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27 フロリアン伯爵の散財(※マックス視点)
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夕刻前に目的の娼館に着いた。
まばらに客が入り始めてはいるが、なによりも娼婦たちが寝起きではなく、判断を誤らない程度に覚醒している事が重要だ。
「あら、まあ。噂のフロリアン伯爵様じゃぁないですか」
女主が上機嫌でもてなそうとするが、手で制した。
それから金の入った袋を差し出し、有無をも言わせず握らせる。
私は誰にともなく、言うなれば娼館そのものに声をかけた。
「この中で、今の仕事に満足していない者はいるか? 好きでこの仕事に就いたわけではない者は? 自分がそうだと思う者は今すぐに申し出ろ。現在フロリアン伯爵家には、身売り以外の仕事に就けるよう教育を施す準備がある」
「ちょっと、困りますよ伯爵様。うちから女の子を取り上げるなんて」
金の入った袋を、更に渡す。
「え……」
「裁縫が得意な者、読み書きができる者、掃除や料理が好きな者、体力を別の形で使いたい者、それぞれ適正に応じた教育だ。安全な寝床と食事を保証する」
「こんなの奴隷売買じゃないですか!」
女主に、三つ目の袋を渡す。
その頃になると、ロビーに娼婦たちが集まり始め、一人、また一人と、真剣な顔で挙手する者が現れた。
「騙されるんじゃないよ! フロリアン伯爵様が前にどんな事をしたか忘れたかい!? もっと酷い悪魔に売られるのがオチだ!」
「だから先代の尻拭いをしている。疑う者を説得してやるほど優しくはないぞ。こどもの相手が上手い者は? 歌や童話など正確に覚えられる者は?」
8人の娼婦が私の周りに集まった。
目で数を数え、更に女主に金を渡した。
「これで別の商売をするか、また小娘を集めるかは自由だ。だが今後は取り締まりを強化する。よく考えろ」
「……」
一軒目を出ると、さらに3人の娼婦が追いかけて来た。
全員、真剣に未来を掴み取ろうとしている目だ。
娼館に戻り追加の金を渡すと、女主は持ちきれない金を台に置いて、困惑を顕わに呟いた。
「こんな事……どうして……?」
「さあな」
「無駄ですよ、伯爵様。私たちはこうやって生まれついたんです。私たちを堅気にしようなんて馬鹿げていますよ? 伯爵様ががっかりして、私たちはもっと惨めな気持ちになるだけです! こんな金、恐くて受け取れませんよ……!」
「未来を見ているのは私ではない」
「え?」
零れ落ちる者が出るのは当然だ。
だが、掬い上げられた後にしがみつき立ち上がる者を、私たちは探している。
掴み取る者を。
たとえ、極わずかでも。
「……伯爵様……」
腑に落ちないか。
ああ、私もだ。
だが、迷いはない。
リヴィエラが実父から手切れ金として受け取った莫大な私財を元に、女学園を建てたいと言い出した。私塾程度なら充分運営は可能である上、損失も取り返すのは難しくない。
教育を与えられなかった者たちは、悪事に染まっていく。
そういう啓蒙活動がある事を知らないままで、リヴィエラは同じ夢を見たのだ。価値の無い試みとは言い切れない。
私自身、健全な領地経営なら全うする気はあるが、慈善事業には興味がなかった。未だ、興味もなければ過度な期待など抱きもしない。
ただ、私は、リヴィエラの穢れなき心を信じた。
灯された炎を守ると誓ったのだ。
フロリアン伯領は実際、重税を課していた分、潤沢な資金には事欠かない。
するべき事はまず減税、治安の改善。
だが娼婦ばかり優遇するわけにはいかない。
リヴィエラの希望を叶えるのは、私の個人的な──趣味だ。
だからこれについては、私財を投じて娼婦を買い集める。当然だ。大金を握らされる事となる女主にも警護をつける。金目当てに殺されでもしたら、水の泡になる。
スージーの一件が既に広まっていた事もあり、真剣な志を持つ娼婦が想定以上の数となった。見果てぬ夢と諦めて脱落する者の面倒まで見る気はない。
駄目な者は駄目なのだと、口酸っぱく言い聞かせた。一応、リヴィエラは納得している。
どんな結果を齎すかなど、やってみなければわからない。
だが、私たちは私財を投じているのだ。
誰にも、文句は言わせない。
まばらに客が入り始めてはいるが、なによりも娼婦たちが寝起きではなく、判断を誤らない程度に覚醒している事が重要だ。
「あら、まあ。噂のフロリアン伯爵様じゃぁないですか」
女主が上機嫌でもてなそうとするが、手で制した。
それから金の入った袋を差し出し、有無をも言わせず握らせる。
私は誰にともなく、言うなれば娼館そのものに声をかけた。
「この中で、今の仕事に満足していない者はいるか? 好きでこの仕事に就いたわけではない者は? 自分がそうだと思う者は今すぐに申し出ろ。現在フロリアン伯爵家には、身売り以外の仕事に就けるよう教育を施す準備がある」
「ちょっと、困りますよ伯爵様。うちから女の子を取り上げるなんて」
金の入った袋を、更に渡す。
「え……」
「裁縫が得意な者、読み書きができる者、掃除や料理が好きな者、体力を別の形で使いたい者、それぞれ適正に応じた教育だ。安全な寝床と食事を保証する」
「こんなの奴隷売買じゃないですか!」
女主に、三つ目の袋を渡す。
その頃になると、ロビーに娼婦たちが集まり始め、一人、また一人と、真剣な顔で挙手する者が現れた。
「騙されるんじゃないよ! フロリアン伯爵様が前にどんな事をしたか忘れたかい!? もっと酷い悪魔に売られるのがオチだ!」
「だから先代の尻拭いをしている。疑う者を説得してやるほど優しくはないぞ。こどもの相手が上手い者は? 歌や童話など正確に覚えられる者は?」
8人の娼婦が私の周りに集まった。
目で数を数え、更に女主に金を渡した。
「これで別の商売をするか、また小娘を集めるかは自由だ。だが今後は取り締まりを強化する。よく考えろ」
「……」
一軒目を出ると、さらに3人の娼婦が追いかけて来た。
全員、真剣に未来を掴み取ろうとしている目だ。
娼館に戻り追加の金を渡すと、女主は持ちきれない金を台に置いて、困惑を顕わに呟いた。
「こんな事……どうして……?」
「さあな」
「無駄ですよ、伯爵様。私たちはこうやって生まれついたんです。私たちを堅気にしようなんて馬鹿げていますよ? 伯爵様ががっかりして、私たちはもっと惨めな気持ちになるだけです! こんな金、恐くて受け取れませんよ……!」
「未来を見ているのは私ではない」
「え?」
零れ落ちる者が出るのは当然だ。
だが、掬い上げられた後にしがみつき立ち上がる者を、私たちは探している。
掴み取る者を。
たとえ、極わずかでも。
「……伯爵様……」
腑に落ちないか。
ああ、私もだ。
だが、迷いはない。
リヴィエラが実父から手切れ金として受け取った莫大な私財を元に、女学園を建てたいと言い出した。私塾程度なら充分運営は可能である上、損失も取り返すのは難しくない。
教育を与えられなかった者たちは、悪事に染まっていく。
そういう啓蒙活動がある事を知らないままで、リヴィエラは同じ夢を見たのだ。価値の無い試みとは言い切れない。
私自身、健全な領地経営なら全うする気はあるが、慈善事業には興味がなかった。未だ、興味もなければ過度な期待など抱きもしない。
ただ、私は、リヴィエラの穢れなき心を信じた。
灯された炎を守ると誓ったのだ。
フロリアン伯領は実際、重税を課していた分、潤沢な資金には事欠かない。
するべき事はまず減税、治安の改善。
だが娼婦ばかり優遇するわけにはいかない。
リヴィエラの希望を叶えるのは、私の個人的な──趣味だ。
だからこれについては、私財を投じて娼婦を買い集める。当然だ。大金を握らされる事となる女主にも警護をつける。金目当てに殺されでもしたら、水の泡になる。
スージーの一件が既に広まっていた事もあり、真剣な志を持つ娼婦が想定以上の数となった。見果てぬ夢と諦めて脱落する者の面倒まで見る気はない。
駄目な者は駄目なのだと、口酸っぱく言い聞かせた。一応、リヴィエラは納得している。
どんな結果を齎すかなど、やってみなければわからない。
だが、私たちは私財を投じているのだ。
誰にも、文句は言わせない。
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