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第6章 終局七将イゴロウ
第24転 終局七将の威力
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イゴーロナク。
クトゥルフ神話に登場する邪神。悪を司る神だが、悪の美学といったものに興味はなく、低俗な悪事を好む。容姿は肥満で白熱した人型であり、頭部がない。両掌には濡れた赤い口が開いている。
◆ ◇ ◆
「【龍の首の珠・轟咆】――!」
「【中級光輝魔法】――!」
「――【悪神の手】!」
龍の光を伴う宝玉と幾本もの光線がイゴロウを襲う。だが、イゴロウは怯まない。発射口から光線の軌道を読み切り、悉く躱す。飛んでくる宝玉は濡れた口が刺青まれた左手で受け止めた。ゴブリン十数体を吹き飛ばした宝玉の威力が全て左手に吸い込まれる。
「――【大神霊実流剣術雛祭】!」
イゴロウが宝玉を掴んだと同時に、俺が十五の斬撃をイゴロウに見舞う。
いや、見舞おうとした。イゴロウが宝玉と光線に気を取られていた隙を突いた不可避の攻撃、その筈だった。だが、
「【盗神の手】――!」
直前にイゴロウに三日月状の剣を奪われた。いつの間に短剣を捨てたのか、イゴロウの右手には俺のシャムシールが握られていた。素手でブンブンと振り回したところで相手に届く訳がない。
「そらっ!」
「うぁあっ!」
握ったシャムシールで斬り掛かるイゴロウ。俺の胸部が横一文字に引き裂かれる。動けないほど深い傷ではないが、無視できるほど浅くもない。地面にぽつぽつと血痕が作られる。
「ううっ……!」
突如、竹が蹲る。今にも吐きそうなほど蒼褪めた顔だ。
「効いてきたか」
「獣月宮! ――イゴロウ、お前、何をした!?」
「さっき俺様が言った事を忘れたのかよ? この【バジリスクの血眼】は触れた対象に毒と麻痺と石化を与える。かぐや姫のお嬢ちゃんにはさっき腹に当てただろうが」
俺を庇った時に受けたものか。俺がだらしないばかりに竹をピンチに陥れてしまった。畜生!
見れば、竹の爪先から石化が始まっていた。早くどうにかしないと。イゴロウを倒せば石化は収まるのか? いや、考えている余裕はない。早く倒さなくては!
「さて、あとピンピンしているのはカルルちゃんだけだな」
「えっ!? いや、ちょっ待……!」
イゴロウがカルルに向かう。『僧侶』のカルルでは『盗賊』イゴロウの敏捷性からは逃れられない。逃げる間もなく距離を詰められる。
「【海の王者】――!」
だが、左手の指を揃える間はあった。カルルの絶対防御スキルが発動し、如何なる攻撃も通らなくなる。
「絶対防御はあらゆる変化も拒絶する。毒も麻痺も石化も効きませんぞ!」
「知っているよ、んなこたぁ。だがな」
イゴロウの右腕が伸び、カルルの顔を掴んだ。大きな掌で彼女の口と鼻をがっちりと覆う。
「んがっ!?」
「窒息には耐えられねえだろ。非力なテメェじゃ振りほどく事はできまい」
「んんん!? んんんんんーっ!」
【海の王者】を解除しない為に左手の形は変えられない。だが、右手の力だけではイゴロウを退けるには到底足りない。イゴロウの手首を掴んで藻掻くカルルだったが、全くの無意味だった。
「野郎ッ!」
イゴロウが捨てた短剣を拾い、イゴロウに斬り掛かる。迫る斬撃をイゴロウは左手で受けた。刃は掌で止められ、切り傷一つ付けられない。【悪神の手】だ。弱体化も、切れ味すらも吸収できるのか。
「はァっはあっ!」
イゴロウがカルルを掴んだまま右腕を振るう。肉の鎚矛と化したカルルが俺を殴打する。幾ら少女とはいえ人間一人の重みとなれば、その打撃力は無視できたものではない。カルルごと地面に仰向けに転がされる。
「痛っつぁ……!」
背中を強かに打ち付け、肺の中の酸素を吐き出してしまった。何よりカルルが俺の体の上に乗っている。酸欠になったのかカルルは目を回している。すぐには動けそうにない。
強い。イゴロウが強すぎる。三人がかりで手も足も出せない。これが『終局七将』の実力か。クリトやデクスターなんかとは本当にレベルが違う……!
