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7 些末な問題ですね
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その夜は婚約を祝う祝宴となった。もちろん、居合わせた両家の人間だけの、内々のお祝いだ。母と次兄が旅を切り上げて戻って来られる頃合いを見計らって、正式な婚約発表を行う事に決まった。
夕焼けに染まる前庭に食事会さながらの準備をして、松明を灯し、星空の下で極上の肉や魚、お酒を囲んでいる。豪快なフェドー伯爵に合わせたような豪華な食事は、シャサーヌ伯爵家の歓喜と歓迎の気持ちが込められているように思えた。
「はああぁぁぁっ! 嬉しくてじっとしていられませんッ! お嬢様、私を止めないでくださいッ!!」
「えっ!? メリザ──」
唐突に席を立ち馬のように走っていった彼女へと向けた手が、行き場を失う。
「何度か言ったが、彼女は面白い人だな」
フェドー伯爵令息が真顔で言った。
「そうなんですよ。ハハハ。あぁ、妹だけでなく彼女を奪われると思うと、あなたが憎い」
長兄のデヴィッドが冗談で返した。
メリザンドは家族同然。それはそうなのだけれど、たとえ兄でも求婚でもしない限りメリザンドを引き留めるのは不可能だろう。私たちは強い絆で結ばれ──
「……」
「ん? どうしました? レディ・フランシーヌ」
フェドー伯爵令息は、家族の手前、少しお行儀よくしている。
「いえ。なんでも……」
私は肉料理を口に含み、物理的に沈黙の権利を得た。
兄とメリザンドは2つ違い。信頼関係と年齢差を考慮すれば、充分、その線は在り得る。今までそうでなかったとしても、私の婚約がきっかけで彼女がかけがえのない人だと気づき……なんて事がないとも限らない。
だけど、ディディエ伯爵家との婚約中はそんな素振りはなかった。
ただ、現婚約者ほど元婚約者は歓迎されてはいなかった。
「……」
「この細い顎でよくゴリゴリ肉を噛みしだくもんだと感心しますよ」
「妹は、見た目より狂暴で。母に似たんでしょうな」
メリザンドには幸せになってほしいけれど、相手は兄でなくてもいい。
どうか、フェドー伯爵家の付近で見つけてくれますように……まだ遅すぎはしない。
「ん? 戻ってきた」
「?」
「?」
思ったよりあっという間に戻ってきたメリザンドに全員で目を向けた。
歓喜に打ち震え酔いも手伝いかなりの興奮状態だったはずのメリザンドは、打って変わって鬼気迫る様子で戻ってくると食卓に手をついて父に告げた。
「旦那様、ディディエ伯爵家の馬車が……!」
「──え?」
楽しい祝宴が一瞬で凍り付いた。
けれど、それも一瞬の事だった。
フェドー伯爵令息が雄々しく忌々しげな唸り声と共に、悪態をついたのだ。
「ああ、もう! 鬱陶しい奴だな!」
その通りだった。
「次に顔を見せやがったら折りたたんで池に放り込んでやる」
彼の言葉に私たちはかなり安堵した。
メリザンド以外は。
「向こうが言い出した破談なのに」
父が言い、
「妹に未練があるようだ」
兄が言い、
「お嬢様になにかあったら……! ああっ! ロイク様!! どうかお嬢様をお守りくださいぃぃぃッ!!」
メリザンドだけは号泣。
ちなみに、私たちの間ではっきりと彼の名を口にしたのは彼女が初めてだった。
「もちろんだ。俺はこの人に惚れているんですよ。あなたの大事なお嬢様に指1本だって触れさせやしない」
「ロイク様ぁぁぁぁッ!」
「あなたが理解ある男でよかった」
「妹を頼みます」
結束が強まった。
そう。なにも心配は要らない。
やや不可解で鬱陶しい私の元婚約者など、私たちの絆の前では些末な問題なのだ。
