80 / 121
第四章 ハイドロの殺人鬼
4悲しき化け物
しおりを挟む翌朝目覚めた時が大変だった。
朱色を纏わせて瞼を晴らすように起きてきたアリオストロとローランドにメアリーは渾身の力で笑い転げた。
どいつもこいつも揃って酷い顔。これを笑わずにどうする。
朝日が窓から差す。
暖かなひだまりがメアリーたちを照らす中、バタバタと足を動かして笑うメアリーの態度は間違いなくアリオストロとローランドからしたら泣きっ面に蜂。一通り笑い終わったメアリーは、涙が溜まる目尻を指の腹で撫でてそれから、楽しそうな声で「これからどうする?」と昨夜ローランドに向けて言った言葉をアリオストロに向けた。
「出来たら、シモンさんに会いたい」
「あんなにボロクソ言われたのに?」
「……それはそうだったけど、考えを改めるきっかけになったし……それに俺は依頼を続けたい」
そう語るアリオストロにメアリーは床から這い上がって「私も同じ」と口にする。
それから躊躇いがちに、けれど真剣な表情でローランドも「私もです」と言った。
まぁ、チームとしての目的は決まった。
だが、まずはシモンとの接触を計らなければならないという問題が出てくる。
可能性としては自警団。もしくはあの違法バーだろう。
「ちなみにギャビンさんのバーの場所って覚えてたりする?」
「俺は覚えてない。というか、あの時は必死すぎて覚える暇なかった」
「私も同意だな」
「私は覚えてますよ」
さてこれからどうしようか、そう思ったときローランドが平然とそういう。
それがあまりにも自然的に言われた言葉だったから、メアリーとアリオストロは固まることしかできなかった。だが、言葉を呑み込んだと二人は一斉に立ち上がってローランドを見る。
「マジか??マジか!?」
「すごいな、いや本当に」
「ふふん、なんと言っても空間の戴冠者ですからね!空間把握能力はとってもあるんです!」
昨日の自信の無さが嘘のようにローランドは胸を張っていう。
というか〇〇の戴冠者って、その前者のものが得意とかそんな感じなのか、なんてアリオストロは感激しながら思考する。だがメアリーが記憶力がいいとはちょっと思い得なかった。
それを言うのは少しだけ憚れたので黙っていたのだが、それは英断だった。もし口にしていたら、間違えなくアリオストロの命は無かっただろう。
「なら、バーに行くか」
「その前にシャワー浴びてきて臭い」
「最低」
アリオストロがメアリーをひどいものを見るような目で見る。
それすら気にした様子もなさそうにメアリーは鼻を摘んでアリオストロを見た。
「だけどその前にローランド……先に入ってきな。私は昨日もう浴びたから」
「あ、いいんですか?」
「レディーファーストだよ」
「れでぃ……?」
「ああ、いいから入ってきて」
メアリーの言葉になんだか納得がいってない様子のローランドがシャワー室に入る。
それを見送った後、アリオストロが徐に「そういえば俺が寝た後何かあったのか?」と聞いた。
それにメアリーは答えるか渋った。正直なところ、ローランドは言われることを拒絶するかもしれない。泣いたことなんて好きな男に聞かれたくないだろうし、それにそもそも誰もが自分の弱さを伝言ゲームのように伝えられるのは嫌だろう。
そう結論付けてメアリーはアリオストロに、
「そういうのは聞くなよ非モテ」
「なんのことかさっぱり理解できないけど貶されてるのはわかるぞ」
これだからというように肩を竦めれば、アリオストロは額に青筋を浮かべながらそういった。
「あんたが聞くようなことじゃないことは確か」
「そうなのか」
「お、あっさり引くね」
「誰にも……聞かれたくないことくらいあるだろう」
アリオストロのその言葉にメアリーは目を瞬かせる。
それからニヤッと笑ってその背中をバシバシと叩きながら「あんたは良い男だよ」とさらっと褒めた。
「それでこれからの話なんだけど」
「ちょっと待って、褒めてから急に真剣なるな。そのスピードに俺はついていけない」
「うるさい黙ってついてこい」
メアリーの言葉にアリオストロは片手で頭を押さえる。
