あつまれ相続から洩れたイケメンぞろいの令息たちよ! ~公爵令嬢は浮気者の元婚約者と妹を追放して幸せになる~

百谷シカ

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12 絆という観点

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「それで、私としては、こうして食卓を囲む事自体が特異な関係性によるものであるという事実と真正面から向き合った結果、思うのだけど」


 全員が食事の手を止める。
 そして集まる10の瞳。
 

「たぶん違う」

 
 速やかに否定すると、エリオットが目を皿に戻した。これしきの事でもうお婿さんを発表するなど、ありえない。そういう過度な期待は応えるのはもちろん、訂正して回る手間も鬱陶しい。
 ただ彼らにとっては切実な問題で、そのために集まっているのは事実なので、苦言を呈するには至らない。今日のところは。


「あなた方は謂わばライバルね。私のお婿さんという座を競って〝我こそは〟と考えている。当然、それが好ましい。だけど、選ばれるのはひとりよ。そこで私はある悲劇的な未来を思い描いた」


 眼鏡を直す。
 食事を続けているのは、エディとエリオット。ロレンソはこちらを見つめたままずっと同じものを咀嚼しているから、そろそろ嚥下する頃……した。ジュリアスとラーシュ=オロフはどちらも手を止めているけれど、真剣な眼差しと慈愛にあふれた穏やかな眼差しの差が激しい。それぞれに良さがある。


「選ばれなかった4人のうち1人か2人、恨みを抱くかもしれない」

「まさか。ありえません」


 ラーシュ=オロフが即否定した。穏やかな微笑みを深め、私を安心させる効果があった。


「あなたはそうでしょうね。どうか若者の悩みを受け入れてちょうだい」

「失礼、マルグリット」


 父性も溢れる誠実かつ優しい謝罪。
 彼は、とてもいい。


「いえ、いいのよ。皆様も、ぜひ物怖じせずに意見を述べてほしい。つまり私が言いたいのは、最悪の場合を想定してという事だけれど、敵対を未然に防ぐためにも今日ここで親睦を深めてほしいの」

「なるほど」


 エディが相槌をうった。
 

「あなたは失礼のないように」


 釘を刺しておく。頷いたのを確認して、私は続けた。


「そこで、食事中に可能な限り会話を重ねて絆を強め、デザートが配られると当時に、仮にもしという視点で〝自分以外では誰がお婿さんに相応しいか〟という議論をして頂きます」

「……えっ?」


 エリオットが反応。ジュリアスとラーシュ=オロフはそれぞれ性格の滲み出る表情で頷き了承を示した。ロレンソは、


「…………ぅわ~」


 彼なりに驚いて、次第に緊張し、赤らんで、震える手でグラスに手を伸ばした。あっ、と思った時には彼の従者と当家の給仕が迅速に対応し、見事に補佐した。彼の従者と当家の給仕の間に、何某かの感情が芽生えているのは明白な事実。


「鬼畜だな」


 エディが鼻で笑う。
 私は眼鏡を直しつつ、彼を睨んだ。


「生半可な気持ちで当主名代は務まりません」


 彼に刺す釘は何万本あっても足りない。
 けれど無尽蔵にあるのもまた事実。

 ジュリアスがわずかに身を乗り出した。


「ひとつ確認をよろしいですか?」

「もちろん。ジュリアス、疑問点を指摘して」


 彼との会話は、徹底して合理的なので爽快。


「我々の親睦を深めるに留まらず、互いに推薦しあうという事ですが、それはあなたの疑似的な兄上であるそちらのエディに推薦された人物が有利と考えて妥当でしょうか?」

「なるほど」


 尤もだ。
 考慮すべき点と言える。


「ありがとう、ジュリアス。いい指摘だった。エディに推薦権を与えないという対処で、この不平等な問題は解決できるかと」

「嘘だろ?」


 ジュリアスではなくエディの対処に迫られる。


「弁えて」


 無尽蔵の釘の刺し処。


「ただ、エディの意見は私にとって参考にすべき点が多いでしょうから、会話には積極的に参加してもらいます。そのために5人目の通過者として紛れ込ませたわけですから。そこは、誤解のないように」

「承知しました。お答えいただき、感謝します」

「こちらこそ」


 ふと横を見ると、エディは別段、不満があるようにも見えず、むしろ場を楽しむ雰囲気のまま食事を続けていた。
 

「足りる?」

「ああ。あとで小腹が空けば慎ましく厨房に下りるさ」


 私は給仕を脇に呼び、エディを含め食欲旺盛な令息たちの夜食事情について尋ねた。当然、夜食は夜食で準備している。それが最上級のおもてなしというもの。問題は、足りるかという事。私の認識を越えた特異体質の令息がいないとも限らない。


「万全に整えております、お嬢様」


 完璧だった。


「では、お喋りしましょう。話題は? 挙手などせずに、努めて友好的にふるまってください。綽名をつけたりほどほどに揶揄ったりして、さも昔からの友人のように装うのも有効かと」


 こうして私たちは会話に花を咲かせた。
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