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11、生真面目さが仇となるも器の大きい旦那様
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「アクジョノ嬢は無事ご出発されました」
お嬢様を放り込んだ馬車の出発。それをティータイム中に教えてくれたカルレイさんが、ぐったりしていて申し訳なかった。
ここでの生活において、ティータイムというものは普段は存在しない。
さすがに色々と疲れてしまい、同じくややお疲れのご様子の旦那様にティータイムにお誘いいただいた中の事だ。
鉄柵にぶつけた額を冷やすように、とアリーンが濡れた布巾を渡してくれる。
でも実はもう痛みはないんだ。
旦那様が患部にキスしてくれたからだろう。いやこれは、脳みそがお花畑のうかれぽんち発言などではなく。
「もともと嫌がらせであの女をあてがわれたんだ。私が男に入れ込んだとなれば、連中も手を打って喜ぶだろうよ」
旦那様に嫌がらせをした人間がいる。
旦那様を貶めたい人間がいる。
嫌だと思ったし、不安になる。
けれどそう言った旦那様は禍々しい笑みを浮かべ、その目は喜色に溢れていた。これも子供がギャン泣きするやつだ。
「奴らも私の血が途切れるなら、願ったりかなったりだろう」
それを聞いたアントンさんとカルレイさんが、うんうんと感慨深そうに深くうなずいている。
なんだか悲惨な話に聞こえるが、そうか、いいのか。
ふと、三人が顔を見合わせた。
「……ハナからそれが狙いか? 無理に初夜をこなそうとしなくても良かったのか?」
ぶはっとアントンさんが噴き出し、直後「なんでもありません」という顔でごまかすように他所を向く。
額に片手を当てた旦那様は、はーと重い、特大のため息を吐いた。
無駄に二カ月もオナ禁したうえ、薬物乱用をしてまで初夜に挑んだ旦那様。その決意が実は不要だった可能性に言葉を失っている。
なんということだ。
旦那様が真面目で、誠意のある方だったのが災いしてしまった。
俺もなんと声を掛けたらいいか分からない。お慰めしたくて思わず膝にそっと手を乗せる。
「まあいい。釣りがくるほどだ」
顔を上げ、こちらを見る旦那様の目は柔らかい。
最近表情が優しくて、俺は不安になる。こんなの、みんな旦那様を好きになってしまう。
自分などが『旦那様のお相手役』を務めていいのだろうか━━そう考えてはっと気付いた。
「あ、でも俺、アクジョノ家では性病持ちで通ってるんですけどっ」
これはさすがにいただけないだろう。
部屋にいた全員が目を瞠り、次いでアントンさんとカルレイさんが旦那様の股間に目をやった。
旦那様は「ははっ」と声を上げて笑っただけだ。
「いや旦那様なら大丈夫でしょ」
顔を上げてからそう言ったアントンさんの後頭部を、カルレイさんがスパーンと叩く。まるで「いらないことを言うな」とでもいうかのように。
アントンさんはそれを「はいはい、守秘義務、守秘義務」と軽くあしらい、何か言いたげにこちらを見てくる。
はい、分かっていますとも。
ここでの守秘義務は命に代えても厳守します。
「ああ、問題ない。そのくらいでちょうどいい」
自分にも性病疑惑がかかるかもしれないというのに、旦那様はなぜかあっけらかんとそう言った。
なぜかちょうどいいらしく、むしろ満足そうだ。
実に器が大きくていらっしゃる。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その夜、いつものベッドで口づけられる。
昼間の騒動を再度詫びれば旦那様はくく、と喉を鳴らした。
「あの女からお前を寝取ってやったと思うと、溜飲も下がるというものだ」
それはそれは、楽しそうだった。
「つまらない人生を送るものだと思っていたが……まさかこんなに楽しいことになるとは」
そう言って始まったのは、おそらく「寝取りプレイ」だったのだろう。
めちゃくちゃ激しかった。
