上 下
92 / 116
豚の国と二つの帝国

ソフィーナ帝国の内情

しおりを挟む
 ソフィアさん達がソフィーナ帝国に向かったので、とりあえずヨハンさんに事情を話して帰ってきてもらいましょう。

 ヨハンさんの様子を冒険者管理板に映すと、闇エルフ達に見送られて出発するところのようです。ハイネシアン帝国が南進した情報は得ているようですね。

『ヨハンさんシトリンさん、任務ご苦労様です。成果はありませんでしたが、こちらが嘘の情報をつかまされてしまったのが原因なので任務は成功とします。気を付けて帰ってきてくださいね』

 私の声が届くと、二人は空を見上げて手を振ってきました。そしてヨハンさんが何やら得意げな表情で口を開きます。

「マスター、この近くの山にいるブタがケンカ売ってきたって聞いたから寄っていくっす!」

 何を言ってるんですか!?

『ギルドには喧嘩を売ってませんからね? あとブタ族はエルフと仲が悪いから、シトリンさんがいると本当に争いになるかもしれません。やめておいた方がいいですよ』

 と、止めはしますが。真面目な話、指令以外で冒険者が行く先をこちらが決めることはできません。ヨハンさんのことだから意外と何とかなるかもしれませんが、トラブルの元になりかねないからやめて欲しいですね。純粋に彼等のことが心配な気持ちもあります。

「大丈夫っすよ!」

 自信満々に答えますが、ヨハンさんの発言に根拠があるとは思えません。

「心配しないで、お姉さま! 仲の悪い種族だって直接会ってみたら意外と話せるものだってよく分かったもの」

 シトリンさんが笑顔で言いますが、その呼び方やめてください。確かに彼女はエルフでありながら人間のヨハンさんや闇エルフの皆さんとも仲良くなっていますが、そう上手くいくでしょうか?

『冒険者が向かうと言うのを止める権限はありませんが、ムートンにはソフィアさんのパーティーが向かっていますので、変なことはしないでくださいね』

「へーきへーきっす!」

 そう言って二人は南のムートンへ向かって森の中を歩いていきました。不安です。

 とはいえ、あちらばかりを気にしている場合ではありません。ソフィアさん達の様子を見てみましょう。ハンニバル将軍のパーティーはログだけ見ておけば良さそうですしね。

「それで、マリーモさんの心当たりって誰ですか?」

 おっと、馬車の中でソフィアさんが直球な質問をぶつけているところです。私も気になるので素直に白状すると良いですよマリーモさん。

「ていうか、思いっきり噂されてるんだけど本人は知らないのねー」

 マリーモさん、この期に及んで本題に入るのを引き延ばします。いけませんね、そういう態度は。

「……なんか背筋が寒くなったからぶっちゃけると、ソフィーナ帝国宰相のユダが皇帝陛下を失脚させようと悪だくみしてるらしいよ?」

 あのおじさん、そんな名前だったんですね。ソフィアさんに何かあった時は彼を後継者にするという話でしたが、暗殺ではなく失脚を狙うんですね。

「いきなり皇帝が死んで宰相が即位しても国民の信頼は得られないからね~」

 シビアなことを言い出す恋茄子です。長生きしてるだけあって妙に達観していますね。いつも歌ってるけど。

「なるほど、ユダなら私がジュエリアに行ったことも知っていますし、辻褄は合いますね。国に悪影響を及ぼすような画策をするのは宰相としても皇帝としても失格ですけど」

 国をほっぽり出して冒険者をしている人は皇帝失格じゃないのでしょうか。言ってることは正しいですけれども。

「では宮廷に戻って宰相を問い詰めますか?」

 アルベルさんの口調からは怒りの感情が漏れていますね。さりげなく剣の柄に手をかけていますけど、いきなり斬り捨てるつもりでしょうか?

「何の証拠もなく問い詰めてもしらばっくれるだけよー、ちゃんと調べて証拠を掴まないとねー」

 マリーモさんがアルベルさんをなだめつつ、何やら含みのある笑みを浮かべます。証拠を掴む算段があるんですかね。

「なんだか難しい話だね。ボク、よく分からないや!」

「大丈夫よー、ラウくんには頭よりそのお鼻を使ってもらうから」

 おや、イヌの鼻を調べものに使うつもりのようです。便利ですからね、鼻。

「なら、クレルージュの町で冒険者ギルドの支部を訪ねましょう。アーデンの本部と連携を取れるようにしたいと思っているんですよ」

 あら、ソフィーナ帝国クレルージュ支部ですか。設立時から何度かやり取りはしていますし、お互いに冒険者の融通はしていますが、連携を取って問題を解決するようなことはまだしていないんですよね。支部長のこともよく知りませんし。

「いいわねー、やっぱり情報集めはギルドの酒場よー」

 もうギルド=酒場みたいな認識になっているんですね。アーデンでもうちが一番賑わっているみたいですからね。実入りがよくて酒飲みの冒険者が集まる場所だから必然的にそうなるわけですが。

「では、我々はあくまでいち冒険者として正体を気付かれないようにクレルージュに入るのだな」

 全身真っ黒な鎧を着た騎士さんが何か言っています。そういえばソフィアさんとアルベルさんはギルドで正体が気付かれていないと本気で思っていましたね。

「ええ、決して私とアルベルが皇帝とその護衛だと気付かれないようにしましょう」

「そうだねー」

 マリーモさんが雑に返事をします。ツッコミを入れる気もないようです。ラウさんはよく分かっていないのかキョロキョロとみんなを見上げています。

 まあ、マリーモさんが止めないってことは、証拠を集めるのに正体を隠す必要はないのでしょう。馬車はそのまま整備された道を走り、一路クレルージュへと向かうのでした。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...