「そろそろとどめを刺すか」
地面に這いつくばる俺達にイゴロウがニヤニヤしながら近付いてくる。手には俺が思わず手放した短剣が握られていた。
逃げられない。武器がない。防ぐ方法もない。まずい。まずいまずいまずい。今度こそ殺される――そう恐怖した時だった。
「喰らいりゃああああああああああっ!」
闖入者がイゴロウを蹴飛ばそうとした。見事なライダーキックがイゴロウの顔面を狙う。だが、各種装飾品の効果により蹴撃はあっさりと躱された。
「ありゃ? 外れちゃったネ?」
「ネロ!」
闖入者はネロだった。蹴った足で着地し、反対側の脚を振り回してバランスを取る。
「テメェ、どういうつもりだ? 今、このタイミングで俺様の前に姿を現すなんて。こそこそ俺様達から逃げ回っていた癖によ」
「どういうつもりかって? この人達を助けに来た? 勿論それもあるサ。ケド、それだけじゃない」
ネロがそう言うや否や爆発音が連続した。何事かと周囲を見渡せば、駐屯地にあるあちこちのテントから火の手が上がっていた。
「本命はこっち。ボクは運がいい。キミの注意がこの人達に行っている間にこの駐屯地に爆薬を仕掛ける事ができた。これでキミの私兵部隊は壊滅だ」
「テメェ、ネロおおおおおっ!」
イゴロウが吠え、ネロが挑発的に笑う。次いでネロは俺に顔を向けると、こちらに手を差し伸べてきた。彼に応える為に俺はカルルをどかして半身を起こす。
「さあ、ぽっと出のボクで悪いけど、一緒に戦ってくれるかい?」
「ああ、頼んだぞ!」
ネロの手を取り、俺は立ち上がった。
クトゥルフ神話に登場する邪神。悪を司る神だが、悪の美学といったものに興味はなく、低俗な悪事を好む。容姿は肥満で白熱した人型であり、頭部がない。両掌には濡れた赤い口が開いている。
◆ ◇ ◆
「【龍の首の珠・轟咆】――!」
「【中級光輝魔法】――!」
「――【悪神の手】!」
龍の光を伴う宝玉と幾本もの光線がイゴロウを襲う。だが、イゴロウは怯まない。発射口から光線の軌道を読み切り、悉く躱す。飛んでくる宝玉は濡れた口が刺青まれた左手で受け止めた。ゴブリン十数体を吹き飛ばした宝玉の威力が全て左手に吸い込まれる。
「――【大神霊実流剣術雛祭】!」
イゴロウが宝玉を掴んだと同時に、俺が十五の斬撃をイゴロウに見舞う。
いや、見舞おうとした。イゴロウが宝玉と光線に気を取られていた隙を突いた不可避の攻撃、その筈だった。だが、
「【盗神の手】――!」
直前にイゴロウに三日月状の剣を奪われた。いつの間に短剣を捨てたのか、イゴロウの右手には俺のシャムシールが握られていた。素手でブンブンと振り回したところで相手に届く訳がない。
「そらっ!」
「うぁあっ!」
握ったシャムシールで斬り掛かるイゴロウ。俺の胸部が横一文字に引き裂かれる。動けないほど深い傷ではないが、無視できるほど浅くもない。地面にぽつぽつと血痕が作られる。
「ううっ……!」
突如、竹が蹲る。今にも吐きそうなほど蒼褪めた顔だ。
「効いてきたか」
「獣月宮! ――イゴロウ、お前、何をした!?」
「さっき俺様が言った事を忘れたのかよ? この【バジリスクの血眼】は触れた対象に毒と麻痺と石化を与える。かぐや姫のお嬢ちゃんにはさっき腹に当てただろうが」
俺を庇った時に受けたものか。俺がだらしないばかりに竹をピンチに陥れてしまった。畜生!
