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魔族と天人、そしてブタ

エルフの職業

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 道中ずっとゲンザブロウさんの講釈や武勇伝を聞かされつつ(全部実話なのが凄いところなんですけどね)アーデンへと帰ってきた私達は、すっかりくたびれてしまいました。

「おかえりなさい、マスター。その人が男エルフですね!」

 ギルドに入るなり、コウメイさんが興奮気味に話しかけてきました。エルフはモンスターではありませんよ? たぶん。

「おかえり! コタロウも元気そうね」

「任務を果たせず、申し訳ありません」

 コタロウさんが謝罪の言葉を口にしましたが、実際のところコタロウさんの任務は管理板の機能でケストブルクの様子を見るための標識みたいなものでしたから、彼の頑張りを上手く利用できなかったのは私のせいです。クレメンスさんのように冷静な判断は私にはできませんでした。それも踏まえての、フィリップ王子の助言だったのでしょう。

「コタロウは十分に役目を果たした。何も気に病むことはない」

 そしてサラディンさんが慰め……というより本気で成果があったと伝えています。たぶんロランさんを助け出した件でしょう。結果的には大成功でしたが、かなり危ない賭けに出たものです。イーリエルがいたら全滅の可能性すらありました。なぜそこまで男エルフにこだわったのか、気になりますね。

「当然、このロランさんはギルドマスターの庇護下に入ったと宣言するんですよね?」

 ん? コウメイさんがよくわからないことを言います。宣言ってなんですかね。

「当然だな。これで森のエルフは冒険者ギルドに弱みを握られたことになる。事実上、この大陸の半分ほどをギルドが掌握したようなものだ」

 なんだかサラディンさんが悪い顔をしている!?

「えっと、それはどういう意味でしょうか?」

 ミラさんや、当事者のロランさんまで神妙な顔で頷いています。私だけが知らない話のようなので、ここは雰囲気に流されずに聞いておきましょう。

「森にはエルフの国が何個もあるぬー。どこの国も男のエルフを隠して存在を外に知られないようにしてるぬー」

 何故かここにいるタヌキさんが皆を代表して説明を始めました。恵みの森の支部はテンコさんに任せているのでしょうか?

「エルフ達は、対外的に道徳的優位を主張して、森に入った他種族を攻撃してるぬー。闇の眷属との戦争に勝って神様から森を与えられたって話だぬー。そんな連中がロランくんのような男エルフにしていた仕打ちを指摘されたら、恥ずかしくて人前に顔を出せなくなるぬー」

 恥ずかしくて……いやまあ、わかりますけど。

「闇の眷属との戦争については、トウテツが詳しく教えてくれました」

 コウメイさんが注釈を入れてきますが、そういうのも研究成果になるので、成果報告をしてもらえませんかね。

「そんなわけで、ハイネシアン帝国はロランくんを捕まえて、森のエルフから反抗する気力を奪おうとしていたんだぬー」

 そういえば交渉するって言ってましたね。でもそれだとギルドが奪ったと表明するようなもので、完全に敵対することになりますが……いや、コタロウさんを奪還した時点で同じことでしたね。

「では、ロランさんも冒険者になるということでよろしいのでしょうか?」

「是非お願いします!」

 おっと、ロランさんがかなり力強く要望してきました。ゲンザブロウさんに憧れて盗賊職にでもなりたがるのでしょうか。うちとしては大歓迎ですが。

「じゃあ、どの職業になるか決めましょ。エスカ、あれやって!」

 あれというのは冒険者登録時の職業決定ですかね。本人の希望を聞いて、魔法でチェックした適性と合わせて決めるのです。私がやる必要はないのですが、ここはそういうノリということで。

「はい。それではロランさんはどんな役割ロール職業ジョブを希望しますか?」

「戦士がいいです!」

 えっ?

「戦士ですか? まあエルフは戦士か魔術師が多いですけど。では武器は何を使います?」

「メイスやハンマーがいいですね、硬い敵も倒せそうですし。盾を持って前衛で殴り合いをしたいです!」

 ええー? なんでそんなに攻撃的なんですか。見た目は華奢で、どう見ても殴り合いには向いてないと思うんですけど!

「うーん、適性をチェックしてみましょうか……はい、明らかに魔法適性が高いですね。腕力は戦士になるにはかなり物足りないようです」

 調べる前から知ってた。ずっと監禁されてましたしね。

「それならぁ、重装魔術師ってのはどうだぁ?」

 なんですかそれ。ゲンザブロウさんが斬新な提案をしてきました。

「どういう職業ですか?」

 そしてロランさんは目を輝かせながら質問します。ゲンザブロウさんの言うことなら何でも聞きそうですね。

大盾ラージシールドとぉ、全身鎧フルプレートでぇ、ガチガチに硬くなってぇ、至近距離から魔法ぶっ放すんだぁ」

 普通に強そう。でも腕力的に大盾はどうなんでしょうか。敵を殴るよりは少なくて済むのかな?

「それなら、ステラちゃんにお任せ! 魔法の鎧と盾を作ってあげるよ」

 魔法技師のステラさんが手を上げます。そんなものも作れるんですね。というか、同じパーティーで行動するつもりでしょうか。この前のダンジョン探索で意気投合したようで、ゲンザブロウさん、ユウホウさん、アルスリアさんとステラさんは固定パーティーのようになっています。そうなるとタヌキさんやハンニバル将軍に代わる前衛が欲しいところで……なるほど、だからロランさんは戦士を希望したんですね。

「では、ロランさんは役割が戦士、職業は重装魔術師ということで。将来的には騎士号を手に入れて魔法騎士を名乗ると分かりやすいのではないでしょうか。他人からどんな職業か分かりやすいのも大事ですからね」

 冒険者の職業は、その人がどんなことをできるのかを表すのが一番の目的ですからね。ちょっとイメージが湧かない職業を名乗られると扱いに困ってしまいます。

「カッコいいじゃねぇかぁ! それ採用なぁ!」

 ヨハンさんみたいなことを言うゲンザブロウさんです。採用するか決めるのはロランさんですよ。

「ありがとうございます!」

 そのロランさんは嬉しそうにしていますが。

 こうして、ギルドに新たな冒険者が加わったのでした。

 さて、ついに先輩を迎えに……と言いたいところですが、やはり現在の色々な問題が解決するのを待ちたいと思います。まずはヨハンさん達がどうなったのかを知りたいですね。
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