11 / 13
11 友の策略
しおりを挟む
仲良く3人で歓談するのかと思っていたら、御両親も登場して少し驚いた。姉上たちは既に嫁いでいるとの事だけれど、もれなく全員がサプライズ好きの善い人だと判明した。
あと贈り物は大理石の彫刻だった。荷車で運ばれてきて、ギョッとした。
そんな感じで楽しい時間を過ごしたあと、アルヴィン卿は食後のお茶と称して図書室に移った。希少本や世界の知識を詰め込んだような豪華な図書室は、独特の匂いと静謐さに満ち、ランプの灯によって橙色に照らし出される夜の色合いがなんとも言えない魅力的な──
「エヴェリーナはどうしているかな?」
え?
い ま な ん て ?
「……」
私は無になった。
なんなら、私は書架に寄り添う柱に寄り添って柱の一部になってもいい。でも椅子に促されて、椅子に座った。ディーンが私を気遣うように、そっと肩を抱き寄せてくれる。
「いやいや、違う。あなたの心配するような事を言うつもりはない。そうではなくて、オーベリソン伯爵夫妻は無事だろうかという意味だ」
「無事です」
代わりにディーンが答えてくれて、私は同意を示し頷いた。
アルヴィン卿は悩ましい表情で溜息をついて、ゆるく首を振った。
「一度は義理の両親となるはずだった人々が、今や悪魔の城に囚われていると思うと眠れない夜も多くてね」
妹は碾臼の魔女から悪魔に昇格。
完全体になった。
「本当にあれでよかったのだろうかと。あんな醜態を晒して、大切な友へ重荷を背負わせたまま自分だけが逃げてしまっていいのだろうかと」
「いいんです」
即答した。
だって、ほら。そのためにやった事だし。
おかげで理性が戻って来て、私は注意深くアルヴィン卿の目を見つめた。
こちらも本気を伝えないといけない。
「……。……」
瞬きもしておく。
ディーンの真似をしておけば、間違いない。
はず。
「そうか」
ほら、納得してる。
「それで、私は考えた」
「はい」
「オーベリソン伯爵夫妻は、たとえ娘と言えどもあのエヴェリーナと人生を共にするべきではない。人生とは、豊かであるべきだ。特に夫婦の人生というのは素晴らしいものだ。神によって結ばれた愛の絆が、ほかのなにものにも代え難いほど美しい」
あなたの心も美しい。
「だからと言って、私はエヴェリーナを庇うつもりはない。残酷な事だがね。あなたの妹にこう言っては失礼だが、稀に見ぬ醜悪な心の持ち主だと私は思う」
大丈夫。
もう、魔女とか悪魔とか言ってます。
みんなそう思っています。
「ああいう人物と関わった人間は破滅する」
「そうだと思います」
「だから、隔離すべきだ」
言った。
みんなが思っていてもさすがに口に出せなかった言葉を、まさかのアルヴィン卿が言った。感動した。
アルヴィン卿は止まらない。
「だが修道院では神に仕える人々へ迷惑がかかる。癲狂院では、あの強力で破壊的な自尊心を武器に正気ではない人々を操って崇拝を得てしまうかもしれない。エヴェリーナという魔神を崇める信仰が、我を忘れて特異な身体能力さえ備えかねない人々たちの間で広まってしまったら、世界を破壊しかねない。危険すぎる」
悪魔からついに魔神へ。
「時にふたりは、セッテルバリ侯爵コンラード・ノルランデル卿をご存知かな?」
魔界から現実に引き戻されて、私とディーンは頷いた。
「はい。有力貴族ですよね」
「王宮の重要な職務を任されている、絶大な権威と権力を持つ一族だ」
「はい」
「だが性格に難がある」
「……はい」
返事していいところ?
こっちは伯爵家の人間なんだけど。
アルヴィン卿はライル侯爵になるからか、平気な顔で続けた。
「能力はずば抜けているし、王家への忠誠心も凄まじく、諸侯の間では恐れられつつも評判がよく、一見なんの欠点もない一族かに見えて、その実、恐るべき信念を秘めている」
「そ、それは……?」
あ、悪魔的な意味で?
