38 / 48
更なる攻撃
しおりを挟む
駆けていく明蓮の行く先には途中で気付いた。図書室だ。
私が後を追っているのには当然気付いている彼女が図書室に向かうということは、そこで私と二人で話をするつもりなのだろう。
現在は授業時間中なので図書室に他の人間はいない。案の定明連は図書室に入ると、机のある場所まで行って立ち止まる。そのまま振り返らない彼女に近づき、1メートルほどの距離で私も止まった。なんと声をかければいいだろうか?
「……河伯は悪くないよ。クラスのみんなは私のこの力を責めてるんじゃなくて秘密にしていたことを悲しんでいるんだから。それは分かってる」
「明蓮……」
明蓮の口から最初に出たのは、私へのフォローだった。自分の知られたくない秘密を知られて、さらにクラスメイトから責められて辛いだろうに。
「クラスのみんながそんなことで私を差別したりはしないってことはずっと前から理解してた。でも、怖かったんだ。井上さんの言う通り、私はみんなを信じることが出来なかった」
井上というのは先ほど明蓮を責めてしまったクラスメイトだ。彼女も決して明蓮を悲しませるつもりではなかっただろう。ただ自分自身の悲しみを抑えきれなかっただけなのだ。
だが、それを私が言っても仕方ない。明蓮はそれをしっかり理解しているからだ。
「五輪が私を受け入れてくれた時、本当に嬉しかった。ずっとひとりぼっちだったから……周りに仲のいい子は沢山いたし、何故か私に好意を持ってくる女の子も沢山いたけど、本当の自分を誰にも見せられない状態では誰とも一緒にいるとは感じられなかった」
明蓮は強い娘だ。全てを自分一人で抱え、悩み、解決している。現状も冷静に分析し、思いを吐き出すことで心の整理をしている。そんな彼女に私が出来ることは一体なんだろうか?
「生徒会の人達も良くしてくれて、私のことを家族のように心配したり応援したりしてくれてる。でも、やっぱり自分の秘密を明かすことは出来なかった。私は本当に憶病で……卑怯者だから」
違う!
きっぱりと否定したい。明蓮は卑怯者なんかじゃないと。
だが、それをただ言葉で伝えることに何の意味があるのだろうか?
彼女は私が知っている全てをはっきりと理解した上でこう言っているのだ。ただ否定するのは、彼女の思いやりや覚悟を否定することになるのではないだろうか。
どうすればいい……どうすれば!
「……」
私は無言で明蓮に近づき、彼女の肩に手をかける。
「河伯?」
振り向いた彼女を、正面から抱きしめ、頭を撫でてやった。私には言葉で彼女を慰めることは出来ない。ならば、せめて態度で示すしかないのだ。
「ちょっ……本当にあんたは、距離感がおかしいのよ……」
そう言って、明蓮は私の胴に腕を回してきた。
「最初に河伯が来た時にね、私はちょっと嫉妬しちゃったんだ。だって、すごく可愛かったから。私もこんな風に可愛い女の子に育っていたら、もっと違う人生を歩めたのかなって。頼れる男の子が守ってくれて、私はただ、その胸の中で安心して……そう、こんな風に」
「私が守る。明蓮が安心して身を預けられる相手に出会うまでは、その役目を私が果たそう」
「……一生現れないかも」
「その時は、最期まで一緒にいよう。私は長生きだから、心配はいらない」
「……うん」
私達はそのまましばらく、無言で抱き合っていた。
「大変よ、河伯!」
どちらともなく離れ、図書室を出て二人でクラスに戻ろうとしていた時に天照がオリンピックと共に現れた。星熊童子もいる。
「どうした?」
天照の表情は分からないが、その口調と一緒にいるオリンピックの表情からただごとではない様子がうかがえる。一体何があったのだろうか。
「アリスと玉藻が大蛇にさらわれたわ!」
「なんだと!?」