見れば、竹の爪先から石化が始まっていた。早くどうにかしないと。イゴロウを倒せば石化は収まるのか? いや、考えている余裕はない。早く倒さなくては!
「さて、あとピンピンしているのはカルルちゃんだけだな」
「えっ!? いや、ちょっ待……!」
イゴロウがカルルに向かう。『僧侶』のカルルでは『盗賊』イゴロウの敏捷性からは逃れられない。逃げる間もなく距離を詰められる。
「【海の王者】――!」
だが、左手の指を揃える間はあった。カルルの絶対防御スキルが発動し、如何なる攻撃も通らなくなる。
「絶対防御はあらゆる変化も拒絶する。毒も麻痺も石化も効きませんぞ!」
「知っているよ、んなこたぁ。だがな」
イゴロウの右腕が伸び、カルルの顔を掴んだ。大きな掌で彼女の口と鼻をがっちりと覆う。
「んがっ!?」
「窒息には耐えられねえだろ。非力なテメェじゃ振りほどく事はできまい」
「んんん!? んんんんんーっ!」
【海の王者】を解除しない為に左手の形は変えられない。だが、右手の力だけではイゴロウを退けるには到底足りない。イゴロウの手首を掴んで藻掻くカルルだったが、全くの無意味だった。
「野郎ッ!」
イゴロウが捨てた短剣を拾い、イゴロウに斬り掛かる。迫る斬撃をイゴロウは左手で受けた。刃は掌で止められ、切り傷一つ付けられない。【悪神の手】だ。弱体化も、切れ味すらも吸収できるのか。
「はァっはあっ!」
イゴロウがカルルを掴んだまま右腕を振るう。肉の鎚矛と化したカルルが俺を殴打する。幾ら少女とはいえ人間一人の重みとなれば、その打撃力は無視できたものではない。カルルごと地面に仰向けに転がされる。
「痛っつぁ……!」
背中を強かに打ち付け、肺の中の酸素を吐き出してしまった。何よりカルルが俺の体の上に乗っている。酸欠になったのかカルルは目を回している。すぐには動けそうにない。
強い。イゴロウが強すぎる。三人がかりで手も足も出せない。これが『終局七将』の実力か。クリトやデクスターなんかとは本当にレベルが違う……!
「そろそろとどめを刺すか」
地面に這いつくばる俺達にイゴロウがニヤニヤしながら近付いてくる。手には俺が思わず手放した短剣が握られていた。
逃げられない。武器がない。防ぐ方法もない。まずい。まずいまずいまずい。今度こそ殺される――そう恐怖した時だった。
「喰らいりゃああああああああああっ!」
闖入者がイゴロウを蹴飛ばそうとした。見事なライダーキックがイゴロウの顔面を狙う。だが、各種装飾品の効果により蹴撃はあっさりと躱された。
「ありゃ? 外れちゃったネ?」
「ネロ!」
闖入者はネロだった。蹴った足で着地し、反対側の脚を振り回してバランスを取る。
「テメェ、どういうつもりだ? 今、このタイミングで俺様の前に姿を現すなんて。こそこそ俺様達から逃げ回っていた癖によ」
「どういうつもりかって? この人達を助けに来た? 勿論それもあるサ。ケド、それだけじゃない」
ネロがそう言うや否や爆発音が連続した。何事かと周囲を見渡せば、駐屯地にあるあちこちのテントから火の手が上がっていた。
「本命はこっち。ボクは運がいい。キミの注意がこの人達に行っている間にこの駐屯地に爆薬を仕掛ける事ができた。これでキミの私兵部隊は壊滅だ」
「テメェ、ネロおおおおおっ!」
イゴロウが吠え、ネロが挑発的に笑う。次いでネロは俺に顔を向けると、こちらに手を差し伸べてきた。彼に応える為に俺はカルルをどかして半身を起こす。
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今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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