ヒロインの息子×悪役令嬢の息子(転生者)

ー結月ー

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薄暗く醜い

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「君が先に手当てして、俺は病院のをもらうから」

「いらない?」

「いるけど、君だって背中怪我してる」

「……これは」

病院から貰えるわけがないから渡した。
僕は必要がないから…なのになんで量が多くない薬を他人に分けるんだ?
安全かどうか、僕で試そうとしてるって事?そんな捻くれた考えも彼の顔を見たら違うのかもと思えてくる。

僕に向ける期待でも怯えでもないその顔は、僕自身をボロボロに崩れさせる。
嫌だ、僕が僕でいられなくなりそうな…そんな恐怖にも似た感情。

少年は木箱から出ようと一歩踏み出していたが、木箱が倒れて転けていた。
鼻から血を流しても、僕の手を離そうとしない。

強くない、振り払えば簡単に離れていくが…何故かそう出来なかった。
振り払うと、きっと彼が何処かに行ってしまうと心の何処かで思っているから力が抜ける。

「君が、先に…手当てするの!」

「いや、君の方が大変だと思うから…俺の事はいいから」

僕の言葉を聞かず、少年に肩を押されて座らされた。
醜い羽根があった傷を見られたくなくて暴れたが、何を勘違いしたのか的外れな事を言って慰めていた。
痛みなんてそんなもの、全然平気だ…俺が嫌なのはこの変な感情全てだ。

少年の方に目線を向けてギョッとした。
頬に流れるものは、涙?なんで泣いてるんだ?
抵抗するのも忘れて、少年を見つめていた。

「…自分はいいって、言うなよ」

「なんで、泣いてるの?」

「分かんない、分かんないけど…でも今言いたい事は……手当てさせて」

僕の怪我なのに、本当に謎の生き物だ。

服を脱がされても、傷口に触れられても抵抗する気がなかった。
母に薬を塗られた時は冷たかった、同じ薬なのになんで違うんだろう。

少年に触れられると、熱くなって頭の中が可笑しくなる。
その感情は初めて抱いたもので、決していいものではなかった。

恍惚したような、それでいて狂いそうなほどの激情。
僕を見る彼の瞳は、僕の今まで他人に感じていた感情を全て否定されるものだった。

暖かい手が離れる感じがして、少年の手を掴んだ。
僕が痛がっていると思ったのか、確かに痛い…君に切り刻まれた心が…

背中はいつの間にか痛みが消えてなくなっていた…だから大丈夫だと言った。
そんな事より、もっともっと僕に触ってほしい…

初めて、他人に抱いたもの…それは決して優しく穏やかなものではなかった。
触れてほしいと思うのと同時に、全てを奪いたいという感情が強くなっていく。

触れる手も見つめる瞳も声も全て全て僕の俺のものに…

肩に上着を掛けられて後ろを振り返ると、僕の醜い感情を知らずに笑いかけていた。

「この服を着るより、こっちの方が暖かいよ」

「それだと君が風邪を引くよ」

「俺は…怪我してないし、このくらい走って帰れば大丈夫…」

薄着で見てるこっちも寒く感じる、そんな無防備にして…
首がとても寒そうだと、両手で温めようと思った。
でも少年は周りを見渡してそわそわしていた。
どうかしたのかと手を引っ込めて、少年を見ると倒れた木箱を元に戻して木箱の中に入っていた。

耳をすますと、足音が聞こえてくる…アレから隠れてるのか。
なにかされたのか、何をされたんだ、僕がそいつを殺してこようか。
蓋を閉めようとするから、ガッと蓋を掴んだ。

まだ話は終わってないんだけど、なんで隠れるの?

「…追われてるの?」

「うん、だから離…」

僕以外の奴に追われているとか、こんなに腹立たしい事はない。
追われるのも捕まえるのも、僕でなきゃいけない……君の中に僕を刻むために…

少年を木箱から引っ張って、壁に押し付けた。
僕の腕の中におさまる彼を見て、優越感に微笑む。
ずっとこうしてればいいのに、ずっとずっとず……

少年と目線が絡み合い、伸ばしていた手をピタリと止めた。
ニコッと少年に笑いかけると、少年もヘラッと笑っていた。

行き場がなくなった手は、少年の頭に乗せて撫でた。
柔らかい髪だな、キスしたかったが触るだけにして少年から離れた。
慌てていろいろやって嫌われたら意味がない。

彼は流されやすいように見えて、何処か心を許していない感じがする。
何もかもが今まで見てきた奴らと違う。

「なんで追われてるの?」

「わ、悪い事したんじゃないよ!…いや、勝手に国に入ったら悪い事か……でも、通行手形はあるのに」

そんな慌てなくても分かってる、こんな純粋な瞳をする子が悪い事なんて出来ないよ。
通行手形というならこの国の人間ではなかったのか。

遠いなら、このまま攫ってしまおうか…父親が病気なら彼が行かなくても僕が使いの者を向かわせて薬を届けるから…うん、それがいい。
そしたらずっと一緒にいられる、離れなくて済む。

家を聞いたら国の近くの森に住んでいると言っていた。
あの森は、何もない場所だから滅多に人は入らない……あんな場所に住んでる人がいるのか?
少年が嘘をつくとは思えない、だとすると本当なのか?

遠いなら彼を隠しても騒ぎにならないと思ったが、近すぎるな……いい事なんだろうが、連れ去る気だったから微妙な気分だ。

「あの森は国から出ないと行けない」

「うん、だから通行手形を持ってたんだけど」

「そう…薬のために、災難だったね」

大人なら近い距離でも、子供だったら大変な距離だろう。
いくら身内の薬のためとはいえ、嫉妬しちゃうな。
まぁでも、この出来事がなかったら僕達は出会わなかった……だからそれはいい。

すっかり空が明るくなり、少年の顔がはっきりと見えるようになった。
普通の顔だけど、僕にはキラキラしたような顔に見える。

もっと彼と話したかったのに「お金稼げるようになったら薬代必ず返すから!」と言って彼は帰ろうとしていた。

もう終わりか、でも近いからまた会いに行けばいい。
でも、そのまま正面から帰るつもりか?追いかけていた奴は服装からして騎士だろう。
捕まってしまうぞ、僕以外に捕まる事は許さない。

少年の腕を掴んで、抜け道に案内する。
昔、たまたま見つけた酒場の裏の外壁から外に出る事が出来る。
小さい穴だから、敵が入ってくる事がないとずっと放置されていた。
僕は興味なかったが、まさか必要になるとは思わなかった。

「門は危ないからここから帰った方がいい、まっすぐ行けばすぐに森にたどり着く」

「ありがとう、何から何まで助けてくれて」

「ううん、僕も傷を治してくれてありがとう」

「いやあれは君がくれた薬のおかげだし」

「違う、僕のあの傷を見て怖がらなくて触ってくれたのは君が初めてだった」

「…え?怖くないよ、怪我をしている人がいたから助けただけだよ」

そう、その言葉だけで僕はどんなに救われたか君は知らない。
僕を救って、僕の心を乱して壊した…醜い僕を君は暴いた。
あぁ……なんて罪深いんだろう、純粋に僕を見る君が愛しくて、残酷に俺を見る君が憎らしい。

また会いたいと口にすると、少年は僕の手を掴んで小指を絡めていた。

約束事をする時にこうするんだと教えてくれた。
歌もあるらしく、二人で合わせて教えた指きりの歌を口ずさんだ。

嘘を付いたら針を飲むのか、痛そうだな…と思いながら口は笑っていた。

少年を見送って、少年の貸してくれた服に身を包んで幸せな気分になった。

後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた、あの部屋の惨状を見たら慌てるか。

「アルフレート!何処にいるの!?アルフレート」

「ここにいる、母さん」

母の声に反応して、母は慌てて近付いて抱きしめてきた。
母から離れて「心配しないで、俺は大丈夫だから」と言った。

俺の言葉を聞いて、母は不思議そうな顔をしていた。
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