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21 すれ違いと誤魔化し(※リヴィエラ視点)
私が生まれた意味を教えてください。
そう、祈る日々。
その間に、三つの大きな事があった。
バーヴァ伯爵は、隠居された御両親に掛け合い、私を養子にするという話を進めていた。カルミネの件に加え、私を妹にしようだなんて。どこまでも懐の深い方。そして、私がなにを言っても止められなかった。ソニアが後押ししていたから。
新しいフロリアン伯爵マックス・アーカート卿が移り住み、政務を執り始めた。
彼と顔を合わせる機会は少ない。
けれど言葉通り、変わらない生活を送らせてくれている。
ソニアはカルミネに没頭しながらも、結婚準備に忙しい。
その上で、頻繁に私に構って勇気付けてくれる。カルミネを抱かせておけば逃げないだろうという意図も伺えた。
私は荷物をまとめた。
身の程を弁え、私にできる事をしよう。
使用人たちは、勘当された宙ぶらりんな私を、変わらず貴族令嬢として扱う。特に仮初の結婚からずっと身の周りの世話をしてくれたメイドたちは、熱心に私を励まし続けてくれた。
私は恵まれている。
だから……
「リヴィエラ?」
「あ」
馬車に向かって前庭を歩いているところで、よりにもよってマックス・アーカート卿と出くわしてしまった。
「どこへ? その荷物は?」
逃亡を疑われている。
「教会へ寄付するものを、以前まとめておいたのです。お陰様で少し落ち着きましたので、今日は、教会に」
「ひとりで?」
「はい」
スッと細められた目が、果てしなく冷たい。
父の冷酷さで慣れているので、恐くはなかった。
「私も行こう」
「いえ、お仕事の邪魔をしてしまっては申し訳ありませんので」
「あなたの保護も仕事の内だ。それに、町を見て回るいい機会ができた」
言い切ると、アーカート卿が私の荷物をひょいと持って歩き出してしまった。私は慌てて後を追った。
冷たい視線はまっすぐに厩舎に向かい、私は努めて彼を見あげなければならなかった。
「申し訳ありません。ありがとうございます」
「あなたは頑固だ」
責められたのかもしれないけれど、口調が常に冷徹なので、まったく堪えない。
「そうかもしれません」
私が堪えると、ふいにアーカート卿は足を止めた。
「?」
アーカート卿がこちらに振り向いて、急に、真剣な表情で目を合わせてくる。
「便宜上、私の妹という事で」
「……はい」
そう答えなければ話が進まない気がして、甘んじて受けた。
実は、彼と落ち着いて話す時間がほしいと思ってはいた。
アーカート卿自身も町を見て回りたいというのは本音だと思う。確かにちょうどいい機会。ソニアが私を心配して彼と衝突するのが、私の数少ない心配事でもあるから。
馬車に乗り込むと、彼は斜向かいに座った。
走り出して、かなり長い沈黙が続いた後、私は口を開いた。
「父に、どなたかが掛け合ってくださったようで……まとまった資金を貰う形で、他人になりました」
「手切れ金とは非情な男だ。まあ、充分生きていける額なら、これでひとつ不安解消という事か」
「ええ。どなたかは存じませんが」
「ふむ」
父がすんなり大金を出した。
こんな事が簡単にできるなんて、エルドン侯爵家からの圧力としか考えられない。
でも誰も私にそんな話はしない。
だから、まだ、お礼を伝える事さえできずにいた。
そして今も、はぐらかされている。
「フロリアン伯爵」
「その呼び方はやめないか?」
珍しく、不機嫌そうに眉を寄せた。
冷徹さとは違う、微妙な心の動き。
「……アーカート卿」
「……」
沈黙の意味するところを、汲み取らなければいけないようだ。
「マックス卿」
「あなたの弟妹たちは、あなたにレディをつけるのか?」
「……マックス」
力を込めて押し出すように、彼の名を口にする。
弟以外で初めて、男性の名を呼び捨てにした。
なにか、これまでとは違う私になってしまったようで、戸惑った。
ただの沈黙は気まずい沈黙になり、私は膝の上で手を揉み合わせ耐えた。ふと目をあげると、彼は心の読めない冷徹な眼差しで私を見つめていた。
でもそれは、私を見つめていたのではなく、熟考中で宙にたゆたう視線の先にたまたま私がいただけなのかもしれない。
確かなのは、父のように威圧的ではないという事。
私は自分の指先に目を落とした。
そう、祈る日々。
その間に、三つの大きな事があった。
バーヴァ伯爵は、隠居された御両親に掛け合い、私を養子にするという話を進めていた。カルミネの件に加え、私を妹にしようだなんて。どこまでも懐の深い方。そして、私がなにを言っても止められなかった。ソニアが後押ししていたから。
新しいフロリアン伯爵マックス・アーカート卿が移り住み、政務を執り始めた。
彼と顔を合わせる機会は少ない。
けれど言葉通り、変わらない生活を送らせてくれている。
ソニアはカルミネに没頭しながらも、結婚準備に忙しい。
その上で、頻繁に私に構って勇気付けてくれる。カルミネを抱かせておけば逃げないだろうという意図も伺えた。
私は荷物をまとめた。
身の程を弁え、私にできる事をしよう。
使用人たちは、勘当された宙ぶらりんな私を、変わらず貴族令嬢として扱う。特に仮初の結婚からずっと身の周りの世話をしてくれたメイドたちは、熱心に私を励まし続けてくれた。
私は恵まれている。
だから……
「リヴィエラ?」
「あ」
馬車に向かって前庭を歩いているところで、よりにもよってマックス・アーカート卿と出くわしてしまった。
「どこへ? その荷物は?」
逃亡を疑われている。
「教会へ寄付するものを、以前まとめておいたのです。お陰様で少し落ち着きましたので、今日は、教会に」
「ひとりで?」
「はい」
スッと細められた目が、果てしなく冷たい。
父の冷酷さで慣れているので、恐くはなかった。
「私も行こう」
「いえ、お仕事の邪魔をしてしまっては申し訳ありませんので」
「あなたの保護も仕事の内だ。それに、町を見て回るいい機会ができた」
言い切ると、アーカート卿が私の荷物をひょいと持って歩き出してしまった。私は慌てて後を追った。
冷たい視線はまっすぐに厩舎に向かい、私は努めて彼を見あげなければならなかった。
「申し訳ありません。ありがとうございます」
「あなたは頑固だ」
責められたのかもしれないけれど、口調が常に冷徹なので、まったく堪えない。
「そうかもしれません」
私が堪えると、ふいにアーカート卿は足を止めた。
「?」
アーカート卿がこちらに振り向いて、急に、真剣な表情で目を合わせてくる。
「便宜上、私の妹という事で」
「……はい」
そう答えなければ話が進まない気がして、甘んじて受けた。
実は、彼と落ち着いて話す時間がほしいと思ってはいた。
アーカート卿自身も町を見て回りたいというのは本音だと思う。確かにちょうどいい機会。ソニアが私を心配して彼と衝突するのが、私の数少ない心配事でもあるから。
馬車に乗り込むと、彼は斜向かいに座った。
走り出して、かなり長い沈黙が続いた後、私は口を開いた。
「父に、どなたかが掛け合ってくださったようで……まとまった資金を貰う形で、他人になりました」
「手切れ金とは非情な男だ。まあ、充分生きていける額なら、これでひとつ不安解消という事か」
「ええ。どなたかは存じませんが」
「ふむ」
父がすんなり大金を出した。
こんな事が簡単にできるなんて、エルドン侯爵家からの圧力としか考えられない。
でも誰も私にそんな話はしない。
だから、まだ、お礼を伝える事さえできずにいた。
そして今も、はぐらかされている。
「フロリアン伯爵」
「その呼び方はやめないか?」
珍しく、不機嫌そうに眉を寄せた。
冷徹さとは違う、微妙な心の動き。
「……アーカート卿」
「……」
沈黙の意味するところを、汲み取らなければいけないようだ。
「マックス卿」
「あなたの弟妹たちは、あなたにレディをつけるのか?」
「……マックス」
力を込めて押し出すように、彼の名を口にする。
弟以外で初めて、男性の名を呼び捨てにした。
なにか、これまでとは違う私になってしまったようで、戸惑った。
ただの沈黙は気まずい沈黙になり、私は膝の上で手を揉み合わせ耐えた。ふと目をあげると、彼は心の読めない冷徹な眼差しで私を見つめていた。
でもそれは、私を見つめていたのではなく、熟考中で宙にたゆたう視線の先にたまたま私がいただけなのかもしれない。
確かなのは、父のように威圧的ではないという事。
私は自分の指先に目を落とした。
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