それから準備ができたのか「昨日の、……シモンさんとの話し合いのことだよな」と自分から話を振った。
それにメアリーは頷くことで肯定する。
「多分同じことを言われるよ」
「わかってる」
アリオストロはメアリーの言葉に顔を伏せる。
そんな様子のアリオストロにメアリーは静かに「答えは決まったかい?」と口にした。
「正直納得してもらえるかわからないけど」
「別に無駄に納得してもらうために動かなくっていいんじゃないか?」
「どういう意味だよそれ」
「あの話を聞いて、あんたが思ったことを言えばいい。納得とか納得じゃないとかじゃなくって、純粋に思ったことを、自分の考えにどう影響したかってことを」
そう言えば、アリオストロは目から鱗というように見開いた。
それから戸惑ったように「それでいいのかな」と口にする。メアリー的にはむしろそれが一番だと思っていたので、ベッドに腰を下ろしてから足を組んでどうしようもないものを見るようにアリオストロを見た。
「あれを理不尽な怒りだと思った?」
「そんなことはない」
「じゃあ、的外れで自己中心的な八つ当たりだと思った?」
「全然」
メアリーの言葉一つ一つにアリオストロは否定を入れる。
それからベッドに座ってアリオストロは手を組んで、太ももに腕を置いた。
「むしろ、俺のために怒ってくれているんだって思った」
「間違いない」
「だからしんどかった。そんなことしてくれるヒトなんていなかったから」
アリオストロは昨日のことを思い出す。
ひとりのヒトとして尊重されたことを、その中で生きることに対してどう向き合うべきか教えてくれたシモンのことを、最初は怒鳴り声が怖いヒトでしかなかった。けれど、寝て起きて、それで思返してみればシモンはずっとアリオストロを一つの命として扱っていてくれたことを理解できた。
命に貴賎はないと、ただそう言ってくれていただけだと知った。
依頼を続けたいと思ったのは今でも死ぬだろうヒトを助けたいという考えがあるからだ。
でも今はその中に自分が役に立てるヒトであることを証明したい。何かを成し遂げれる存在でありたいという自己中心的な考えが入っている。
それは良くないことだと思うけれど、でもこれがアリオストロの生きるということだ。
アリオストロが今を生きることに向き合っていると証明する方法だと自分の中で答えを出したのだ。
「俺さ、うまく言葉にできるかわからなくてさ」
「誰もがいつでもうまい言葉で話せると思うなよ。それでいいんだよ。それがわからないほどシモンさんは馬鹿でもなければ子どもでもない」
「頑張るよ、俺、頑張るから」
アリオストロが両手を握りしめてそういった。
メアリーはその姿を見て、アリオストロが見てなことをいいことに優しく微笑んだ。
「シャワー浴びてきました!」
「よし、行ってこいアリオストロ」
「わかった、早めに出る」
交代するようにアリオストロとローランドがシャワー室を出入りする。
それを見送ってホカホカと湯気を立てるローランドが「何か、お話でもしてたのですか?」と聞いてきた。それにメアリーは一度キョトンとする。それからちょっとだけ面白くなって「ぷ」と笑った。
「なんで笑うんですか?!」
「いや、似たモノ同士だなと思ってね」
「似たモノ同士?」
「そう」
首を傾げるローランドにメアリーはベッドから立ち上がって「髪を拭くの手伝うよ」と口にした。
それから不思議そうに小首を傾げるローランドは西洋椅子に座る。
「まぁ、知らなくてもいい話だからね。気にしないでくれ」
「?わかりました」
アリオストロよりもよっぽど聞き分けのいいローランドの言葉を聞いて、メアリーはサラサラなローランドの髪を丁重にタオルで優しく拭き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。
主人公は苦悩や葛藤を抱えながら選択を重ねていくタイプの物語です。
また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。
残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる