幽世の門番〜人と稀人が心を通わせる上で発生する諸問題について〜

寿甘(すあま)

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仕組まれた暴露

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 アリスと玉藻の方には危険が迫っている気配はない。先ほどの件から考えてもこの状態から大蛇が彼女達に危害を加えるのは無理だろう。

 となれば、狙われているのは明蓮かオリンピックだ。私はとっさにそれだけ考えて、二人をかばうように扉に向かって立った。意識が別の方向に向いていたせいでこの瞬間まで何者かが近づいていることに気付けなかったのは失敗だ。

 そして、教室の扉が開いた先に立っていたのは、想像もしていなかった、だが見知った人物だった。

「明蓮殿! あっしをスピカまで連れて行ってくだせえ!」

 教室の扉を開けるなり大声で話し始めたのは、星熊童子だった。しかも人間の姿ではない、鬼の本性を見せたままでの登場だ。

「え?」

 教室中が静まり返る。しまった、これは厄介な状況だ!

 マレビトが遠くの星に旅行することは人間の間でも常識になっている。そしてそのために必要なのが特別な力を持つ人間だということも。だからこそ能力者は迫害の対象になり、明蓮も自分の能力を秘密にしてきたのだ。

 つまり、星熊童子のたったこれだけの発言でこれまでの秘密を守る努力は全て水泡に帰したというわけだ。その上不味いことに、ついさっき彼女の秘密を守るためにクラスの皆に噓の説明をしたばかりだ。

 当然、クラス中から問い詰めるような視線が私と天照、そして明蓮に集中した。

「え、いやちょっと待って。そういうのは放課後に」

 突然のことに動揺した明蓮は、上手い返事が出来ずにしどろもどろになる。この態度で多くのクラスメイトが確信を持ったようだ。

「九頭竜坂さんって、幽世の扉をひらけるの?」

 一人の生徒が言った。オリンピックのようにマレビトを調べていなくても、これぐらいの情報を持っている人間はいくらでもいるのが今の世の中だ。それほど、人間達はマレビトと能力者の関係に関心を持っている。

 もちろん、悪い意味で。

 自分から明かしていれば問題なく受け入れられたのかもしれない。だが、今の教室には非難の空気が満ちている。能力者であることそのものではなく、なぜさっき明かさなかったのかという反応だ。人間の感情に疎い私にもはっきりとわかる。

 つまり、自分達を信じてくれなかったことへの失望である。

 私がマレビトであることを難なく受け入れた人々だ。恐らく彼女の秘密も受け入れられた自信があるのだろう。その彼等の心意気を裏切った形になるのだ。

 星熊がやってきたのは偶然ではないだろう。だが大蛇に操られているような痕跡はない。彼はただ純粋に酒呑のところに行きたい一心で駆けつけてきたのだ。通常であれば私が気付いて誘導していたが、先ほどの騒動でそれどころではなかった。大蛇はこれを見越して仕掛けてきたのだ。

 こうなったら、少々卑怯だが私の力で記憶を少しだけいじるか。

――それはさせねえよ。

 大蛇の声が脳に響く。奴の邪気が、私の神通力を邪魔しているのを感じた。なるほど、こちらに力を割いていたのか……まったくもって不愉快な奴だ。

「そうよ、明蓮は幽世の扉を開ける。私が彼女に近づいたのは旅行に行くため。そのついでに高天原にも誘ったけどね」

 ここで、天照が我々の前に滑るように出てきて説明した。クラスの空気がいくらか和らいだのを感じる。

 上手い説明だ。彼女は一切嘘を言っていない。そして先ほどの説明ともまるで齟齬そごがない。これで嘘をついているのは私だけになった。

「そうだよ、私もいきなり狼がやってきてゲームに誘われたんだ! あの時は本当にびっくりしたよー」

 オリンピックが合いの手を入れる。彼女と天照の馴れ初めを説明すると、クラスメイト達も納得したようだ。

 だが、それで解決したわけではなかった。

 クラスメイトの女子が明連に向かって言ったのだ。

「そりゃあ友達の秘密を勝手に教えたりはしないよね。天照様や河伯君が言わないのは分かるよ。でも、九頭竜坂さんはどうして言ってくれなかったの? 河伯君は自分がマレビトだって明かしてくれたのに」

 自分の秘密を明かさなかった彼女を責める言葉。明蓮はうつむき、答えられない。

「……誰しも、人に知られたくない秘密お一つや二つあるものだ。ましてや、明蓮の力はこの世界では差別の対象。言い出すには相当な勇気が必要だろう」

 私が言い訳をする。そもそも私がここにやってこなければ、彼女の秘密がクラスメイトに知られる可能性はなかったのだ。……いや、よく考えたら天照や酒吞や玉藻は彼女の都合を考えずにやってきていたから時間の問題だったのかもしれないが、そこはこの際気にしないでおく。

「分かってるよ! でも、悲しいじゃない。私達が、そんなことで友達を差別するような人間じゃないって、信じてもらえなかったんだもの!」

 信じてもらえない、か。私も明蓮に心を開いてもらえなくてずっと思い悩んでいた。この少女の気持ちはわかる。だが、それでも明蓮を責めるのは間違っていると思う。どう言えば傷つけずに納得してもらえるだろうか?

「……ごめんなさいっ!」

 そう言って、突然明蓮が走って教室から飛び出していく。私は天照に目配せすると、すぐその後を追った。追いつくのは簡単だが、ここは彼女が落ち着ける場所にたどり着くまで移動しよう。

――クックック、うまく慰めてやれるといいな。

 不愉快な声が脳に響くが、無視して明蓮を追いかけるのだった。
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