興奮剤と催淫剤、そして勃起薬を仕込んだあの夜と激しさがほとんど変わらないのはどういう事だ。
「だ、旦那様……変な薬、使ってないですよね……?」
ゼーハー息を乱したまま尋ねた。
「当然だ。あの日だって薬の効果など二発目くらいでとっくに切れていただろうが、あの時は二か月分溜まっていたからな。そこへお前が煽り倒すから」
声が柔らかい。細めた目も優しさを滲ませている。「寝取りプレイ」の効果は絶大だった。
ヤバい薬乱用と同等レベルとはおかしくないか。
今夜も旦那様の温かい手が腰に当てられる。
交わった後はいつもそうしてくださる旦那様。こうされると手が離れてもずっとぽかぽかと温かく、腰が楽になる。
どうやら腹の中に出された子種もきれいに無くなっているらしい、そう気付くのに時間はかからなかった。
入ったままだと腹が痛くなるのだから仕方がないが━━
「きれいにしていただくのはありがたいのですが、なんだか、少し、さみしい気もしますね」
伝えたかったものの、恥ずかしく、照れたようになってしまった。
旦那様が「ぐぅ」と低く唸った。
旦那様はこうして時々獣のように唸られる。特にベッドの上ではその傾向が顕著だ。ベッドの上では本能が表面化しやすいのだろう。
「またお前は……そうやって不用意に煽る」
再度、子種を注いでくれた。結局またきれいにされたのだが。
暗器の心配をしたり、乱用した薬物があっという間に体内で無効化される、どこか人間離れした旦那様。
「旦那様がなんでもお出来になるのは分かるんですが、そんなにしてくれなくても大丈夫ですよ」
暗に自分が気付いている事を伝えたつもりだ。
稀有な能力をそんなにがんがん使わないでほしい。絶対に公にしてはいけない話だろう。
それなのに旦那様ときたら。
「いや。薄毛と肥満、それに病気や老いはどうにもならない」
などと、謎に更なる秘密の開示を追加してくる。
「あ、あと勃起不全も」
おまけのように付け足された。
そういえばお嬢様との初夜では勃起剤を飲まれていた。
なんでもかんでも言うなと窘めるべきなんだろうが、旦那様の腕の中で俺は思わず笑ってしまったのだった。
お嬢様を放り込んだ馬車の出発。それをティータイム中に教えてくれたカルレイさんが、ぐったりしていて申し訳なかった。
ここでの生活において、ティータイムというものは普段は存在しない。
さすがに色々と疲れてしまい、同じくややお疲れのご様子の旦那様にティータイムにお誘いいただいた中の事だ。
鉄柵にぶつけた額を冷やすように、とアリーンが濡れた布巾を渡してくれる。
でも実はもう痛みはないんだ。
旦那様が患部にキスしてくれたからだろう。いやこれは、脳みそがお花畑のうかれぽんち発言などではなく。
「もともと嫌がらせであの女をあてがわれたんだ。私が男に入れ込んだとなれば、連中も手を打って喜ぶだろうよ」
旦那様に嫌がらせをした人間がいる。
旦那様を貶めたい人間がいる。
嫌だと思ったし、不安になる。
けれどそう言った旦那様は禍々しい笑みを浮かべ、その目は喜色に溢れていた。これも子供がギャン泣きするやつだ。
「奴らも私の血が途切れるなら、願ったりかなったりだろう」
それを聞いたアントンさんとカルレイさんが、うんうんと感慨深そうに深くうなずいている。
なんだか悲惨な話に聞こえるが、そうか、いいのか。
ふと、三人が顔を見合わせた。
「……ハナからそれが狙いか? 無理に初夜をこなそうとしなくても良かったのか?」
ぶはっとアントンさんが噴き出し、直後「なんでもありません」という顔でごまかすように他所を向く。
額に片手を当てた旦那様は、はーと重い、特大のため息を吐いた。
無駄に二カ月もオナ禁したうえ、薬物乱用をしてまで初夜に挑んだ旦那様。その決意が実は不要だった可能性に言葉を失っている。
なんということだ。
旦那様が真面目で、誠意のある方だったのが災いしてしまった。
俺もなんと声を掛けたらいいか分からない。お慰めしたくて思わず膝にそっと手を乗せる。
「まあいい。釣りがくるほどだ」
顔を上げ、こちらを見る旦那様の目は柔らかい。
最近表情が優しくて、俺は不安になる。こんなの、みんな旦那様を好きになってしまう。
自分などが『旦那様のお相手役』を務めていいのだろうか━━そう考えてはっと気付いた。
「あ、でも俺、アクジョノ家では性病持ちで通ってるんですけどっ」
これはさすがにいただけないだろう。
部屋にいた全員が目を瞠り、次いでアントンさんとカルレイさんが旦那様の股間に目をやった。
旦那様は「ははっ」と声を上げて笑っただけだ。
「いや旦那様なら大丈夫でしょ」
顔を上げてからそう言ったアントンさんの後頭部を、カルレイさんがスパーンと叩く。まるで「いらないことを言うな」とでもいうかのように。
アントンさんはそれを「はいはい、守秘義務、守秘義務」と軽くあしらい、何か言いたげにこちらを見てくる。
はい、分かっていますとも。
ここでの守秘義務は命に代えても厳守します。
「ああ、問題ない。そのくらいでちょうどいい」
自分にも性病疑惑がかかるかもしれないというのに、旦那様はなぜかあっけらかんとそう言った。
なぜかちょうどいいらしく、むしろ満足そうだ。
実に器が大きくていらっしゃる。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その夜、いつものベッドで口づけられる。
昼間の騒動を再度詫びれば旦那様はくく、と喉を鳴らした。
「あの女からお前を寝取ってやったと思うと、溜飲も下がるというものだ」
それはそれは、楽しそうだった。
「つまらない人生を送るものだと思っていたが……まさかこんなに楽しいことになるとは」
そう言って始まったのは、おそらく「寝取りプレイ」だったのだろう。
めちゃくちゃ激しかった。
興奮剤と催淫剤、そして勃起薬を仕込んだあの夜と激しさがほとんど変わらないのはどういう事だ。
「だ、旦那様……変な薬、使ってないですよね……?」
ゼーハー息を乱したまま尋ねた。
「当然だ。あの日だって薬の効果など二発目くらいでとっくに切れていただろうが、あの時は二か月分溜まっていたからな。そこへお前が煽り倒すから」
声が柔らかい。細めた目も優しさを滲ませている。「寝取りプレイ」の効果は絶大だった。
ヤバい薬乱用と同等レベルとはおかしくないか。
今夜も旦那様の温かい手が腰に当てられる。
交わった後はいつもそうしてくださる旦那様。こうされると手が離れてもずっとぽかぽかと温かく、腰が楽になる。
どうやら腹の中に出された子種もきれいに無くなっているらしい、そう気付くのに時間はかからなかった。
入ったままだと腹が痛くなるのだから仕方がないが━━
「きれいにしていただくのはありがたいのですが、なんだか、少し、さみしい気もしますね」
伝えたかったものの、恥ずかしく、照れたようになってしまった。
旦那様が「ぐぅ」と低く唸った。
旦那様はこうして時々獣のように唸られる。特にベッドの上ではその傾向が顕著だ。ベッドの上では本能が表面化しやすいのだろう。
「またお前は……そうやって不用意に煽る」
再度、子種を注いでくれた。結局またきれいにされたのだが。
暗器の心配をしたり、乱用した薬物があっという間に体内で無効化される、どこか人間離れした旦那様。
「旦那様がなんでもお出来になるのは分かるんですが、そんなにしてくれなくても大丈夫ですよ」
暗に自分が気付いている事を伝えたつもりだ。
稀有な能力をそんなにがんがん使わないでほしい。絶対に公にしてはいけない話だろう。
それなのに旦那様ときたら。
「いや。薄毛と肥満、それに病気や老いはどうにもならない」
などと、謎に更なる秘密の開示を追加してくる。
「あ、あと勃起不全も」
おまけのように付け足された。
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なんでもかんでも言うなと窘めるべきなんだろうが、旦那様の腕の中で俺は思わず笑ってしまったのだった。
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