お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?

百谷シカ

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11 お迎えの馬車が来ました

 ぽかんと口を開けたまま、リヴィエラがその場に座り込んだ。
 

「そういうわけで、あなたはまだフラカストロ伯爵令嬢なのよ」

「……」


 私もしゃがんだ。
 

「それで、悪いほうの報せだけれど……」


 兄がかつて娼婦にこどもを産ませ、死産で、母子の遺体を悪魔崇拝疑惑のメイラー侯爵に売った件を伝えた。

 夫の罪か、赤の他人の罪かじゃ、心の負担が違うでしょう?
 だから、先にスージーと秘密結婚していた旨を伝えたのよ。


「メイラー侯爵と連座で宗教裁判にかけら──」
 
「……!」

「リヴィエラ!」


 リヴィエラは吐いた。
 泣き喚くのは覚悟していたけれど、確かにそういう可能性もあったかも。

 ただ8人もメイドを伴って、彼女付きのメイドもそこにいたので、総勢12名で介抱して、事なきを得た。


「……ソニア」

「ええ。ちなみに、私は火炙りにしてと叫んだわよ」

「私……仮初とはいえ、悪魔と夫婦だったなんて……やはり神様のところへ……」


 リヴィエラは朦朧としていた。
 私はリヴィエラの肩をしっかり掴み、その目を覗き込んだ。


「いいえ。あなたは穢れなきフラカストロ伯爵令嬢として、人生を取り戻すのよ。そのために協力できる事はなんだってする」

「……」

「私たちはもう義姉妹じゃない。ただの親友で、家族だわ。それにたった一つだけれど、こっちは年上なの。頼って、甘えてよ」

「……ソニア……!」


 ここで予定通りの号泣よ。
 最近、泣いている人をあやす機会が、多い。


「お嬢様!」

「?」


 メイドの一人に呼ばれ、そちらを見る。
 なにやら窓際で血相を変え、前庭を見下ろして硬直している。


「どうしたの?」

「ん?」


 私の傍で静観していたアルセニオも、訝しげな声をあげた。


「物騒な馬車が……檻付きの、馬車が停まりました」

「えっ!?」


 メイドにリヴィエラを任せ、私はアルセニオと窓際まで小走りで駆け抜けた。


「早いな……」

「どういう事? 忌々しい私の血縁上の兄はここにいないわ」

「いや。たぶん、あの人数だとスージーだ」

「……スージー?」

 
 一応、本当に結婚はしているんでしょ?
 

「……」


 えっ、待って!?
 スージーって私の義姉なの!?

 
「うわぁ……」

「君への不敬罪というところかな。いろいろと明るみに出た結果、スージーという娼婦がフロリアン伯爵令嬢の人生を脅かした事には違いないと判断されたんだ。結婚していようと、彼女は伯爵夫人ではないし、君を騙したしね」

「……そうね」


 本当に義姉なんだわ。
 今朝まで、私の義姉といえば、リヴィエラだったのに……


「君も吐くかい?」

「いいえ、平気」


 とりあえず、アルセニオの抱擁で落ち着いた。

 そうこうしているうちに騒がしくなってきたので、アルセニオに促されて私は玄関広間に向かった。兄は不在で、私がフロリアン伯爵家の人間なのだから、当然だ。

 意外な事に、リヴィエラもついて来た。
 毒を食らわば皿までの精神だろう。

 或いは、ついにプッツン切れたか。

 玄関広間の手前。
 縄をかけられたスージーが、役人に囲まれて、私たちの前を横切って行った。

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