「異常なほどの自尊心」
なんだ。
その程度か。
「その程度と侮ってはいけない。他家への配慮には文句のつけようもないが、なんと、歴代配偶者については跡継ぎをもうける家畜程度にしか考えていない。代々そうなのだ。家訓だから。セッテルバリ侯爵家では〝ノルランデルの血〟がすべて。入り婿も嫁も、人として扱われない」
「……」
言葉を失うわ。
「更に言うと、セッテルバリ侯領の民は大切にしているが、配偶者は跡継ぎが生まれてしまえば用済みでほぼ幽閉状態らしい。他所へ行って余計な血脈を広げられても困るから、絶対に逃さないそうだ。公の場にはあれこれと理由をつけて滅多に出さない。国王陛下の生誕50周年を祝う式典で、先の侯爵夫人つまり現在のセッテルバリ侯爵の母親の生存が確認され、事情を知る者たちが胸を撫でおろした。まだ悪魔に魂を売り尽くしてはいなかったのだと」
「恐ろしい」
ディーンはものを言う余裕があるみたい。
「コンラードは友人に極めて近い知人のひとりだ」
「──」
ディーンも無になった。
私は、一周回って頭が冴えて、嘘でしょって思ったわ。
「友人と思おうとすると、心が壊れそうになる」
「無理はいけません」
意見までしちゃった。でも、悔いはない。
アルヴィン卿のピュアな心をお守りしなくては。
「ああ。それで、レディ・カルロッテ。私はこう考えた。コンラードとエヴェリーナ、とてもお似合いかなって」
「アル──」
「ここをまとめておくと被害が減る」
アルヴィン卿が畳みかける。
「世界に平和が訪れるのだ」
力説は続いた。
「どうだろう。あなたの妹を吸血鬼のような男へ嫁がせようなどとすすめる私の行いは、非人道的だろうか?」
「いいえ♪」
口から希望の歌が零れたわ。
殺すわけでもなく解き放つわけでもなく、誰の心も傷つけず、それでいてスッキリ片付く方法があるなんて夢にも思わなかった。
「父も母も救われます」
「よかった。では早速、仲人を申し出よう」
「いいサプライズだ!」
ディーンも元気に背中を押した。
「ちなみに入り婿や嫁の生家については、かなり手厚い好待遇を受ける。それでいて里帰りはさせないらしいが、その理由は謎だ! 謎は謎のままでもいい!!」
アルヴィン卿が昂っている。
こうして密談は明るく幕を閉じた。
あと贈り物は大理石の彫刻だった。荷車で運ばれてきて、ギョッとした。
そんな感じで楽しい時間を過ごしたあと、アルヴィン卿は食後のお茶と称して図書室に移った。希少本や世界の知識を詰め込んだような豪華な図書室は、独特の匂いと静謐さに満ち、ランプの灯によって橙色に照らし出される夜の色合いがなんとも言えない魅力的な──
「エヴェリーナはどうしているかな?」
え?
い ま な ん て ?
「……」
私は無になった。
なんなら、私は書架に寄り添う柱に寄り添って柱の一部になってもいい。でも椅子に促されて、椅子に座った。ディーンが私を気遣うように、そっと肩を抱き寄せてくれる。
「いやいや、違う。あなたの心配するような事を言うつもりはない。そうではなくて、オーベリソン伯爵夫妻は無事だろうかという意味だ」
「無事です」
代わりにディーンが答えてくれて、私は同意を示し頷いた。
アルヴィン卿は悩ましい表情で溜息をついて、ゆるく首を振った。
「一度は義理の両親となるはずだった人々が、今や悪魔の城に囚われていると思うと眠れない夜も多くてね」
妹は碾臼の魔女から悪魔に昇格。
完全体になった。
「本当にあれでよかったのだろうかと。あんな醜態を晒して、大切な友へ重荷を背負わせたまま自分だけが逃げてしまっていいのだろうかと」
「いいんです」
即答した。
だって、ほら。そのためにやった事だし。
おかげで理性が戻って来て、私は注意深くアルヴィン卿の目を見つめた。
こちらも本気を伝えないといけない。
「……。……」
瞬きもしておく。
ディーンの真似をしておけば、間違いない。
はず。
「そうか」
ほら、納得してる。
「それで、私は考えた」
「はい」
「オーベリソン伯爵夫妻は、たとえ娘と言えどもあのエヴェリーナと人生を共にするべきではない。人生とは、豊かであるべきだ。特に夫婦の人生というのは素晴らしいものだ。神によって結ばれた愛の絆が、ほかのなにものにも代え難いほど美しい」
