転輪御伽草子モモタロウ ~ぶっちぎりの最強vs.最強!!! 異世界転生者と輪廻転生者が地球の命運を懸けて正面対決する!!!!!~

ナイカナ・S・ガシャンナ

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第6章 終局七将イゴロウ

幕間4 カルル・トゥルー←枢木真実←ブラヴァツキー夫人

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 ヘルメス。
 ギリシア神話に登場する男神。オリュンポス十二神の一柱。神々の伝令使。万物流転を司り、旅人・商業・科学・盗賊の守護神とされる。父神ゼウスの泥棒と噓の才能を受け継ぎ、生まれたその日に太陽神アポロンの飼っていた牛五十頭を盗んだ。


◆  ◇  ◆


 吉備之介とイゴロウが戦闘開始したのと同時刻、カルル・トゥルーは駐屯地の外周にいた。
 何をするでもない。ただイゴロウの部下に見つからないように身を潜めているだけだ。

「これからどうするべきでつかねえ……」

 蹲るカルルが考えているのは今後の身の振り方だ。
 吉備之介が語った通り、カルルは吉備之介を見送った後、その場を離れた。離れたが、そのままどこかに逃避するでもなく、駐屯地の外周に腰を落ち着けた。どこに行くべきか迷っていたからだ。

 カルル・トゥルーの前々世はヘレナ・P・ブラヴァツキー。前世の名は枢木真実くるるぎまなみ、日本人の女性である。特筆すべき事は何もない会社員だった。強いて言うなら知識欲が旺盛なタイプのオタクで、情報を増やすのが好きだった。異世界転生軍の他の転生者のチートスキルについて多く知っているのも、その知識欲の発露だった。
 今、思えばそれはブラヴァツキー夫人由来の衝動だったのかもしれない。彼女は世界各国の神話や伝承を蒐集した知識人の最高峰ハイエンドだ。

「ここでトンズラかましてもいいですが……」

 枢木真実としては地球に思い入れなどない。彼女にとって現実とは無味乾燥な虚構、アニメや漫画にこそ人生があった。異世界人であるカルル・トゥルーとしては、無関心さは更に増す。魔法世界カールフターランドで過ごした十八年間は地球への未練を断ち切るには充分すぎる期間だった。だから、教会からの命令で地球人類を滅ぼすとなった時もこれといって抵抗意識は湧かなかった。

 だが、ブラヴァツキー夫人としては違う。師のダニエル、盟友のオルコット大佐、朋友のアーリヤ・サマージの人々。多くの人々と繋がりがあった。無論、いい思い出ばかりではない。苦々しい記憶も憎い相手もある。しかし、総じて振り返れば愛着が湧く。決して無関心に地球人類ごと滅ぼしていいとは思わない。

「全く……竹殿も余計な事をしてくれたものですなあ」

 獣月宮竹に前々世に記憶を覚醒させられ、輪廻転生者の使命を植え付けられた。使命などどうでもいいが、それに伴って戻ったブラヴァツキー夫人の記憶が自分を苛んでいる。それがなければこんなに悩む必要はなかった。
「このまま異世界側の立場にいていいのか」、「朋友達の末裔を手に掛けて、良心は痛まないのか」と罪悪感と焦燥感に胸を掻き毟られる。

 どうするべきか。
 自分はあくまで異世界転生者であると腹を括るべきか、それとも輪廻転生者に鞍替えするべきか。獣か鳥か、蝙蝠の自分はどちらに着くべきなのか。

 教会の――軍の命令に従って随分と地球人類を殺害した。そんな自分が今更、輪廻転生者側に行ってもいいものだろうか。しかし、これ以上、異世界転生者として地球人類と敵対する気にはなれない。

 どうする。どこに向かえばいいんだ。

「お姉ちゃん、そこで何をしているのサ?」
「ぬおっ!?」

 突然、背後から声を掛けられてカルルは驚いた。振り返れば、そこには赤きドレスの美少年――ネロがいた。

「どうしたんですか、その大荷物?」
「これから使う物が入っているのサ」

 ネロはアホみたいに大きい風呂敷包みを背負っていた。風呂敷の中に彼に言う『使う物』があるのだろう。

「お姉ちゃんこそここで何をしているのサ?」
「……ちょっと人生に迷っていましてな」
「ふぅん? 多分だけど、異世界転生者として戦うか、輪廻転生者として戦うか迷っているって事?」
「…………」

 図星を指されてカルルは黙り込む。そんな彼女をネロはジッと見つめた。口元には微笑を浮かべているが、目が笑っていない。見定める視線だ。

「これからボクはこの駐屯地アジトを襲撃する。お姉ちゃんが輪廻転生者だったら協力して欲しい。異世界転生者でも邪魔しないで欲しいナ」
「……拙僧は……」
「どうする?」

 どうすればいいのだろう。輪廻転生者として振舞うなら彼を補助するべきだ。異世界転生者としてなら彼の侵入を通達しなくてはならない。いや、今すぐここで自分の手で捕縛するべきだ。だが、今の自分にそんな資格があるのだろうか。

 どうしよう。
 どうしたらいい。
 どうしたらいいんだ――――
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