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第6章 終局七将イゴロウ
第25転 二撃必殺
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ネロの周囲に陽炎が現れる。陽炎は間もなく七つの首を持つ緋色の獣へと形状を変えた。獣は如何なる既存の動物にも似ておらず、豹のようにも熊のようにも獅子のようにも見えた。七つの首がネロの全身に纏わり付く。頭部に一つ、胴体に一つ、右脚に一つ、左脚に一つ、左腕に一つ、右腕に二つだ。
「お前、何だよそれは?」
「これは【七の獣頭】だヨ。『黙示録の獣』の力をその身に宿す、魔性の技サ」
「黙示録の獣……」
黙示録の獣は新約聖書に登場する怪物だ。七頭十角の魔獣であり、世界の終末に偽預言者と共に現れ、人々を堕落に導く。その容貌はローマ帝国を象徴しているとされ、七頭は七つの丘、十角は十人の皇帝を意味しているという。ネロはその十人の皇帝の一人だ。
黙示録の獣の逸話を具現化して身に纏う、それが【七の獣頭】という技なのだろう。
向こうの地面には俺の刀が落ちている。まずはあれを取り返さなくては俺が役に立たない。
「あの刀を拾ってくる。時間稼ぎしてくれるか?」
「アイアイサー!」
ネロが返事と同時に地を蹴る。俺も刀に向かって駆け出した。
「ドララララララララララッ!」
「ぬおっ!」
ネロがイゴロウに殴り掛かる。一発二発、十発二十発と畳み掛ける。あまり切れのいい動きではない。というか、素人丸出しの拳闘だ。
足運びは滅茶苦茶。踏み込みも出鱈目。拳の振りも我武者羅で、腰も入っていない。同じ拳士のクリト・ルリトールと比べると洗練は雲泥の差だ。恐らくクリトと対峙したらネロが負けるだろう。究極攻撃を攻略する技量がネロにはない。
だが、ネロの拳は疾い。そして剛い。一発一発が冗談のように重く、短剣で防御すれば刃が折られかねない。防御ができないのだからイゴロウは避け続けるしか選択肢がない。
相性という奴だ。クリトとイゴロウが戦ったらイゴロウが勝つ。究極攻撃の威力が凄まじかろうとイゴロウには当たらない。右手以外を膾切りにされて終わりだ。そのクリトと比すればネロが不利だ。だが、そのネロに今、イゴロウは苦戦している。
ネロが素手だというのもあるだろう。盗める武器が何もないので、【盗神の手】が実質使用不可能の状態なのだ。
「このっ、テメェ!」
「あははははは、効かないヨ!」
その上、短剣【バジリスクの血眼】の効果もないようだ。
ネロが纏うあの陽炎のような力の奔流――魔力放出とでも言えばいいだろうか――が鎧となって短剣をその身に寄せ付けないのだ。さすがの短剣の猛威も触れられなければ意味がない。弱体化で攻めるイゴロウの戦法が通じないのだ。
【盗神の手】も【バジリスクの血眼】も封じられているのだから苦戦もするというものである。
「……よし、取った!」
ネロがイゴロウを抑えている間に地面に落ちていた刀を拾う。
ああ、やっぱりこの刀だ。三日月状の剣も【バジリスクの血眼】も握ったが、やっぱりこの刀が一番しっくり来る。竹から貰った俺の刀だ。
「――調子に乗るなよ、クソガキ!」
「ぐぬぬ、ぬぉおっ!」
ネロ達の方を振り向けば、イゴロウがネロを押し返していた。
【悪神の手】だ。左手のスキルで【七の獣頭】のエネルギーを喰らい、叩いて受け流し、捌き始めたのだ。
さすがに左腕一本で拮抗するのは難しいようだが、徐々にネロの攻撃に追い付いてきている。追い抜かされるのも時間の問題か。この対応力は異世界転生軍の幹部なだけはある。
なればこそ、早く倒さなくてはならない。
「ネロ、刀を拾ったぞ!」
「あいよ! ――獣よ!」
ネロに纏わりついていた獣がネロから離れ、旋回する。砂が巻き上げられ、イゴロウの周囲を覆い隠した。砂嵐の真っ只中にいるようで視界が悪い。
「目眩ましのつもりか? こんなもので……!」
イゴロウがその言葉を言い終える事はなかった。頭上からネロが両拳を重ねて落ちてきたからだ。身を翻して躱すイゴロウ。空振りしたネロの拳が地面を叩き、砂が一層巻き上がる。
「俺様の回避は自動なんだ。俺様が見えている見えていないは関係ねえんだよ!」
地面に膝を突いたネロにイゴロウの身体が自動で反撃する。左指を鉤爪のように突き出して、ネロを縊り殺すつもりだ。
その動きを待っていた。攻撃している最中――どうしても防御への意識が疎かになってしまうこの瞬間を俺は狙っていた。
「【大神霊実流剣術】――【卯槌】!」
普段は片手で持っている刀を両手で握り、脚部に渾身の力を込めて地を蹴る。俺の最高速度の疾走――【大神霊実流剣術追儺】ではそのまま斬り抜けていたが、この技は違う。イゴロウの手前で強く踏み込む事で速力を全て斬撃の威力に回す。上段から全身全霊で振り下ろされた刀は斬鉄をも成す一撃となる。防御不能の一刀だ。
これぞ【卯槌】――古流剣術・示現流における雲耀にも通ずる剣技である。
「ぬっくおおおっ!」
防御不能となれば回避するしかない。だが、攻撃の最中に回避しようとなれば十全とはいかない。強引に動いたせいでイゴロウは重心を崩していた。
本来、慣性の法則により振り下ろした剣を急停止させる事は無理である。だが、『二の太刀要らず』と謳われた示現流にも連続攻撃技はあるように、この【卯槌】にも二撃目がある。
「――【卯槌・雉翔】!」
全身の筋肉を使って力ずくで刀を斬り返す。
燕返し――伝説の剣士・佐々木小次郎が得意としたとされる秘剣、それと同種の技だ。初撃が防御不能の一刀であれば、この二撃目は回避不能の一刀だ。ましてや攻撃の中断、無理な回避をした今のイゴロウでは為す術はない。
「がっ……はっ!」
イゴロウの腰部から左肩に向かって刃が通る。血肉を切る感触、肋骨を断つ感触、心臓を斬る感触を刀越しに覚える。大量の血飛沫が夜空へと高く舞い上がり、イゴロウが血反吐を吐きながら仰向けに倒れた。
イゴロウの命は絶たれた。俺達の勝利だ。
「お前、何だよそれは?」
「これは【七の獣頭】だヨ。『黙示録の獣』の力をその身に宿す、魔性の技サ」
「黙示録の獣……」
黙示録の獣は新約聖書に登場する怪物だ。七頭十角の魔獣であり、世界の終末に偽預言者と共に現れ、人々を堕落に導く。その容貌はローマ帝国を象徴しているとされ、七頭は七つの丘、十角は十人の皇帝を意味しているという。ネロはその十人の皇帝の一人だ。
黙示録の獣の逸話を具現化して身に纏う、それが【七の獣頭】という技なのだろう。
向こうの地面には俺の刀が落ちている。まずはあれを取り返さなくては俺が役に立たない。
「あの刀を拾ってくる。時間稼ぎしてくれるか?」
「アイアイサー!」
ネロが返事と同時に地を蹴る。俺も刀に向かって駆け出した。
「ドララララララララララッ!」
「ぬおっ!」
ネロがイゴロウに殴り掛かる。一発二発、十発二十発と畳み掛ける。あまり切れのいい動きではない。というか、素人丸出しの拳闘だ。
足運びは滅茶苦茶。踏み込みも出鱈目。拳の振りも我武者羅で、腰も入っていない。同じ拳士のクリト・ルリトールと比べると洗練は雲泥の差だ。恐らくクリトと対峙したらネロが負けるだろう。究極攻撃を攻略する技量がネロにはない。
だが、ネロの拳は疾い。そして剛い。一発一発が冗談のように重く、短剣で防御すれば刃が折られかねない。防御ができないのだからイゴロウは避け続けるしか選択肢がない。
相性という奴だ。クリトとイゴロウが戦ったらイゴロウが勝つ。究極攻撃の威力が凄まじかろうとイゴロウには当たらない。右手以外を膾切りにされて終わりだ。そのクリトと比すればネロが不利だ。だが、そのネロに今、イゴロウは苦戦している。
ネロが素手だというのもあるだろう。盗める武器が何もないので、【盗神の手】が実質使用不可能の状態なのだ。
「このっ、テメェ!」