あなたの心も美しい。
「だからと言って、私はエヴェリーナを庇うつもりはない。残酷な事だがね。あなたの妹にこう言っては失礼だが、稀に見ぬ醜悪な心の持ち主だと私は思う」
大丈夫。
もう、魔女とか悪魔とか言ってます。
みんなそう思っています。
「ああいう人物と関わった人間は破滅する」
「そうだと思います」
「だから、隔離すべきだ」
言った。
みんなが思っていてもさすがに口に出せなかった言葉を、まさかのアルヴィン卿が言った。感動した。
アルヴィン卿は止まらない。
「だが修道院では神に仕える人々へ迷惑がかかる。癲狂院では、あの強力で破壊的な自尊心を武器に正気ではない人々を操って崇拝を得てしまうかもしれない。エヴェリーナという魔神を崇める信仰が、我を忘れて特異な身体能力さえ備えかねない人々たちの間で広まってしまったら、世界を破壊しかねない。危険すぎる」
悪魔からついに魔神へ。
「時にふたりは、セッテルバリ侯爵コンラード・ノルランデル卿をご存知かな?」
魔界から現実に引き戻されて、私とディーンは頷いた。
「はい。有力貴族ですよね」
「王宮の重要な職務を任されている、絶大な権威と権力を持つ一族だ」
「はい」
「だが性格に難がある」
「……はい」
返事していいところ?
こっちは伯爵家の人間なんだけど。
アルヴィン卿はライル侯爵になるからか、平気な顔で続けた。
「能力はずば抜けているし、王家への忠誠心も凄まじく、諸侯の間では恐れられつつも評判がよく、一見なんの欠点もない一族かに見えて、その実、恐るべき信念を秘めている」
「そ、それは……?」
あ、悪魔的な意味で?
「異常なほどの自尊心」
なんだ。
その程度か。
「その程度と侮ってはいけない。他家への配慮には文句のつけようもないが、なんと、歴代配偶者については跡継ぎをもうける家畜程度にしか考えていない。代々そうなのだ。家訓だから。セッテルバリ侯爵家では〝ノルランデルの血〟がすべて。入り婿も嫁も、人として扱われない」
「……」
言葉を失うわ。
「更に言うと、セッテルバリ侯領の民は大切にしているが、配偶者は跡継ぎが生まれてしまえば用済みでほぼ幽閉状態らしい。他所へ行って余計な血脈を広げられても困るから、絶対に逃さないそうだ。公の場にはあれこれと理由をつけて滅多に出さない。国王陛下の生誕50周年を祝う式典で、先の侯爵夫人つまり現在のセッテルバリ侯爵の母親の生存が確認され、事情を知る者たちが胸を撫でおろした。まだ悪魔に魂を売り尽くしてはいなかったのだと」
「恐ろしい」
ディーンはものを言う余裕があるみたい。
「コンラードは友人に極めて近い知人のひとりだ」
「──」
ディーンも無になった。
私は、一周回って頭が冴えて、嘘でしょって思ったわ。
「友人と思おうとすると、心が壊れそうになる」
「無理はいけません」
意見までしちゃった。でも、悔いはない。
アルヴィン卿のピュアな心をお守りしなくては。
「ああ。それで、レディ・カルロッテ。私はこう考えた。コンラードとエヴェリーナ、とてもお似合いかなって」
「アル──」
「ここをまとめておくと被害が減る」
アルヴィン卿が畳みかける。
「世界に平和が訪れるのだ」
力説は続いた。
「どうだろう。あなたの妹を吸血鬼のような男へ嫁がせようなどとすすめる私の行いは、非人道的だろうか?」
「いいえ♪」
口から希望の歌が零れたわ。
殺すわけでもなく解き放つわけでもなく、誰の心も傷つけず、それでいてスッキリ片付く方法があるなんて夢にも思わなかった。
「父も母も救われます」
「よかった。では早速、仲人を申し出よう」
「いいサプライズだ!」
ディーンも元気に背中を押した。
「ちなみに入り婿や嫁の生家については、かなり手厚い好待遇を受ける。それでいて里帰りはさせないらしいが、その理由は謎だ! 謎は謎のままでもいい!!」
アルヴィン卿が昂っている。
こうして密談は明るく幕を閉じた。
163
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる