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9 フロリアン伯爵の悪事
「大変な事実が判明してそれをこれから言うわけだが、君たちの事は私が責任をもって、面倒を見る。というか、悪いようにはしない。絶対に」
「……」
ごくり、と息を呑んだわよ。
応接室には私の他、執事やメイド長をはじめとする父の代からいる使用人たちの中の主みたいな人たちがひしめいている。
兄には逞しい従僕がついて行っているし、カルミネには肝っ玉メイドがついてるから大丈夫。
リヴィエラには、私から伝えたほうがいいとアルセニオが言った。
だから彼女は自室で待機中。
「ご主人様がお亡くなりになった時、フロリアン伯爵家もまた死んだのです。私共はただお嬢様をお守りするために、こうして仕えておりました」
「その通りです。あの小僧が如何なる悪事を働いていようと、今更、驚きは致しません」
兄への信頼の無さよ。
「殺しですか?」
「違う」
メイド長の問いに、アルセニオが即答した。
よかった。
「だがそれ相応に酷い」
「ああ……」
私を含む数人の口から、絶望の溜息が洩れた。
アルセニオは努めて事務的に調査報告を始めた。
「現在のフロリアン伯爵モレーノ・タリアーニには、以前にも同じ事があった」
「えっ?」
待って。
驚いたの、私だけ?
口を噤むわ……
「7年前、娼婦に産ませた。この事を頭に入れておいてほしい」
最悪。
「さて。私がこうも早く真相に辿り着くには、ある人物の存在が欠かせない。それは誰か。今ここで乳母に扮しているスージーだ」
「スージー……」
口を噤むつもりだったけれど、洩れたわよ。
使用人たちの肝の据わり様ったら、圧巻だわ。
ピクリともしない。
「皆が察する通り、彼女は娼婦だ。数人の貴族から証言を得て判明したのであって、私が出入りしていたわけではないと神に誓う。本当だよ、ソニア」
「信じてるから続けて」
アルセニオが頷く。
「スージーはある別の娼婦から上客を横取りした。フロリアン伯爵だ。そして貴族の胤を宿し、男児を産み、堂々と伯爵家に乗り込んで来たというわけさ」
まあ、恐ろしい。
「仲間内でもスージーの評判は悪かった。様々な証言があがる中、ある年嵩の娼婦が言った。『どうせまた悪魔に売られるんだよ』と」
「悪魔……?」
売られるって事は、兄が悪魔というわけでは、ないわけよね。
え……?
なに?
「御婦人は覚悟を。さて、7年前の庶子を思い出してほしい。残念ながら、母子共にお産で命を落とした。フロリアン伯爵は母子の遺体をある男に売ったんだ」
「──」
メイド長に支えられ、私は椅子に座った。
「この男とは、以前より悪魔崇拝の噂があったメイラー侯爵だ。当時より教皇庁の調査も進み、今回フロリアン伯爵の身辺調査を始めた私と情報交換の場が持たれた。当時の悪事は、もちろんメイラー侯爵の手で直々に揉み消されていたというわけさ」
そうよね。
私に求婚した時には、明るみに出ていなかったものね。
吐きそう。
「スージーとメイラー侯爵にはなんの関りもないから、隠蔽の手が及んでいなかった。単純に、フロリアン伯爵とメイラー侯爵の関りが7年前のそれ一回きりなのかもしれない」
「兄はどうなるの……?」
お兄様、とはもう口にできなかった。
「メイラー侯爵と連座で逮捕される」
眩暈が。
「ああっ、お嬢様が白目を!」
「お嬢様、しっかり!」
「……ええ。負けないわ」
眼球と理性を呼び戻したわ。
しかし、想像をはるかに超えてきたわね。
「これは宗教裁判になる。私は教皇庁への情報提供者であり、親類に司教もいる。私が君たちの身の潔白を証明し、すでに了解を得ている」
「ああっ! ありがとうございますバーヴァ伯爵!」
「バーヴァ伯爵! あなたこそ我らがお嬢様の救世主!!」
「当然の事をしたまでだ。だが、話は終わっていないから落ち着いて」
私はついに、布を口に宛がった。
いつカルミネみたいに戻すかわからないから。
「さて」
アルセニオが人差し指を立てる。
「スージーは娼婦だ。年齢から、当時の事を知っているかもしれない。それでも自分が貴族の母親になるという大きな賭けに出た。なぜか」
「なぜです」
メイド長が前のめり。
「複数の娼婦から同じ証言があがった。フロリアン伯爵は常々『娼婦に次期伯爵を産ませる』と嘯いていたらしい」
「真に受けるとは愚かな事ですな」
執事が辛辣だわ。
「そうでもない。フロリアン伯爵が自ら広めた理由には信憑性がある」
「嫌だ……なんなの……?」
リヴィエラのために強くならなくては。
私たちは義姉妹なんだから。
「ソニア。兄上はろくでなしだ」
「ええ、そうね」
「幼少期から兆しはあった。御父上は君に望みをかけていた。兄上は、それが不満だったんだ」
「でしょうね」
「フロリアン伯爵家に娼婦の血を混ぜて穢す事。それが人生の目標だと、関係を持った娼婦全員が聞かされている」
正気じゃないわね。
前からそんな気はしてたけど、予想の遥か彼方にいたみたい。
悪党め。
「……」
ごくり、と息を呑んだわよ。
応接室には私の他、執事やメイド長をはじめとする父の代からいる使用人たちの中の主みたいな人たちがひしめいている。
兄には逞しい従僕がついて行っているし、カルミネには肝っ玉メイドがついてるから大丈夫。
リヴィエラには、私から伝えたほうがいいとアルセニオが言った。
だから彼女は自室で待機中。
「ご主人様がお亡くなりになった時、フロリアン伯爵家もまた死んだのです。私共はただお嬢様をお守りするために、こうして仕えておりました」
「その通りです。あの小僧が如何なる悪事を働いていようと、今更、驚きは致しません」
兄への信頼の無さよ。
「殺しですか?」
「違う」
メイド長の問いに、アルセニオが即答した。
よかった。
「だがそれ相応に酷い」
「ああ……」
私を含む数人の口から、絶望の溜息が洩れた。
アルセニオは努めて事務的に調査報告を始めた。
「現在のフロリアン伯爵モレーノ・タリアーニには、以前にも同じ事があった」
「えっ?」
待って。
驚いたの、私だけ?