「あははははは、効かないヨ!」
その上、短剣【バジリスクの血眼】の効果もないようだ。
ネロが纏うあの陽炎のような力の奔流――魔力放出とでも言えばいいだろうか――が鎧となって短剣をその身に寄せ付けないのだ。さすがの短剣の猛威も触れられなければ意味がない。弱体化で攻めるイゴロウの戦法が通じないのだ。
【盗神の手】も【バジリスクの血眼】も封じられているのだから苦戦もするというものである。
「……よし、取った!」
ネロがイゴロウを抑えている間に地面に落ちていた刀を拾う。
ああ、やっぱりこの刀だ。三日月状の剣も【バジリスクの血眼】も握ったが、やっぱりこの刀が一番しっくり来る。竹から貰った俺の刀だ。
「――調子に乗るなよ、クソガキ!」
「ぐぬぬ、ぬぉおっ!」
ネロ達の方を振り向けば、イゴロウがネロを押し返していた。
【悪神の手】だ。左手のスキルで【七の獣頭】のエネルギーを喰らい、叩いて受け流し、捌き始めたのだ。
さすがに左腕一本で拮抗するのは難しいようだが、徐々にネロの攻撃に追い付いてきている。追い抜かされるのも時間の問題か。この対応力は異世界転生軍の幹部なだけはある。
なればこそ、早く倒さなくてはならない。
「ネロ、刀を拾ったぞ!」
「あいよ! ――獣よ!」
ネロに纏わりついていた獣がネロから離れ、旋回する。砂が巻き上げられ、イゴロウの周囲を覆い隠した。砂嵐の真っ只中にいるようで視界が悪い。
「目眩ましのつもりか? こんなもので……!」
イゴロウがその言葉を言い終える事はなかった。頭上からネロが両拳を重ねて落ちてきたからだ。身を翻して躱すイゴロウ。空振りしたネロの拳が地面を叩き、砂が一層巻き上がる。
「俺様の回避は自動なんだ。俺様が見えている見えていないは関係ねえんだよ!」
地面に膝を突いたネロにイゴロウの身体が自動で反撃する。左指を鉤爪のように突き出して、ネロを縊り殺すつもりだ。
その動きを待っていた。攻撃している最中――どうしても防御への意識が疎かになってしまうこの瞬間を俺は狙っていた。
「【大神霊実流剣術】――【卯槌】!」
普段は片手で持っている刀を両手で握り、脚部に渾身の力を込めて地を蹴る。俺の最高速度の疾走――【大神霊実流剣術追儺】ではそのまま斬り抜けていたが、この技は違う。イゴロウの手前で強く踏み込む事で速力を全て斬撃の威力に回す。上段から全身全霊で振り下ろされた刀は斬鉄をも成す一撃となる。防御不能の一刀だ。
これぞ【卯槌】――古流剣術・示現流における雲耀にも通ずる剣技である。
「ぬっくおおおっ!」
防御不能となれば回避するしかない。だが、攻撃の最中に回避しようとなれば十全とはいかない。強引に動いたせいでイゴロウは重心を崩していた。
本来、慣性の法則により振り下ろした剣を急停止させる事は無理である。だが、『二の太刀要らず』と謳われた示現流にも連続攻撃技はあるように、この【卯槌】にも二撃目がある。
「――【卯槌・雉翔】!」
全身の筋肉を使って力ずくで刀を斬り返す。
燕返し――伝説の剣士・佐々木小次郎が得意としたとされる秘剣、それと同種の技だ。初撃が防御不能の一刀であれば、この二撃目は回避不能の一刀だ。ましてや攻撃の中断、無理な回避をした今のイゴロウでは為す術はない。
「がっ……はっ!」
イゴロウの腰部から左肩に向かって刃が通る。血肉を切る感触、肋骨を断つ感触、心臓を斬る感触を刀越しに覚える。大量の血飛沫が夜空へと高く舞い上がり、イゴロウが血反吐を吐きながら仰向けに倒れた。
イゴロウの命は絶たれた。俺達の勝利だ。
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今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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