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第1章 はじまるまでの5週間
21、たろさんの「ずっと気になっていた指輪」の話
堀ちゃんは首をかしげてしばらく考え込み、手を打つ勢いで「ああ!」と思い当たったように笑った。
いま思い出すのに結構時間がかかってたな。
八年前、堀ちゃんは指輪をつけ始めた後すぐに退職した。だから年のいった社員はみな結婚退職だと思い込んでいた。
彼女と仲のいい人間はみんな「ストレスで転職」というのを知っていたらしいが。
「付き合ってすぐのバレンタインにチョコレートあげたら次の週末にホワイトデーだと言ってペアリング買いに連れて行かれたんですよ。言われるまま左の薬指につけてましたけど。会社にもして行ってたんですよねぇ。はー、あの頃は若かった」
男ばかりの会社に勤める彼女に、指輪をつけさせたかった男の気持ちは理解できた。
「えーと」
「単なるペアリングってやつです。結婚は考えませんでした。普通は考えるのかもしれないけど、あの頃はあんまり結婚願望なかったんですよねー。じっくりちゃんと付き合って見極めて結婚したいと思ってて、2年付き合って、2年同棲して大丈夫なら結婚とか考えてましたけど、2年しか続かなかったんですよ」
堀ちゃんは聞きたい事を先読みして答えてくれた。
「月に2,3回会えればいいわたしが、週に4日会いたがる人と2年もったのが今となっては不思議でしょうがないくらいです。もう10年近く前の話ですよ。こっわ! あ、ありがとうございました」
ちょうど食器洗いが終わる。
「この家に入った男の人は弟以外ではたろさんが初めてですよ」
ポツリと聞こえて、思わず頭一つ分下にある堀ちゃんの目を見れば、照れたように視線を躱された。
堀ちゃんの車を運転して帰路に就く。
助手席に座った堀ちゃんが前を向いたまま口を開いた。
「たろさーん」
「ん?」
冷静を装って答えたが、思いっきり動揺した。
え、今のなんか甘えた感じじゃなかった?
「この間のってまだ有効ですかね?」
何が、と思えば堀ちゃんは首をかしげるようにこちらを見てから、前方に視線を戻した。
「交際を前提としたおつきあい期間を終了してもよろしいでしょうか」
一瞬、意味を考える。
「えと、よろしくお願いします、で合ってる?」
ふふ、と堀ちゃんは笑って「こちらこそよろしくお願いします」と言った。
嬉しそうにはにかむ様子に心臓をわしづかみにされた気がした。
運転している状況をこれほどもどかしいと思った事はない。
こっちからまた言うべきか、でもタイミングが全く分からないと思っていたから、言ってくれたのはすごい嬉しい。
嬉しいけど。
嬉しくて、ついそのまま帰してしまったけど。
これは完全に俺の自己都合で、我が儘だという自覚はあるのだけれども。
言ってもらっておいて自分勝手だとは思うけど。
堀ちゃん、もう少し早く言ってくれたら。
せめて部屋を出る前に言ってくれたら抱きしめる位は出来たのに。
実家の前で万が一家人に見られた場合、堀ちゃんの評価が下がる事を考えるとうかつな事も出来ず、握手のように手をつなぐだけで別れる事になってしまった。
それだけでも堀ちゃんは照れたように笑った。
あの小さな肩を抱きしめたかった。
そう残念で悔しく思うものの、すぐに口元が緩む。
その晩はずっとそんな調子だった。
いま思い出すのに結構時間がかかってたな。
八年前、堀ちゃんは指輪をつけ始めた後すぐに退職した。だから年のいった社員はみな結婚退職だと思い込んでいた。
彼女と仲のいい人間はみんな「ストレスで転職」というのを知っていたらしいが。
「付き合ってすぐのバレンタインにチョコレートあげたら次の週末にホワイトデーだと言ってペアリング買いに連れて行かれたんですよ。言われるまま左の薬指につけてましたけど。会社にもして行ってたんですよねぇ。はー、あの頃は若かった」
男ばかりの会社に勤める彼女に、指輪をつけさせたかった男の気持ちは理解できた。
「えーと」
「単なるペアリングってやつです。結婚は考えませんでした。普通は考えるのかもしれないけど、あの頃はあんまり結婚願望なかったんですよねー。じっくりちゃんと付き合って見極めて結婚したいと思ってて、2年付き合って、2年同棲して大丈夫なら結婚とか考えてましたけど、2年しか続かなかったんですよ」
堀ちゃんは聞きたい事を先読みして答えてくれた。
「月に2,3回会えればいいわたしが、週に4日会いたがる人と2年もったのが今となっては不思議でしょうがないくらいです。もう10年近く前の話ですよ。こっわ! あ、ありがとうございました」
ちょうど食器洗いが終わる。
「この家に入った男の人は弟以外ではたろさんが初めてですよ」
ポツリと聞こえて、思わず頭一つ分下にある堀ちゃんの目を見れば、照れたように視線を躱された。
堀ちゃんの車を運転して帰路に就く。
助手席に座った堀ちゃんが前を向いたまま口を開いた。
「たろさーん」
「ん?」
冷静を装って答えたが、思いっきり動揺した。
え、今のなんか甘えた感じじゃなかった?
「この間のってまだ有効ですかね?」
何が、と思えば堀ちゃんは首をかしげるようにこちらを見てから、前方に視線を戻した。
「交際を前提としたおつきあい期間を終了してもよろしいでしょうか」
一瞬、意味を考える。
「えと、よろしくお願いします、で合ってる?」
ふふ、と堀ちゃんは笑って「こちらこそよろしくお願いします」と言った。
嬉しそうにはにかむ様子に心臓をわしづかみにされた気がした。
運転している状況をこれほどもどかしいと思った事はない。
こっちからまた言うべきか、でもタイミングが全く分からないと思っていたから、言ってくれたのはすごい嬉しい。
嬉しいけど。
嬉しくて、ついそのまま帰してしまったけど。
これは完全に俺の自己都合で、我が儘だという自覚はあるのだけれども。
言ってもらっておいて自分勝手だとは思うけど。
堀ちゃん、もう少し早く言ってくれたら。
せめて部屋を出る前に言ってくれたら抱きしめる位は出来たのに。
実家の前で万が一家人に見られた場合、堀ちゃんの評価が下がる事を考えるとうかつな事も出来ず、握手のように手をつなぐだけで別れる事になってしまった。
それだけでも堀ちゃんは照れたように笑った。
あの小さな肩を抱きしめたかった。
そう残念で悔しく思うものの、すぐに口元が緩む。
その晩はずっとそんな調子だった。
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