口を噤むわ……
「7年前、娼婦に産ませた。この事を頭に入れておいてほしい」
最悪。
「さて。私がこうも早く真相に辿り着くには、ある人物の存在が欠かせない。それは誰か。今ここで乳母に扮しているスージーだ」
「スージー……」
口を噤むつもりだったけれど、洩れたわよ。
使用人たちの肝の据わり様ったら、圧巻だわ。
ピクリともしない。
「皆が察する通り、彼女は娼婦だ。数人の貴族から証言を得て判明したのであって、私が出入りしていたわけではないと神に誓う。本当だよ、ソニア」
「信じてるから続けて」
アルセニオが頷く。
「スージーはある別の娼婦から上客を横取りした。フロリアン伯爵だ。そして貴族の胤を宿し、男児を産み、堂々と伯爵家に乗り込んで来たというわけさ」
まあ、恐ろしい。
「仲間内でもスージーの評判は悪かった。様々な証言があがる中、ある年嵩の娼婦が言った。『どうせまた悪魔に売られるんだよ』と」
「悪魔……?」
売られるって事は、兄が悪魔というわけでは、ないわけよね。
え……?
なに?
「御婦人は覚悟を。さて、7年前の庶子を思い出してほしい。残念ながら、母子共にお産で命を落とした。フロリアン伯爵は母子の遺体をある男に売ったんだ」
「──」
メイド長に支えられ、私は椅子に座った。
「この男とは、以前より悪魔崇拝の噂があったメイラー侯爵だ。当時より教皇庁の調査も進み、今回フロリアン伯爵の身辺調査を始めた私と情報交換の場が持たれた。当時の悪事は、もちろんメイラー侯爵の手で直々に揉み消されていたというわけさ」
そうよね。
私に求婚した時には、明るみに出ていなかったものね。
吐きそう。
「スージーとメイラー侯爵にはなんの関りもないから、隠蔽の手が及んでいなかった。単純に、フロリアン伯爵とメイラー侯爵の関りが7年前のそれ一回きりなのかもしれない」
「兄はどうなるの……?」
お兄様、とはもう口にできなかった。
「メイラー侯爵と連座で逮捕される」
眩暈が。
「ああっ、お嬢様が白目を!」
「お嬢様、しっかり!」
「……ええ。負けないわ」
眼球と理性を呼び戻したわ。
しかし、想像をはるかに超えてきたわね。
「これは宗教裁判になる。私は教皇庁への情報提供者であり、親類に司教もいる。私が君たちの身の潔白を証明し、すでに了解を得ている」
「ああっ! ありがとうございますバーヴァ伯爵!」
「バーヴァ伯爵! あなたこそ我らがお嬢様の救世主!!」
「当然の事をしたまでだ。だが、話は終わっていないから落ち着いて」
私はついに、布を口に宛がった。
いつカルミネみたいに戻すかわからないから。
「さて」
アルセニオが人差し指を立てる。
「スージーは娼婦だ。年齢から、当時の事を知っているかもしれない。それでも自分が貴族の母親になるという大きな賭けに出た。なぜか」
「なぜです」
メイド長が前のめり。
「複数の娼婦から同じ証言があがった。フロリアン伯爵は常々『娼婦に次期伯爵を産ませる』と嘯いていたらしい」
「真に受けるとは愚かな事ですな」
執事が辛辣だわ。
「そうでもない。フロリアン伯爵が自ら広めた理由には信憑性がある」
「嫌だ……なんなの……?」
リヴィエラのために強くならなくては。
私たちは義姉妹なんだから。
「ソニア。兄上はろくでなしだ」
「ええ、そうね」
「幼少期から兆しはあった。御父上は君に望みをかけていた。兄上は、それが不満だったんだ」
「でしょうね」
「フロリアン伯爵家に娼婦の血を混ぜて穢す事。それが人生の目標だと、関係を持った娼婦全員が聞かされている」
正気じゃないわね。
前からそんな気はしてたけど、予想の遥か彼方にいたみたい。
悪党め。
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