まさか、あの大した力も出せずにいる大蛇が強力なマレビトであるアリスと玉藻をさらうことが出来るのか? 彼女達がいた場所に意識を向けると、確かに見当たらない。念のため周辺を探るが、どこにも気配を感じることが出来なかった。
「もしや、ここまで計算に入れてわざと力を抑えて現れたのか!」
今日一日で立て続けに起こった出来事の繋がり具合、手際の良さ。全てが奴の計算通りだと考えるのが妥当だろう。
「大蛇の居場所は分かるの?」
すっかり心を落ち着けた明連が私と天照を交互に見て聞く。
「私は知らないが、天照はどうだ?」
「確信はないけど……心当たりはあるわ」
やはり知っているか。彼女にとっても因縁浅からぬ相手だ。奴についてはずっと眠っていた私よりも遥かに詳しいだろう。
「助けに行こう!」
オリンピックが言う。その手には対マレビト用のジャマーがあるのだが、荒事に彼女を連れていくのは気が引ける。
「置いていこうなんて思わないでよ。アリスちゃんも玉藻ちゃんも大切なお友達なんだから!」
だが、私の考えを見透かしたようにオリンピックが念を押してきた。
「どうせ大蛇は五輪ちゃんも狙ってるんだし、一緒にいた方が安全かもよ」
天照も彼女に加勢をする。こうなっては拒否も出来ないだろう。
「仕方ないな。自分の身を守ることを第一に考えろ。無茶はするなよ」
「もちろん私も行くからね」
明蓮も手を挙げた。ここで一人だけ置いていくわけにもいかないから当然の流れだろう。
「分かった。それで、どこにいるんだ? 遠くなら幽世を通っていく方が良いな」
一緒に行くとなったら明蓮の力も利用させてもらおう。彼女も力強く頷いた。
「そうね、ちょっと遠いからそれで行きましょうか。行先は出雲よ」
「分かったわ、幽世の扉を開く!」
私達はアリスと玉藻を救うため、幽世を通って出雲へと向かうのだった。ちなみに星熊童子も一緒に来る。ずっと無言だが大丈夫だろうか。
私が後を追っているのには当然気付いている彼女が図書室に向かうということは、そこで私と二人で話をするつもりなのだろう。
現在は授業時間中なので図書室に他の人間はいない。案の定明連は図書室に入ると、机のある場所まで行って立ち止まる。そのまま振り返らない彼女に近づき、1メートルほどの距離で私も止まった。なんと声をかければいいだろうか?
「……河伯は悪くないよ。クラスのみんなは私のこの力を責めてるんじゃなくて秘密にしていたことを悲しんでいるんだから。それは分かってる」
「明蓮……」
明蓮の口から最初に出たのは、私へのフォローだった。自分の知られたくない秘密を知られて、さらにクラスメイトから責められて辛いだろうに。
「クラスのみんながそんなことで私を差別したりはしないってことはずっと前から理解してた。でも、怖かったんだ。井上さんの言う通り、私はみんなを信じることが出来なかった」
井上というのは先ほど明蓮を責めてしまったクラスメイトだ。彼女も決して明蓮を悲しませるつもりではなかっただろう。ただ自分自身の悲しみを抑えきれなかっただけなのだ。
だが、それを私が言っても仕方ない。明蓮はそれをしっかり理解しているからだ。
「五輪が私を受け入れてくれた時、本当に嬉しかった。ずっとひとりぼっちだったから……周りに仲のいい子は沢山いたし、何故か私に好意を持ってくる女の子も沢山いたけど、本当の自分を誰にも見せられない状態では誰とも一緒にいるとは感じられなかった」
明蓮は強い娘だ。全てを自分一人で抱え、悩み、解決している。現状も冷静に分析し、思いを吐き出すことで心の整理をしている。そんな彼女に私が出来ることは一体なんだろうか?
「生徒会の人達も良くしてくれて、私のことを家族のように心配したり応援したりしてくれてる。でも、やっぱり自分の秘密を明かすことは出来なかった。私は本当に憶病で……卑怯者だから」
違う!
