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初等部編
私には好きな人がいますと叫びたい_1
しおりを挟むリラが涙ぐみながら着替えを手伝ってくれた。カーラは報告のあとは、傷の手当をして休むように言ってるので、今夜はもう来ないだろう。恋人であるアランもカーラの事を心配して待ってたに違いない。
「このまま、お休みになってもよろしいのでは?」とリラが言ってたが、エリアスがいるからサロンには行かねばならぬ。
自分の部屋に入ったら、正直どっと疲れが出て、ベッドに倒れこみたい気分だったが、「サロンに新規絵……サロンに新規絵……」と呟きながら着替えていた。
真夜中とは思えないくらいに、サロンが楽し気だったので、聞き耳をたてると、どうやらサシャがエリアスに絡んでる様子。わくわくしながら、そーっと覗いてみた。
そこには……エリアスの年相応の笑顔。
私に向けられるのは、不審者を見る目や、眉を寄せた嫌そうな顔や、張りつめた顔がほとんどだから、こうしてエリアスが自然にしてる姿はお目にかかれない。
以前、仲良くなりたい……と言ってたアレックスがエリアスの隣に座り、サシャとオスカーがあれこれと話しかけている。ああ、格好良い!
鼻血を出しつつ盗み見していたら、後ろからドスの効いた声が聞こえてきた。
「アリス?あなたお行儀が悪いわよ?」
振り返ると母がいて「ちょうどよかったわ」と、サロンからの声が聞こえないくらい距離をとった廊下の端まで連れていかれた。
「お父様から何か聞いた?」
「王家から遣いがきた、と……」
非公式ではあるが、内々に婚約の意思を伝える遣い。今のところ、両親しか知らないらしいが、これを受ければ正式に婚約の申込みがくるのだろう。
「そう……」
お母様が困ったような顔をしている。手に持っていた扇をパシパシ叩いていた。
「あなた、好きな人がいるのかしら?」
「えっ?!」
急にコイバナ?
以前、舞踏会のエスコート役について話したときに、母は「好きな男の子を誘ったらいいのに」と言っていた。そして、「お兄ちゃんは卒業なさい」と言われていたのを思い出した。まだエリアスに出会ってなかったから、エスコートは兄がいいと駄々をこねたわけだが。
あの頃は、母も兄も私の好きな人はラファエル様だと思い込んでいた。結局、ラファエル様にエスコートもしてもらったし、そう思われても仕方ないだろう。
でも今は違う
そう考えていたら、母が思いがけないことを言った。
「……もし、他に好きな人がいて、あなたが王家に嫁ぐのがいやなら、殿下からの申し出を断ろうかと考えているのだけど」
母の頭上に、パアァァァと後光が差した気がした。
こんな身近に味方になってくれる人がいたとは。
ええ、ええ!お母様!私は好きな人がいるんです!
そう叫びたかったが真夜中だったので抑えた。
「本当ですか?」
おそるおそる私がそう聞くと、にっこり笑って母が言う。
「私は好きな人と結婚して、幸せだもの」
本当に幸せそうに言うからとても羨ましかった。母クロエは、好きな人と結婚して、子供が三人いて、夫婦仲も睦まじい。
「娘には幸せになって欲しいと思うのは当たり前です。今回の略取事件でよくよくわかりました。だから、もう一度聞くわね、大切な私の娘であるアリス。あなた、好きな人がいるのかしら?」
私は暗い廊下の端で、母にだけ聞こえるように返事をした。本当は叫びたかった。
「います。それはラファエル様ではありません」
「それは誰?自分の口から言えるかしら?」
言える。
そう思って私は頷いた。だって、私はエリアスが好き。
この世界に生まれる前から好きだった。
現実に言葉を交わして、ますます好きになった。
ちょっと恥ずかしいけど、お母様に言おう。そう思って口を開いたとき、慌てた様子の執事のルベンが走ってきた。
「奥様、フランドル伯爵がお越しです」
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