お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?

百谷シカ

文字の大きさ
9 / 31

9 フロリアン伯爵の悪事

「大変な事実が判明してそれをこれから言うわけだが、君たちの事は私が責任をもって、面倒を見る。というか、悪いようにはしない。絶対に」

「……」


 ごくり、と息を呑んだわよ。
 
 応接室には私の他、執事やメイド長をはじめとする父の代からいる使用人たちの中の主みたいな人たちがひしめいている。
 
 兄には逞しい従僕がついて行っているし、カルミネには肝っ玉メイドがついてるから大丈夫。

 リヴィエラには、私から伝えたほうがいいとアルセニオが言った。
 だから彼女は自室で待機中。


「ご主人様がお亡くなりになった時、フロリアン伯爵家もまた死んだのです。私共はただお嬢様をお守りするために、こうして仕えておりました」

「その通りです。あの小僧が如何なる悪事を働いていようと、今更、驚きは致しません」


 兄への信頼の無さよ。
 

「殺しですか?」

「違う」


 メイド長の問いに、アルセニオが即答した。
 よかった。


「だがそれ相応に酷い」

「ああ……」


 私を含む数人の口から、絶望の溜息が洩れた。

 アルセニオは努めて事務的に調査報告を始めた。


「現在のフロリアン伯爵モレーノ・タリアーニには、以前にも同じ事があった」

「えっ?」


 待って。
 驚いたの、私だけ?

 口を噤むわ……


「7年前、娼婦に産ませた。この事を頭に入れておいてほしい」


 最悪。


「さて。私がこうも早く真相に辿り着くには、ある人物の存在が欠かせない。それは誰か。今ここで乳母に扮しているスージーだ」

「スージー……」


 口を噤むつもりだったけれど、洩れたわよ。

 使用人たちの肝の据わり様ったら、圧巻だわ。
 ピクリともしない。


「皆が察する通り、彼女は娼婦だ。数人の貴族から証言を得て判明したのであって、私が出入りしていたわけではないと神に誓う。本当だよ、ソニア」

「信じてるから続けて」


 アルセニオが頷く。


「スージーはある別の娼婦から上客を横取りした。フロリアン伯爵だ。そして貴族の胤を宿し、男児を産み、堂々と伯爵家に乗り込んで来たというわけさ」


 まあ、恐ろしい。


「仲間内でもスージーの評判は悪かった。様々な証言があがる中、ある年嵩の娼婦が言った。『どうせまた悪魔に売られるんだよ』と」

「悪魔……?」


 売られるって事は、兄が悪魔というわけでは、ないわけよね。

 え……?
 なに?

 
「御婦人は覚悟を。さて、7年前の庶子を思い出してほしい。残念ながら、母子共にお産で命を落とした。フロリアン伯爵は母子の遺体をある男に売ったんだ」

「──」


 メイド長に支えられ、私は椅子に座った。


「この男とは、以前より悪魔崇拝の噂があったメイラー侯爵だ。当時より教皇庁の調査も進み、今回フロリアン伯爵の身辺調査を始めた私と情報交換の場が持たれた。当時の悪事は、もちろんメイラー侯爵の手で直々に揉み消されていたというわけさ」


 そうよね。
 私に求婚した時には、明るみに出ていなかったものね。

 吐きそう。


「スージーとメイラー侯爵にはなんの関りもないから、隠蔽の手が及んでいなかった。単純に、フロリアン伯爵とメイラー侯爵の関りが7年前のそれ一回きりなのかもしれない」

「兄はどうなるの……?」


 お兄様、とはもう口にできなかった。


「メイラー侯爵と連座で逮捕される」


 眩暈が。


「ああっ、お嬢様が白目を!」

「お嬢様、しっかり!」

「……ええ。負けないわ」


 眼球と理性を呼び戻したわ。
 しかし、想像をはるかに超えてきたわね。


「これは宗教裁判になる。私は教皇庁への情報提供者であり、親類に司教もいる。私が君たちの身の潔白を証明し、すでに了解を得ている」

「ああっ! ありがとうございますバーヴァ伯爵!」

「バーヴァ伯爵! あなたこそ我らがお嬢様の救世主!!」

「当然の事をしたまでだ。だが、話は終わっていないから落ち着いて」


 私はついに、布を口に宛がった。
 いつカルミネみたいに戻すかわからないから。


「さて」


 アルセニオが人差し指を立てる。


「スージーは娼婦だ。年齢から、当時の事を知っているかもしれない。それでも自分が貴族の母親になるという大きな賭けに出た。なぜか」

「なぜです」


 メイド長が前のめり。


「複数の娼婦から同じ証言があがった。フロリアン伯爵は常々『娼婦に次期伯爵を産ませる』と嘯いていたらしい」

「真に受けるとは愚かな事ですな」


 執事が辛辣だわ。


「そうでもない。フロリアン伯爵が自ら広めた理由には信憑性がある」

「嫌だ……なんなの……?」


 リヴィエラのために強くならなくては。
 私たちは義姉妹なんだから。


「ソニア。兄上はろくでなしだ」

「ええ、そうね」

「幼少期から兆しはあった。御父上は君に望みをかけていた。兄上は、それが不満だったんだ」

「でしょうね」

「フロリアン伯爵家に娼婦の血を混ぜて穢す事。それが人生の目標だと、関係を持った娼婦全員が聞かされている」


 正気じゃないわね。
 前からそんな気はしてたけど、予想の遥か彼方にいたみたい。

 悪党め。
感想 72

あなたにおすすめの小説

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

佐藤 美奈
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

婚約者の家に行ったら幼馴染がいた。彼と親密すぎて婚約破棄したい。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ子爵令嬢は婚約者のジャック伯爵令息の実家に食事に招かれお泊りすることになる。 彼とその妹と両親に穏やかな笑顔で迎え入れられて心の中で純粋に喜ぶクロエ。 しかし彼の妹だと思っていたエリザベスが実は家族ではなく幼馴染だった。彼の家族とエリザベスの家族は家も近所で昔から気を許した間柄だと言う。 クロエは彼とエリザベスの恋人のようなあまりの親密な態度に不安な気持ちになり婚約を思いとどまる。

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。