「さあ、メリザンド。デザートが運ばれてきたわ。あなたの好きな白鳥のシュークリームもある。泣かないで。一緒に食べましょう。ほら、座って」
「おおおお嬢様ぁぁぁっ」
みんなに愛されて、私、本当に幸せ。
夕焼けに染まる前庭に食事会さながらの準備をして、松明を灯し、星空の下で極上の肉や魚、お酒を囲んでいる。豪快なフェドー伯爵に合わせたような豪華な食事は、シャサーヌ伯爵家の歓喜と歓迎の気持ちが込められているように思えた。
「はああぁぁぁっ! 嬉しくてじっとしていられませんッ! お嬢様、私を止めないでくださいッ!!」
「えっ!? メリザ──」
唐突に席を立ち馬のように走っていった彼女へと向けた手が、行き場を失う。
「何度か言ったが、彼女は面白い人だな」
フェドー伯爵令息が真顔で言った。
「そうなんですよ。ハハハ。あぁ、妹だけでなく彼女を奪われると思うと、あなたが憎い」
長兄のデヴィッドが冗談で返した。
メリザンドは家族同然。それはそうなのだけれど、たとえ兄でも求婚でもしない限りメリザンドを引き留めるのは不可能だろう。私たちは強い絆で結ばれ──
「……」
「ん? どうしました? レディ・フランシーヌ」
フェドー伯爵令息は、家族の手前、少しお行儀よくしている。
「いえ。なんでも……」
私は肉料理を口に含み、物理的に沈黙の権利を得た。
兄とメリザンドは2つ違い。信頼関係と年齢差を考慮すれば、充分、その線は在り得る。今までそうでなかったとしても、私の婚約がきっかけで彼女がかけがえのない人だと気づき……なんて事がないとも限らない。
だけど、ディディエ伯爵家との婚約中はそんな素振りはなかった。
ただ、現婚約者ほど元婚約者は歓迎されてはいなかった。
「……」
「この細い顎でよくゴリゴリ肉を噛みしだくもんだと感心しますよ」
「妹は、見た目より狂暴で。母に似たんでしょうな」
メリザンドには幸せになってほしいけれど、相手は兄でなくてもいい。
どうか、フェドー伯爵家の付近で見つけてくれますように……まだ遅すぎはしない。
「ん? 戻ってきた」
「?」
「?」
思ったよりあっという間に戻ってきたメリザンドに全員で目を向けた。
歓喜に打ち震え酔いも手伝いかなりの興奮状態だったはずのメリザンドは、打って変わって鬼気迫る様子で戻ってくると食卓に手をついて父に告げた。
「旦那様、ディディエ伯爵家の馬車が……!」
「──え?」
楽しい祝宴が一瞬で凍り付いた。
けれど、それも一瞬の事だった。
フェドー伯爵令息が雄々しく忌々しげな唸り声と共に、悪態をついたのだ。
「ああ、もう! 鬱陶しい奴だな!」
その通りだった。
「次に顔を見せやがったら折りたたんで池に放り込んでやる」
彼の言葉に私たちはかなり安堵した。
メリザンド以外は。
「向こうが言い出した破談なのに」
父が言い、
「妹に未練があるようだ」
兄が言い、
「お嬢様になにかあったら……! ああっ! ロイク様!! どうかお嬢様をお守りくださいぃぃぃッ!!」
メリザンドだけは号泣。
ちなみに、私たちの間ではっきりと彼の名を口にしたのは彼女が初めてだった。
「もちろんだ。俺はこの人に惚れているんですよ。あなたの大事なお嬢様に指1本だって触れさせやしない」
「ロイク様ぁぁぁぁッ!」
「あなたが理解ある男でよかった」
「妹を頼みます」
結束が強まった。
そう。なにも心配は要らない。
やや不可解で鬱陶しい私の元婚約者など、私たちの絆の前では些末な問題なのだ。
「さあ、メリザンド。デザートが運ばれてきたわ。あなたの好きな白鳥のシュークリームもある。泣かないで。一緒に食べましょう。ほら、座って」
「おおおお嬢様ぁぁぁっ」
みんなに愛されて、私、本当に幸せ。
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