きっぱりと否定したい。明蓮は卑怯者なんかじゃないと。
だが、それをただ言葉で伝えることに何の意味があるのだろうか?
彼女は私が知っている全てをはっきりと理解した上でこう言っているのだ。ただ否定するのは、彼女の思いやりや覚悟を否定することになるのではないだろうか。
どうすればいい……どうすれば!
「……」
私は無言で明蓮に近づき、彼女の肩に手をかける。
「河伯?」
振り向いた彼女を、正面から抱きしめ、頭を撫でてやった。私には言葉で彼女を慰めることは出来ない。ならば、せめて態度で示すしかないのだ。
「ちょっ……本当にあんたは、距離感がおかしいのよ……」
そう言って、明蓮は私の胴に腕を回してきた。
「最初に河伯が来た時にね、私はちょっと嫉妬しちゃったんだ。だって、すごく可愛かったから。私もこんな風に可愛い女の子に育っていたら、もっと違う人生を歩めたのかなって。頼れる男の子が守ってくれて、私はただ、その胸の中で安心して……そう、こんな風に」
「私が守る。明蓮が安心して身を預けられる相手に出会うまでは、その役目を私が果たそう」
「……一生現れないかも」
「その時は、最期まで一緒にいよう。私は長生きだから、心配はいらない」
「……うん」
私達はそのまましばらく、無言で抱き合っていた。
「大変よ、河伯!」
どちらともなく離れ、図書室を出て二人でクラスに戻ろうとしていた時に天照がオリンピックと共に現れた。星熊童子もいる。
「どうした?」
天照の表情は分からないが、その口調と一緒にいるオリンピックの表情からただごとではない様子がうかがえる。一体何があったのだろうか。
「アリスと玉藻が大蛇にさらわれたわ!」
「なんだと!?」
まさか、あの大した力も出せずにいる大蛇が強力なマレビトであるアリスと玉藻をさらうことが出来るのか? 彼女達がいた場所に意識を向けると、確かに見当たらない。念のため周辺を探るが、どこにも気配を感じることが出来なかった。
「もしや、ここまで計算に入れてわざと力を抑えて現れたのか!」
今日一日で立て続けに起こった出来事の繋がり具合、手際の良さ。全てが奴の計算通りだと考えるのが妥当だろう。
「大蛇の居場所は分かるの?」
すっかり心を落ち着けた明連が私と天照を交互に見て聞く。
「私は知らないが、天照はどうだ?」
「確信はないけど……心当たりはあるわ」
やはり知っているか。彼女にとっても因縁浅からぬ相手だ。奴についてはずっと眠っていた私よりも遥かに詳しいだろう。
「助けに行こう!」
オリンピックが言う。その手には対マレビト用のジャマーがあるのだが、荒事に彼女を連れていくのは気が引ける。
「置いていこうなんて思わないでよ。アリスちゃんも玉藻ちゃんも大切なお友達なんだから!」
だが、私の考えを見透かしたようにオリンピックが念を押してきた。
「どうせ大蛇は五輪ちゃんも狙ってるんだし、一緒にいた方が安全かもよ」
天照も彼女に加勢をする。こうなっては拒否も出来ないだろう。
「仕方ないな。自分の身を守ることを第一に考えろ。無茶はするなよ」
「もちろん私も行くからね」
明蓮も手を挙げた。ここで一人だけ置いていくわけにもいかないから当然の流れだろう。
「分かった。それで、どこにいるんだ? 遠くなら幽世を通っていく方が良いな」
一緒に行くとなったら明蓮の力も利用させてもらおう。彼女も力強く頷いた。
「そうね、ちょっと遠いからそれで行きましょうか。行先は出雲よ」
「分かったわ、幽世の扉を開く!」
私達はアリスと玉藻を救うため、幽世を通って出雲へと向かうのだった。ちなみに星熊童子も一緒に来る。ずっと無言だが大丈夫だろうか。
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる