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第2章 当世のかぐや姫
第11転 絶対防御
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リヴァイアサン。
旧約聖書に登場する海の怪物。最高の獣であるベヒーモスと対を為す最強の獣。伝統的には巨大なクジラや魚とされていたが、後世には蛇や竜などの姿で描かれるようになった。どんな武器もリヴァイアサンを傷付ける事は不可能であり、何者も屈服させる事はできず、戦意すら失うとされている。
◆ ◇ ◆
竹の顔が険しくなる。さしもの彼女もスマホを弄っている余裕はない。男からカルルに視線を移して睨め付ける。竹の怒気に晒されたカルルは卑屈そうな笑みを深めた。
「拙僧の妙技は受けに回ると滅法強いのですが、攻めには難儀しますのでなあ。このような手を取らせて頂きました。デュフフフ、これなら逃げる訳にはいかないでしょう?」
「人質って訳かよ、テメェ」
俺達が逃げたらその男にとどめを刺すと言いたい訳か。その為に殺さず生かして拘束していたと。大して面識のない相手ではあるが、だからといって見捨てられる筈もない。俺がそうなのだから竹は一層だろう。卑怯者め。
「さあ、おいでませい」
「言われずとも!」
カルルの挑発に乗り、一瞬で彼女に肉薄する。神速を前にカルルは反応する事すらできない。
「【大神霊実流剣術】――【雛祭】!」
隙だらけの身体に乱打ならぬ乱斬を叩き込む。十五もの斬撃をほぼ同時に繰り出す面の斬撃だ。相手に回避する時間も防御する時間も与えない。常人であれば八つ裂き以上にバラバラになっていなくてはおかしい攻撃だ。
だが、通らなかった。カルルは一切変わらない姿で立っていた。
「そおい!」
カルルがその手に持った鎚矛で殴る。相手の頭部から血飛沫を噴出させる様から、ホーリーウォータースプリンクラーの別称を持つ武器だ。
だが、届かない。カルルの腕の振りは俺からすれば遅すぎる。難なく躱す。
「まだまだ終わりませんぞ。――【初級光輝魔法】!」
俺の胸先に光の玉が現れる。嫌な予感がした俺は咄嗟に地を蹴った。間髪入れず光の玉が炸裂する。直撃こそ避けられたが、生じた爆風により俺の身体は大きく吹き飛ばされた。
「【中級光輝魔法】――!」
カルルの頭上に光球が浮かび、地面に片膝を突く俺に向かって光線が放たれる。さすがの俺も光速よりは速く動けない。やられる――
「――【仏の御石の鉢】、【火鼠の皮衣】!」
俺とカルルとの間に竹が割って入る。宙に浮かぶ石鉢の欠片と赤い燐光がバリアとなって光線を弾いた。
「悪い、助かった」
「どういたしまして。自分で立てるわよね?」
「ああ、勿論だ」
身を起こしつつ竹に礼を言う。
成程、今のが魔法か。とんでもなく小回りが利く重火器みたいなものだ。クリトは格闘技主体だったから魔法は使ってこなかったんだよな。ああいうのを使える奴がうようよいるのが異世界なら、そりゃあ地球の軍隊も苦戦するというものだ。
絶対防御で身を守りつつ魔法を発射する固定砲台。それがカルル・トゥルーの戦法か。……俺では相性が悪いな。
「獣月宮、頼んだ」
「え? 何よ」
「素早く動けるだけの俺じゃ分が悪い。だけど、お前の技ならあいつを完封できる」
「…………」
言われた竹はしばらく考え込んでいた。俺では倒せなくて自分が倒せるというのが腑に落ちないのだろう。だが、事実だ。俺では絶対防御を崩せないが、竹なら絶対防御の弱点を突ける。
「いいわよ、やってやろうじゃない」
やがて彼女も同じ結論に至ったらしく、力強い目でカルルを見据えた。
「【龍の首の珠】よ――!」
