会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)

志野まつこ

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第1章 はじまるまでの5週間

13、たろさんの「仲直りの握手」の話

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 日曜の夜だからか土産物店の並ぶ通りも、足湯も空いていた。

 土産物店をめぐる堀ちゃんは本当に楽しそうだった。
 時々店員に「どちらからですか?」と尋ねられ、「地元なんですよ」と言って話す堀ちゃんの人当たりの良さは相変わらずだった。

 和雑貨や焼き物の器を熱心に見て、ご当地キャラクターのグッズも「あー、これかわいいなぁ」と唸る。
 女子の「かわいい」は分からない、とは言うが堀ちゃんの趣味はなかなか個性的だった。

 だが、堀ちゃんは結局買わずじまいだった。

 器の専門店でも渋い焼き物を睨み付けるようにずっと見ていたが、一つ頷くと棚に戻した。
 確かに予め「片付けが苦手で家に物を置かないように心掛けてるので、見るだけになっちゃうんですけど、本当にそれでもいいですか?」と確認された。それも二回。
 高い棚の物が気になる時は、申し訳なさそうにはにかむようにこちらを見上げて来るのが上目使いになって可愛い。
 でもそこに慣れた感もあって少し複雑だった。

 身長の低い堀ちゃんなので、高い所の物は取ってもらうという習慣がついているのは仕方ない事なのに。
 そして店を出る時も店員に会釈して「ありがとうございました」と言う堀ちゃんは律儀だ。

 食事の前に足湯に入った。
 この界隈は無料の足湯が何か所か作られており、二人並んで座って足を浸す。

「「あー」」
 湯船に浸かった時と同じような声が重なり、これまた二人同時に笑ってしまった。
 その反面、ロングスカートを膝まで上げた堀ちゃんの白い足を見て軽く動揺した自分が嫌になる。

「晩ご飯、何にしましょっか。軽食系とお米だとどっちがいいですか?」
 観光地なので飲食店は多いので店には困らなかった。
 堀ちゃんは古民家カフェと郷土料理の店が気になると言う。

「お昼は何系だったの?」
「和食系です。たろさん今日お米食べました?」
「食べてないけど、昼が和食ならカフェにする? 米にこだわりはないし」
「んーでもそれならお米にしましょうか。男の人は1日1食はお米を食べてるイメージあります。それにわたしお昼に鯛飯と悩みに悩んだんですよね。郷土料理なら鯛飯ありそうだし。食べ過ぎですかねー」
 堀ちゃんは照れを隠すように「あはは」と笑いながらもさらっと決めた。

 男前だ。
 会社でも飲み会の幹事をよくしていた堀ちゃんだ。行き先なども事前にチェックしているらしく、デートプランなんて男の役割をこなしていく。
 もっと男を頼ったり、甘えてもいいのに。
 そう思いながら、堀ちゃんのそんな様子に今までの男の影を感じてしまって、それは口をついて出た。

「でもカフェも気になるから、また今度行ってみようか」

 堀ちゃんは一瞬詰まってから「はぁ」と答えた。
 そりゃそうだろうなと思う。
 これだけ押されれば戸惑いもするだろう。

 食後、昔のお堀を利用した自然豊かな公園に移動すればそこには幻想的な光景が広がっていた。
 遊歩道に沿って並べられた色とりどりの提灯は、考えていたよりもずっと凝っている。
 提灯と言うよりもランタンのようだ。

「これはすごいですねー」
 堀ちゃんも予想以上だったらしく、白い息を吐きながら弾んだ声を上げた。
 木に掛かっている灯りを見上げ、歩道沿いに並んだ小さな灯籠を楽し気に覗きこみながら歩く堀ちゃんの背に声をかける。
「堀ちゃん」

「はい?」
 子供のように無邪気に振り返った笑顔は年齢よりも幼く見えた。

「仲直りしよう」

 堀ちゃんは不思議そうに俺の差し出した左手を見ていた。 
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