お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?

百谷シカ

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15 赤い罪、黒い過去

 一歩踏み出した私をアルセニオが止めた。
 けれど、その時、神父がふり向き私に手招きをした。

 尋問と証言のために来たのだ。
 私は兄の前まで進んだ。


「ソニア……?」


 兄は、一瞬で静かになった。


「……ソニア……」

「そんなくだらない事が理由ですか? こどもみたいに拗ねるにしては、他人様を不幸にしずぎです。その腐った性根をお父様は見抜いていただけです。あなたは貴族どころか人間失格です」


 冷たい怒りが声に乗る。
 兄はどろんとした目で私を睨むと、ニヤリと笑った。


「ああ……やっぱり。可愛いソニア。お前は、あの女そっくりだ」

「それはお母様の事ですか?」

「そうだ……私を否定し、何度も何度も、私の代わりを産みだそうとした……」

「え?」


 今、恐ろしい事を聞いた気がする。
 私に、知らされていなかった兄や姉が? 


「赤ん坊なんて大嫌いだ」

「……本当に死産だったの……?」


 例の母子と、まだ疑惑の私の兄姉について。
 無意識に尋ねた。それは尋問ではなかった。


「そうだよ?」


 兄は猫なで声で私に卑しい目を向けた。


「ソニア。今、嘘はつけません」


 判事に耳打ちされ、私は頷いた。
 兄が肉親を手にかけたわけではないとわかり、私の頭は彼女の事でいっぱいになった。


「……リヴィエラをどうしてくれるの」


 こんなくだらない男のせいで、人生がめちゃくちゃだ。

 すると兄は笑った。
 声を上げて笑った。


「どうもしないさ! まだ何もしていない! あんな小娘に私の子を産んでもらっては台無しだからなぁ!」

「純血の貴族になってしまうから?」

「そうだ!」

「では、肉体の接触はなかった?」

「当然だ! あの貴族令嬢を穢すのは私じゃない。私では穢した事にならんだろう。あれは、正しく扱われない苦しみを味わわせて、イカれた頃に浮浪者の胤を植え付けてやるつもりだった……残念だ。まだ、何もしていない……」

「……!」


 本人の口からなので、醜悪さが際立っている。
 メイラー侯爵ほどじゃないかもしれないけれど、これはこれで悪魔だわ。

 私は怒りを抑え、記録を取っているほうの神父に体を向けた。
 

「フラカストロ伯爵令嬢の結婚は無効であり、身も心も穢れなき乙女のままです。彼女は敬虔な正しい人です」


 承知している、というように頷かれ、私はひとまず安心した。
 教会がそう認めたなら、リヴィエラの名誉は守られた。

 私が気を抜いた瞬間、兄が言った。


「本当はお前にしてやりたかったんだが、情が沸いたんだ。可愛いソニア。私には、お前だけだった」

「!」


 全身、鳥肌が立った。
 

「お前だけは、幼い頃から私を当主扱いしてくれたね……いい子だぁ……」


 吐き気がする。
 初めて、肉親への殺意が沸いた。


「……私が間違っていた。それに、こどもだったのよ。もう違う」

「ソニア……」

「あなたは兄じゃない」

「お兄様だよ? 私は捕らえられた。もう過ぎた事なのに。酷いよ……庇ってくれ。助けてくれ」

「嫌よ」


 ガタン!

 椅子に繋がれたまま、兄が飛び跳ねた。
 護衛の聖騎士に抑え込まれながらも、兄は私を睨み叫んだ。


「くそぉ! お前もあの男と同じなのか! あの女と同じなのか! 私を認めないのか! この恩知らずがぁッ! 殺してやる! 殺してやるぞ!! 殺してやるぅぅぅぅぅッ!!」

「……」


 悍ましい。

 兄は狂っていた。
 こんな狂人が、伯爵としてのさばっていた。

 現実が酷く恐ろしい。
 けれど現実を受け止めなければならない。

 混乱を通り越して、却って私は冷静だった。

 それで、気づいてしまった。
 私はもう一歩、兄に近づいた。


「お父様は老衰だったのよね?」

「ヒ?」


 兄は叫ぶのをやめ、笑った。


「ヒッヒッヒッヒッヒ……! アハハハハハッ!!」

「……」


 兄が正気でないのは、自白剤の力もある。
 でも、兄は嘘を吐けない。

 そんな……まさか……


「お父様を殺したの!?」
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