竹が宝玉を射る。矢の速度で飛ぶそれを避ける反射神経はカルルにはない。眉間に宝玉が衝突する。だが当然、カルルにダメージは一切ない。
「はは、痛くありませんぞ」
「――【蓬莱の玉の枝】よ」
「……は?」
カルルが気付いた時には彼女は樹木の檻に閉じ込められていた。
宝玉は攻撃の為に射たのではない。目眩ましの為に射たのだ。カルルの意識が宝玉に行っている間にカルルの周辺を鉱物の樹木で埋め尽くしたのだ。肢体に密着するほど隙間なく生えた樹木にカルルは身動きすらできない。
「成程、拙僧の動きを封じるおつもりですか」
【海の王者】は確かに驚異的なスキルだ。だが、破壊力がないのが弱点だ。檻や枷といった拘束系の攻撃から脱出する術がない。自身を傷付けないものに対しては無用のスキルとなる。
「しかし、こんなもの壊してしまえばいいだけの事。――【上級光輝魔法】!」
地面に描かれた魔法陣から広大な十字の光が噴出し、次いで円板の光が炸裂する。鉱物の樹木が粉々に砕かれ、キラキラと光を反射しながら宙を舞った。
一個部隊を一撃で壊滅せしめる魔法の発動。凄まじい威力だ。カルル自身も巻き込む魔法の範囲だったが、絶対防御のお陰で彼女には傷一つ付いていない。
「はっ、これで――」
「――【燕の子安貝】よ」
「…………え?」
だが、その凄まじい魔法こそが隙だった。
大技を繰り出した後は誰であってもどうしても硬直する。大技に必要なコスト――体力やら気力やら――を消費したせいで余力を失うからだ。その合間に俺は竹をお姫様抱っこし、魔法陣の外からカルルのところまで運んだのだ。
カルルの耳元で音色が響く。瞬間、カルルが強烈な眠気に襲われる。絶対防御の性能は物理的なものにしか通用せず、精神攻撃系はシャットダウンできなかったのだ。
一言も発する間もなく、カルルの意識は急速に闇へと落ちた。
旧約聖書に登場する海の怪物。最高の獣であるベヒーモスと対を為す最強の獣。伝統的には巨大なクジラや魚とされていたが、後世には蛇や竜などの姿で描かれるようになった。どんな武器もリヴァイアサンを傷付ける事は不可能であり、何者も屈服させる事はできず、戦意すら失うとされている。
◆ ◇ ◆
竹の顔が険しくなる。さしもの彼女もスマホを弄っている余裕はない。男からカルルに視線を移して睨め付ける。竹の怒気に晒されたカルルは卑屈そうな笑みを深めた。
「拙僧の妙技は受けに回ると滅法強いのですが、攻めには難儀しますのでなあ。このような手を取らせて頂きました。デュフフフ、これなら逃げる訳にはいかないでしょう?」
「人質って訳かよ、テメェ」
俺達が逃げたらその男にとどめを刺すと言いたい訳か。その為に殺さず生かして拘束していたと。大して面識のない相手ではあるが、だからといって見捨てられる筈もない。俺がそうなのだから竹は一層だろう。卑怯者め。
「さあ、おいでませい」
「言われずとも!」
カルルの挑発に乗り、一瞬で彼女に肉薄する。神速を前にカルルは反応する事すらできない。
「【大神霊実流剣術】――【雛祭】!」
隙だらけの身体に乱打ならぬ乱斬を叩き込む。十五もの斬撃をほぼ同時に繰り出す面の斬撃だ。相手に回避する時間も防御する時間も与えない。常人であれば八つ裂き以上にバラバラになっていなくてはおかしい攻撃だ。
だが、通らなかった。カルルは一切変わらない姿で立っていた。
「そおい!」
カルルがその手に持った鎚矛で殴る。相手の頭部から血飛沫を噴出させる様から、ホーリーウォータースプリンクラーの別称を持つ武器だ。
だが、届かない。カルルの腕の振りは俺からすれば遅すぎる。難なく躱す。
「まだまだ終わりませんぞ。――【初級光輝魔法】!」
俺の胸先に光の玉が現れる。嫌な予感がした俺は咄嗟に地を蹴った。間髪入れず光の玉が炸裂する。直撃こそ避けられたが、生じた爆風により俺の身体は大きく吹き飛ばされた。
「【中級光輝魔法】――!」
カルルの頭上に光球が浮かび、地面に片膝を突く俺に向かって光線が放たれる。さすがの俺も光速よりは速く動けない。やられる――
「――【仏の御石の鉢】、【火鼠の皮衣】!」
俺とカルルとの間に竹が割って入る。宙に浮かぶ石鉢の欠片と赤い燐光がバリアとなって光線を弾いた。
「悪い、助かった」
「どういたしまして。自分で立てるわよね?」
「ああ、勿論だ」
身を起こしつつ竹に礼を言う。
成程、今のが魔法か。とんでもなく小回りが利く重火器みたいなものだ。クリトは格闘技主体だったから魔法は使ってこなかったんだよな。ああいうのを使える奴がうようよいるのが異世界なら、そりゃあ地球の軍隊も苦戦するというものだ。
絶対防御で身を守りつつ魔法を発射する固定砲台。それがカルル・トゥルーの戦法か。……俺では相性が悪いな。
「獣月宮、頼んだ」
「え? 何よ」
「素早く動けるだけの俺じゃ分が悪い。だけど、お前の技ならあいつを完封できる」
「…………」
言われた竹はしばらく考え込んでいた。俺では倒せなくて自分が倒せるというのが腑に落ちないのだろう。だが、事実だ。俺では絶対防御を崩せないが、竹なら絶対防御の弱点を突ける。
「いいわよ、やってやろうじゃない」
やがて彼女も同じ結論に至ったらしく、力強い目でカルルを見据えた。
「【龍の首の珠】よ――!」
竹が宝玉を射る。矢の速度で飛ぶそれを避ける反射神経はカルルにはない。眉間に宝玉が衝突する。だが当然、カルルにダメージは一切ない。
「はは、痛くありませんぞ」
「――【蓬莱の玉の枝】よ」
「……は?」
カルルが気付いた時には彼女は樹木の檻に閉じ込められていた。
宝玉は攻撃の為に射たのではない。目眩ましの為に射たのだ。カルルの意識が宝玉に行っている間にカルルの周辺を鉱物の樹木で埋め尽くしたのだ。肢体に密着するほど隙間なく生えた樹木にカルルは身動きすらできない。
「成程、拙僧の動きを封じるおつもりですか」
【海の王者】は確かに驚異的なスキルだ。だが、破壊力がないのが弱点だ。檻や枷といった拘束系の攻撃から脱出する術がない。自身を傷付けないものに対しては無用のスキルとなる。
「しかし、こんなもの壊してしまえばいいだけの事。――【上級光輝魔法】!」
地面に描かれた魔法陣から広大な十字の光が噴出し、次いで円板の光が炸裂する。鉱物の樹木が粉々に砕かれ、キラキラと光を反射しながら宙を舞った。
一個部隊を一撃で壊滅せしめる魔法の発動。凄まじい威力だ。カルル自身も巻き込む魔法の範囲だったが、絶対防御のお陰で彼女には傷一つ付いていない。
「はっ、これで――」
「――【燕の子安貝】よ」
「…………え?」
だが、その凄まじい魔法こそが隙だった。
大技を繰り出した後は誰であってもどうしても硬直する。大技に必要なコスト――体力やら気力やら――を消費したせいで余力を失うからだ。その合間に俺は竹をお姫様抱っこし、魔法陣の外からカルルのところまで運んだのだ。
カルルの耳元で音色が響く。瞬間、カルルが強烈な眠気に襲われる。絶対防御の性能は物理的なものにしか通用せず、精神攻撃系はシャットダウンできなかったのだ。
一言も発する間もなく、カルルの意識は急速に闇へと落ちた。
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この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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