「幸せそうね」


 母が微笑んだ。
 微笑んだ母を、久しぶりに見た。

 私は未来に想いを馳せるのは一旦やめて、母に微笑みを返した。


「まあ、すっきりしたわ」


 ディーンが労うように私の背を撫でる。

 私たちはやり遂げた。
 純真なサプライズ好きの侯爵令息を地獄行きの婚約から救った。そして同時に、母の悪夢を終わらせたのだ。

 これからオーベリソン伯爵家は婚約破棄された傷物令嬢を抱えていく事になる。けれど、その美貌で誰かを惑わす前に、サプライズ好きでたぶんあちこちから好かれているであろうアルヴィン卿の心を破壊し号泣させた凶悪な悪魔(もしくは碾臼の魔女)として名を馳せるから、次の被害者はそうそう現れないだろう。

 傷物……というより、とんでもない欠陥令嬢を抱えるオーベリソン伯爵家。
 酷い汚名にはなるけれど、私たち家族にとって最早それは名誉の汚名と言えた。


「ディルロッテ最高♪」


 だってこんなにいい気分。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

処理中です...