「お前を愛する気など毛頭ない」とおっしゃる旦那様、完全に同意です!

志野まつこ

文字の大きさ
11 / 14

11、生真面目さが仇となるも器の大きい旦那様

しおりを挟む
「アクジョノ嬢は無事ご出発されました」
 お嬢様を放り込んだ馬車の出発。それをティータイム中に教えてくれたカルレイさんが、ぐったりしていて申し訳なかった。

 ここでの生活において、ティータイムというものは普段は存在しない。
 さすがに色々と疲れてしまい、同じくややお疲れのご様子の旦那様にティータイムにお誘いいただいた中の事だ。

 鉄柵にぶつけた額を冷やすように、とアリーンが濡れた布巾を渡してくれる。
 でも実はもう痛みはないんだ。
 旦那様が患部にキスしてくれたからだろう。いやこれは、脳みそがお花畑のうかれぽんち発言などではなく。

「もともと嫌がらせであの女をあてがわれたんだ。私が男に入れ込んだとなれば、連中も手を打って喜ぶだろうよ」
 旦那様に嫌がらせをした人間がいる。
 旦那様を貶めたい人間がいる。

 嫌だと思ったし、不安になる。
 けれどそう言った旦那様は禍々しい笑みを浮かべ、その目は喜色に溢れていた。これも子供がギャン泣きするやつだ。

「奴らも私の血が途切れるなら、願ったりかなったりだろう」
 それを聞いたアントンさんとカルレイさんが、うんうんと感慨深そうに深くうなずいている。
 なんだか悲惨な話に聞こえるが、そうか、いいのか。
 ふと、三人が顔を見合わせた。

「……ハナからそれが狙いか? 無理に初夜をこなそうとしなくても良かったのか?」
 ぶはっとアントンさんが噴き出し、直後「なんでもありません」という顔でごまかすように他所よそを向く。

 額に片手を当てた旦那様は、はーと重い、特大のため息を吐いた。
 無駄に二カ月もオナ禁したうえ、薬物乱用をしてまで初夜に挑んだ旦那様。その決意が実は不要だった可能性に言葉を失っている。

 なんということだ。
 旦那様が真面目で、誠意のある方だったのが災いしてしまった。
 俺もなんと声を掛けたらいいか分からない。お慰めしたくて思わず膝にそっと手を乗せる。

「まあいい。釣りがくるほどだ」
 顔を上げ、こちらを見る旦那様の目は柔らかい。
 最近表情が優しくて、俺は不安になる。こんなの、みんな旦那様を好きになってしまう。
 自分などが『旦那様のお相手役』を務めていいのだろうか━━そう考えてはっと気付いた。

「あ、でも俺、アクジョノ家では性病持ちで通ってるんですけどっ」
 これはさすがにいただけないだろう。
 部屋にいた全員が目を瞠り、次いでアントンさんとカルレイさんが旦那様の股間に目をやった。
 旦那様は「ははっ」と声を上げて笑っただけだ。

「いや旦那様なら大丈夫でしょ」
 顔を上げてからそう言ったアントンさんの後頭部を、カルレイさんがスパーンと叩く。まるで「いらないことを言うな」とでもいうかのように。
 アントンさんはそれを「はいはい、守秘義務、守秘義務」と軽くあしらい、何か言いたげにこちらを見てくる。

 はい、分かっていますとも。
 ここでの守秘義務は命に代えても厳守します。

「ああ、問題ない。そのくらいでちょうどいい」
 自分にも性病疑惑がかかるかもしれないというのに、旦那様はなぜかあっけらかんとそう言った。
 なぜかちょうどいいらしく、むしろ満足そうだ。
 実に器が大きくていらっしゃる。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 その夜、いつものベッドで口づけられる。
 昼間の騒動を再度詫びれば旦那様はくく、と喉を鳴らした。
「あの女からお前を寝取ってやったと思うと、溜飲も下がるというものだ」
 それはそれは、楽しそうだった。

「つまらない人生を送るものだと思っていたが……まさかこんなに楽しいことになるとは」
 そう言って始まったのは、おそらく「寝取りプレイ」だったのだろう。
 めちゃくちゃ激しかった。
 興奮剤と催淫剤、そして勃起薬を仕込んだあの夜と激しさがほとんど変わらないのはどういう事だ。

「だ、旦那様……変な薬、使ってないですよね……?」
 ゼーハー息を乱したまま尋ねた。

「当然だ。あの日だって薬の効果など二発目くらいでとっくに切れていただろうが、あの時は二か月分溜まっていたからな。そこへお前が煽り倒すから」
 声が柔らかい。細めた目も優しさを滲ませている。「寝取りプレイ」の効果は絶大だった。
 ヤバい薬乱用ちゃんぽんと同等レベルとはおかしくないか。

 今夜も旦那様の温かい手が腰に当てられる。
 まじわった後はいつもそうしてくださる旦那様。こうされると手が離れてもずっとぽかぽかと温かく、腰が楽になる。
 どうやら腹の中に出された子種もきれいに無くなっているらしい、そう気付くのに時間はかからなかった。

 入ったままだと腹が痛くなるのだから仕方がないが━━
「きれいにしていただくのはありがたいのですが、なんだか、少し、さみしい気もしますね」
 伝えたかったものの、恥ずかしく、照れたようになってしまった。

 旦那様が「ぐぅ」と低く唸った。
 旦那様はこうして時々獣のように唸られる。特にベッドの上ではその傾向が顕著だ。ベッドの上では本能が表面化しやすいのだろう。

「またお前は……そうやって不用意に煽る」
 再度、子種を注いでくれた。結局またきれいにされたのだが。

 暗器の心配をしたり、乱用した薬物があっという間に体内で無効化される、どこか人間離れした旦那様。
「旦那様がなんでもお出来になるのは分かるんですが、そんなにしてくれなくても大丈夫ですよ」
 暗に自分が気付いている事を伝えたつもりだ。
 稀有な能力をそんなにがんがん使わないでほしい。絶対に公にしてはいけない話だろう。

 それなのに旦那様ときたら。
「いや。薄毛と肥満、それに病気や老いはどうにもならない」
 などと、謎に更なる秘密の開示を追加してくる。

「あ、あと勃起不全も」
 おまけのように付け足された。
 そういえばお嬢様との初夜では勃起剤を飲まれていた。

 なんでもかんでも言うなと窘めるべきなんだろうが、旦那様の腕の中で俺は思わず笑ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結】塩対応だった旦那様が記憶喪失になった途端溺愛してくるのですが

詩河とんぼ
BL
 貧乏伯爵家の子息であったノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれることとなったラインドール公爵家の若気当主のレオンに嫁ぐこととなった。  塩対応で愛人がいるという噂のレオンやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。  そんな中、レオンが階段から転落し、レオンは記憶を失ってしまう。すると――

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

処理中です...