厚かましい妹の言掛りがウザ……酷いので、家族総出でお仕置きしてみた。

百谷シカ

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10 友の誘い

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「これ、どうしようかしら」


 アルヴィン卿から頂いた最高級品の茶器を前に、私は悩んでいた。


「え? 結婚したら毎日使おう!」


 ディーンは能天気。羨ましい。
 今日は結婚式に向けての打ち合わせも兼ねて、先に移送しておく荷物の準備などをしている。なのでシーヴ伯爵家の使用人も団体で来ていて、昼はうちの使用人も含めてみんなにご馳走をふるまった。
 
 あれっきり、妹は部屋に篭り切り。
 たまに出て来たかと思えば、人を殺せる目つきで歩き回って、方々を睨んで、そして用を済ませて部屋に戻っている。馬鹿げた我儘で家中を困らせていた以前に比べれば、まあましだ。

 
「そうは言っても、あんな事になってしまったから……」


 少し、心に蟠りが──


「サプラァ~イズ♪」

「?」


 ディーンが懐からサッと書状を取り出した。
 人先指と中指の間に挟み、スッと私に差し出す。


「なに?」

「……。……」


 瞬きで伝えてくるけれど、言語としては伝わってこない。
 まあ、読めって事でしょうけど。

 書状はアルヴィン卿からの謝罪文だった。
 ディーン宛の。


「……!」


 胸を打たれた。

 アルヴィン卿は『先日の』を悔いて、詫びて、その上で『』に変わらぬ付き合いをし、ものすごい低姿勢で『』をどうか受け取って欲しいという旨を書き連ねていた。


「……なんていい人なの……っ」


 泣けてきた。


「翌日、こっちが届いた」

「え?」


 書状は2通あった。


「……!」


 連続で胸を打たれた。

 アルヴィン卿は『これを読んでくれているという事は、先だっての贈り物を受け入れてくれたという事だと希望を込めて、我が友ディーンとその妻となる素晴らしいレディ・カルロッテをライル侯爵家に招待したい』と書かれていた。


「やだ……『お詫びと許してくれた事への感謝と友愛を込めて、友人同士のささやかなパーティーを』ですって……」


 涙で声が上ずっちゃったわ。


「いい人だよな!」


 私はディーンを見あげた。
 呑気だわ。でも、この人がアルヴィン卿の破談に関する蟠りのすべてを取り除く鍵だった。


「素晴らしいのは、あなたよ」

「なにを言うんだ。さあ、涙を拭いて。いいや、動くな。俺が拭く。愛するカルロッテの涙は、俺が拭ってやるんだ。いつだって。どんな時もな」


 ディーンの大きな手が頬を包み、親指が涙を拭い去る。
 私は微笑みを浮かべて、彼を見あげた。

 彼を、心から愛している。


「嬉し涙よ」

「じゃあキスで」


 頬骨に、ディーンが優しいキスをした。



     *  *  *



 そして、ライル侯爵家にやってきた。


「やあ! 我が友よッ!!」

「アルヴィン卿……」


 満面の笑みで出迎えてくれた侯爵令息は、花を散らすようなサイドステップで喜びを撒き散らしながら目の前までスキップしてきた。あっという間だった。

 ご機嫌ね。

 
「アルヴィン卿。お招き心より感謝致します」


 ディーンが伯爵然とした挨拶をして、


「やめてくれ! 君が大好きなんだ! 私の事はぜひ友として呼んでくれ!!」


 アルヴィン卿に嬉しい事を言われて、


「──アルヴィン!」


 溜めてから豪快に呼んだ。
 

「!!」


 そして男のハグ。
 アルディーンの誕生の瞬間に立ち会った。


「やあ、レディ・カルロッテ! 来てくれてありがとう!!」


 満面の笑みがこちらを向いた。


「お招き心より感謝致します」


 ディルヴィンっていうのは、なんか微妙よね。
 だったらやっぱりアルディーン。


「あああああやめてくれ。あなたは私にとって、義姉になりかけたがならなかった大切な友だ」

「妹が御迷惑を──」

「ノォォォォォォォンッ!!」


 歓喜の雄叫びに、私は悟った。
 私は、このペースに乗っかればいいんだなって。


「お会いできて光栄です」

「こちらこそ。レディ・カルロッテ。さあ、長旅のあとに立ち話なんていけない。どうぞこちらへ」


 平常心を取り戻したアルヴィン卿が、スマートに私たちを誘う。
 前回は薔薇に囲まれていた歓談が、今回は細やかなパーティーという事で、広間に通された。


「……」


 まあ、細やか詐欺ね。
 これは普通の、ごく一般的な晩餐会に近い感じ。ちょっとこじんまりしてるかなってくらいの。

 私たちが広間に入ると、楽団が優雅な旋律を奏で始めた。


「これは、至れり尽くせりでなんだか申し訳ありませんな」

「ディーン! そんな事を言わないでくれ! あなたはかけがえのない友なんだ! 失いかけたが、失いはしなかった! この喜びを伝えたいという我儘をあなたは許してくれた! ああっ! ふたりが夫婦になるなら、私たちは親友! 謂わば私たちはアディーン!!」


 途中なにに感極まったのかは謎だけれど、問題はそこではない。
 私の聞き違いでなければ、今、言ったわよね……?

 
「アディーン……」


 ルは不要だったのね。
 恐れ入ったわ。


「あなたを入れてトリオの時はアルディッテ!」

「へっ!?」


 わっ、私も!?


「いえっ、あの、私はディルロッテで満足ですのでどうぞおふたりで……、?」


 しどろもどろに私はなにを言っているのかしら?
 やだわ。取り乱しちゃって。


「ハハハハハッ!」


 豪快に笑うディーン。
 ……彼が、まとめる綽名という悪知恵を?


「ハハハハハハ♪」


 まあ、一度は地獄に片足突っ込んで心も壊れて磨り潰されて絶望のうちに死にかけたアルヴィン卿がご機嫌だから、なんでもいいわ。
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