7 / 47
第1章 はじまるまでの5週間
7、たろさんの「お誘い」の話
しおりを挟む
以前会社の経理部にいた堀川 千佳さんは相変わらずだった。
真面目で、義理堅くて、礼儀正しい。
案の定お礼のメッセージが届いた。
以前と違うのは絵文字がない事くらいか。
きれいに割り勘にしていたら間違いなくそれっきりだった気がする。
あの時間に迎えに来る男がいないとか、結婚式の後にまっすぐ帰らず一人で飲みに寄るのは彼氏はいないのだろうなと勝手に推測した。
40前の男からお誘いメールが来ても気持ち悪く思われる気がして、こちらから連絡するのは気が引けた。
咄嗟に意図してこんな小細工したとバレたら「さすがですね」と呆れられそうだ。
彼女は俺を遊び人だと思っている節があるので。
あの晩は数時間飲んだだけだが、妙に居心地のいい時間だった。
せっかく縁あって再会したのだから、今度こそもう少し親しくしてみたいと━━思ってしまった。
※
『山田駅の近くにある焼き鳥屋さんに行ってみませんか。行った事がないのでアタリなのかハズレなのか分からないのですが、前々から気になっていたお店です。土曜の晩でも大丈夫です』
山田駅ならば俺はバスで、堀ちゃんは電車で集合出来る。帰りも公共の乗り物で帰る事が出来るから、とアプリからメッセージが届いた。
郊外の駅だ。
あるのは焼き鳥屋と居酒屋、それに古いスナックくらいしかない。
ハシゴは考えていない事が明白だった。
本当に、夕食がてら焼き鳥屋に行って早々に帰る気らしい。
飲み友達認定されたか。
しかもあの焼き鳥屋。
通勤途中の県道沿いにあるので言われてすぐに分かった。
かなり渋い━━昭和開業であろうくすんだ外観の小さな店。
堀ちゃん、すごいチョイスで来たな。
カフェ位の方が負担が少ないと考えてもらえるだろうと思った。
おごってくれは建前で、出来ればこちらが出したい。
相手はあの堀ちゃんだからかなり難しいだろうけど。
昼間からの方がゆっくり時間が取れるだろうという目論見があっての日曜の昼狙いだったのだが、そこまで合理的なプランを立てられると異論を唱えるのも不自然過ぎる気がする。
まぁ土曜の晩に会って、日曜に時間があれば約束を取り付けるという手もあるか。
こちらも土曜は出勤日だが、前日までに調整して定時退社する。
かなり骨が折れる事にはなりそうだが。
『仕事とかで都合が悪くなったら遠慮なく言ってくださいね』と気遣ってもらってるのか、その方が好都合とも取れるのかメールでは判断しかねる文面を送られつつ、土曜の晩に焼き鳥屋で話がまとまった。
聞かれたので土曜は出勤日だと答えれば『19時とか19時半集合の方がバタバタしないし安心じゃないですか?』と言ってもらい、万が一の事を考えて19時にしてもらった。
退社の際メールをして、17時退社の場合は少し時間を繰り上げで、って━━━
こんなに至れり尽くせりの約束でいいのか、堀ちゃん。
社内恋愛の経験はないが、勤務状況を把握している相手だとこうも理解されるものなのか。
少し感動した。
うわ、ちょっと手が汗ばんでないか?
我ながらおかしくなった。
次の土曜までがやたらと長く感じ、その土曜は気合いと執念で定時退社をもぎ取った。
堀ちゃんに18時半には行けると連絡したところ『お疲れさまです。山田駅に18時28分着の電車に乗る予定ですが、たろさんはゆっくりで大丈夫ですよー。先に着いたら席取っときます』とすぐに返事があった。
うん、端々に社会人的業務メールの空気が感じられて仕方ない。
真面目で、義理堅くて、礼儀正しい。
案の定お礼のメッセージが届いた。
以前と違うのは絵文字がない事くらいか。
きれいに割り勘にしていたら間違いなくそれっきりだった気がする。
あの時間に迎えに来る男がいないとか、結婚式の後にまっすぐ帰らず一人で飲みに寄るのは彼氏はいないのだろうなと勝手に推測した。
40前の男からお誘いメールが来ても気持ち悪く思われる気がして、こちらから連絡するのは気が引けた。
咄嗟に意図してこんな小細工したとバレたら「さすがですね」と呆れられそうだ。
彼女は俺を遊び人だと思っている節があるので。
あの晩は数時間飲んだだけだが、妙に居心地のいい時間だった。
せっかく縁あって再会したのだから、今度こそもう少し親しくしてみたいと━━思ってしまった。
※
『山田駅の近くにある焼き鳥屋さんに行ってみませんか。行った事がないのでアタリなのかハズレなのか分からないのですが、前々から気になっていたお店です。土曜の晩でも大丈夫です』
山田駅ならば俺はバスで、堀ちゃんは電車で集合出来る。帰りも公共の乗り物で帰る事が出来るから、とアプリからメッセージが届いた。
郊外の駅だ。
あるのは焼き鳥屋と居酒屋、それに古いスナックくらいしかない。
ハシゴは考えていない事が明白だった。
本当に、夕食がてら焼き鳥屋に行って早々に帰る気らしい。
飲み友達認定されたか。
しかもあの焼き鳥屋。
通勤途中の県道沿いにあるので言われてすぐに分かった。
かなり渋い━━昭和開業であろうくすんだ外観の小さな店。
堀ちゃん、すごいチョイスで来たな。
カフェ位の方が負担が少ないと考えてもらえるだろうと思った。
おごってくれは建前で、出来ればこちらが出したい。
相手はあの堀ちゃんだからかなり難しいだろうけど。
昼間からの方がゆっくり時間が取れるだろうという目論見があっての日曜の昼狙いだったのだが、そこまで合理的なプランを立てられると異論を唱えるのも不自然過ぎる気がする。
まぁ土曜の晩に会って、日曜に時間があれば約束を取り付けるという手もあるか。
こちらも土曜は出勤日だが、前日までに調整して定時退社する。
かなり骨が折れる事にはなりそうだが。
『仕事とかで都合が悪くなったら遠慮なく言ってくださいね』と気遣ってもらってるのか、その方が好都合とも取れるのかメールでは判断しかねる文面を送られつつ、土曜の晩に焼き鳥屋で話がまとまった。
聞かれたので土曜は出勤日だと答えれば『19時とか19時半集合の方がバタバタしないし安心じゃないですか?』と言ってもらい、万が一の事を考えて19時にしてもらった。
退社の際メールをして、17時退社の場合は少し時間を繰り上げで、って━━━
こんなに至れり尽くせりの約束でいいのか、堀ちゃん。
社内恋愛の経験はないが、勤務状況を把握している相手だとこうも理解されるものなのか。
少し感動した。
うわ、ちょっと手が汗ばんでないか?
我ながらおかしくなった。
次の土曜までがやたらと長く感じ、その土曜は気合いと執念で定時退社をもぎ取った。
堀ちゃんに18時半には行けると連絡したところ『お疲れさまです。山田駅に18時28分着の電車に乗る予定ですが、たろさんはゆっくりで大丈夫ですよー。先に着いたら席取っときます』とすぐに返事があった。
うん、端々に社会人的業務メールの空気が感じられて仕方ない。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる