俺の弟が一番かわいい

ー結月ー

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ナイトの世界

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『…い、おい…起きろ』

「ぅ……いててて…」

プニプニとなにかが頬を叩いたと思ったら爪を立てられた。

痛い…ん?痛い?可笑しいな、俺はあの男に殺された筈だ。

死者の国に居ても痛みって感じるんだなとぼんやり考えて目蓋を開けた。

俺の目の前にはあの白猫が……いや、大きな白い豹がいた。

起き上がると、そこはあの森ではなく見知らぬ場所だった。

壁が全てキラキラした氷で出来ていて、氷の階段の向こうには城があった。

「…なんだここ、俺は死んだ筈じゃ…」

『お前の魂が抜ける前に俺が呑み込んだから死んではいない……まだな』

豹は穏やかじゃない言葉を最後に残して、歩き出した。

「ここって何処なんだ?」

『ここはナイトの精神世界だ』

「…えっ、ナイトの!?」

『お前を助けようと近付いてきたナイトもろとも呑み込んだからな』

そう豹は言うが、何処を見渡してもナイトの姿はない。

ナイトは何処だと言おうと思ったが、豹は歩いていき階段を上ったから俺も付いて行った。

階段の向こう側には、氷で出来た大きな城があり…扉にはいくつもの錠前と鎖があった。

これじゃあ城の中には入れない、豹は鎖を咥えて引っ張るがびくともしない。

豹はため息を吐いて、俺の方を見た…この城にはなにがあるんだ?

豹は『この先にナイトがいる』と言っていた、でもこのままじゃ入れない。

『俺がアイツと契約出来ないのはこの鎖のせいなんだ、アイツは自分の心に鎖を付けている』

豹の話によると、ナイトは昔から他人に対して壁を作っていたという。

家族だけがナイトにとって大切な存在、いつも一緒にいた神獣にさえ壁を作っていた。

友人も作らなかった、自分のプライベートに干渉してほしくないから…

「でも歩夢は友達だろ?」

『友達…とは少し違うな、金で頼まれた仮初の友情だ』

ナイトは生徒会長に歩夢を頼まれて一緒にいるだけらしい。

だから歩夢に家族の事を一度も話さない、口では聞かれないからと言っているが、聞かれてもいつもの面倒くさいと言ってはぐらかす。

神獣との契約は、神獣が無理矢理契約出来るものではない。

魔導士も神獣を欲して受け入れないと契約は成立しない。

ナイトは神獣を拒絶している、家族を傷付ける危険性がある力はいらないと思っている。

その強い気持ちがこの鎖と錠前を現している、改めて硬く閉ざされた扉を見つめる。

『初めてナイトのプライベートに踏み込んだお前なら少しは気持ちを開いてくれると思ってな』

「無理矢理踏み込んだだけだけど」

『どんな方法であれ、お前はナイトに少しだけ変化を与えられた』

ちょっとは心を開いていたのか?よく分からないが…俺の事珍獣って言ってたけど…

鎖に触れると、一つだけ錠前が落ちた…本当に少しだけ俺の事を認めてくれたようだ。

でもまだ二つ錠前があるから入れそうにない、触っても落ちない。

ここはナイトの精神世界だから錠前を無理矢理外したらナイトはどうなるか聞いてみた。

豹の話によると、ナイトの本体は城の中にいるみたいで錠前はただの拒絶の鎖だから無理矢理外しても大丈夫だと言う。

そりゃあ外して何かあるなら、ナイトの城の中に入れなくなるよな。

俺は鎖を掴み、思いっきり引っ張った…『そんな力で鎖が切れるわけがない』と豹は鼻で笑っていた。

重い物があったら楽だが、ここには素手しかない…だったら素手で破るしかねぇだろ!

力を込めても魔法が出ない…ナイトの精神世界だからか俺はただの人間に戻っていた。

とはいえ現実では魔法が使えるから人間だとバレてはいない…と思う。

「おいナイト!いるか!?聞こえてんなら返事しろ!!」

ドンドンと叩いてナイトに話しかけるが何の反応もない。

だんだん身体が冷えてきた、氷属性ではない俺が長居していたら凍え死んでしまう。

ドアを叩いても反応はないし、鎖もびくともしない…他の侵入方法はないか考える。

城の裏に回れる場所もないから正面突破しかない……俺は心を開くのに値しない存在だって言うのか?

ナイトが拒絶しているなら俺には何も出来ない、扉に背を向けた。

黙っている俺に豹は『諦めが早いな』と呆れながら言っていた。

そうだな、諦めが早いのかもな…手を握ると血が滴り落ちる。

鎖を触っていたら皮が剥けてとても痛い、精神世界だからか普段の何倍も…

「ナイト、俺はともかく…この神獣は家族じゃないのか?何故拒絶するんだ?」

『何を言っても無駄だ、長年声を掛け続けていても無反応だからな』

「お前も諦めが早いな、何しても無駄なら話しかけるしかねぇだろ…この城がナイトの精神なら絶対に届いている」

『………』

「血が繋がってなくても、お前には大切なものがあるだろ」

血の繋がりだけが大切なんじゃない、ナイトだって分かってる筈だ。

ナイトにそれを認めさせないと、この扉はずっと硬く閉ざされたままだ。

このままだと、この城から抜け出す事も出来ない…何も変わらない。

ナイトがずっと受け入れなくても、いつも寄り添って…時に心配して怒ったりしてくれる奴がいただろ。

俺を家に入れてくれただけじゃない、泊まらせてもくれた。

俺に出来たなら、きっと他の人にも出来る筈だ…ただ一つ…一歩を踏み出すナイトの勇気さえあれば…

身体がガクガクと震えてきて、必死に抑えようと身体を抱きしめて背を丸める。

『お前、大丈夫か?身体が…』

「なぁ神獣、お前はナイトと契約したいだけなのか?ナイトの事、大切に思っているんじゃないのか?」

『大切?』

「だから受け入れられなくても、ずっと一緒にいるんだろ……俺じゃなく、ナイトはお前を求めているんだ」

『………俺を』

知り合って間もない俺が言ったところでこの扉は開かない、開くとしたら神獣の言葉しかない。

「ナイトの事どう思ってるのか、話した事あるのか?」

「そんな面と向かって恥ずかしい事話せるかよ」

「言葉にしないと分からないだろ?お前の気持ちをナイトに伝えるんだ」

俺も、ナイトに言いたい事があるんだ。

まだナイトの事はよく知らないけど、同じ兄弟を想う者同士分かり合えると思っている。

神獣と契約したくないならそれでもいい、だけど全ての事に目を逸らすなよ。

「ナイト、お前だって分かってるんだろ!神獣だってお前の家族だろ!俺だって、歩夢だって…少しは友達だって思ってくれたんじゃないのか!?歩夢の事、自分の弟と重ねていたんだろ?…ただ頼まれたから歩夢と一緒にいるんじゃないって、俺は信じてる」

ナイトと一緒にいる歩夢は本当に楽しそうだった、ナイトが歩夢の事をちゃんと考えているからそう思えるんだ。
俺の隣に神獣がやってきて、優しく語りかけていた。

『……ナイト、覚えているか?お前が小さな頃弟達を守ろうと危険な魔物に立ち向かった時…力を使い果たして一週間寝込んでいただろ、その間…家族は皆お前のために無事を祈っていた…俺には何も出来なかった、ナイトを守る事も力を与えて回復する事も……とても悔しかった、俺はお前に力を渡したいと思ったのはナイトを守りたいからだ、誰かを傷付ける力じゃない…お前が大事にしている家族を助ける力になりたい……もし、契約したくなかったらそれでいい…ただ、お前の事をずっと見守っている…それだけは覚えておいてくれ』
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