転輪御伽草子モモタロウ ~ぶっちぎりの最強vs.最強!!! 異世界転生者と輪廻転生者が地球の命運を懸けて正面対決する!!!!!~

ナイカナ・S・ガシャンナ

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第3章 那岐山のホテル

第16転 掛布団の下の可能性

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「吉備之介殿!?」
「えっ、誰です?」
「【大神霊実おおかむづみ流剣術】――【雛祭すうさい】!」

 俺の闖入に二人揃って驚愕する。そんな二人に構う事なく俺は瞬時にコツコッツに肉薄。同時十五斬撃をコツコッツに叩き込んだ。
 カルルには通らなかった技だが、コツコッツには通った。全身骨格が二十以上のパーツに分割され、バラバラと屋上の床に落ちる。

「……何だ? 随分とあっけなかったな」

 コツコッツはそのまま動かなくなった。技一つで終わってしまった。異世界転生者相手ならもう少し苦戦すると思ったんだが。

「異世界転生軍の二番隊副隊長、『不死者』の異世界転生者、コツコッツ・スケルタルホラー。獲得したチートスキルは【電脳伝令ダイレクトメッセージ】。戦闘能力は低い方ですからな、あっけないのは仕方ありますまい」
「【電脳伝令ダイレクトメッセージ】?」
「自分の持っている情報を皆に瞬時に共有する、サポート特化型のスキルですぞ」

 魔法世界の文明はヨーロッパの中世~近世レベルに留まっていると聞く。インターネットどころか電話すらない。遠方の相手とコミュニケーションを取ろうと思ったら手紙か伝令を使うしかないのだ。
 そんな世界で共有が即で時間差がなく、齟齬もない情報伝達手段となればかなり有能だ。特に戦争時においては隔絶した軍に相互の連携を可能にする。地味だが、他のどんな派手なチートスキルよりも脅威だ。
 だが、そんな凄いチートスキルでも自身を守る事には使えなかったようだな。

「つまり、俺達がこのホテルにいるって事が異世界転生軍にバレたって事か?」
「当然でしょうな。……あーッ! もうこれで拙僧、完全に敵認定されたの広まっちゃったんですけど! どうしてこんな事にィ!」

 頭を抱えて蹲るカルル。まだ異世界側に戻れると思っていたようだが、運が悪かったな。ここで追ってきたのが『死は救済』派のコツコッツでなけば、まだ違う展開もあったかもしれなかったのに。でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、カルル。だからこの話はここでおしまいなんだ。

「……それにしても」

 こいつ、この期に及んで輪廻転生者からバックレようとは。地球人類を大量殺戮した罪悪感とか責任感とかないのだろうか。
 ……ないのかもしれない。クリト・ルリトールは「異世界転生者は前世、地球にいた頃に碌でもない目に遭ってきた」と言っていた。彼女もまた地球での人生を呪っていてもおかしくはない。であれば、罪悪感を懐く義理もないか。
 ……俺とは違うか。

「これでお前も逃亡者だな。オラ、逃げるぞ。お前は馬車の用意をしろ」
「ううっ、仕方ないですなあ」

 カルルを立たせて一階の駐車場に向かわせる。さて、彼女が準備をしている間に俺は竹を起こしてくるとしよう。


◆  ◇  ◆


 このホテルでは二部屋を借りた。俺が一室、竹とカルルで一室だ。男女で一室ずつ分けたのだ。
 カルルから鍵を借りて部屋へと向かう。扉をノックするが、反応はない。やはり眠っているようだ。今は夜中の二時、睡眠中なのはむしろ当然だ。カルルが抜け出した事に気付いていないのは少し間が抜けていると言わざるを得ないが、無理もない。

「入るぜ」

 鍵で扉を開け、中に入る。扉のすぐ手前にはトイレと浴室、奥にはベッドが二つ並んでいた。その一つで竹は寝ていた。顔半分まで掛布団に埋まっている。
 ……ちょっとドキドキする。同い年の女の子の寝息なんて初めて聞いたし、美少女の寝顔なんて初めて見た。いや、そんな事をしている場合ではないのは重々承知なのだが、思春期の身には厳しい。

「竹。竹、起きろ」
「……ん……」

 高鳴る心臓を無視して竹に声を掛ける。が、起きない。声程度では覚めないくらいには深い眠りに就いているようだ。仕方がないので掛布団越しに竹を揺する。

「竹、起きろ。竹」
「……ん。……んん?」

 何度か揺するとようやく竹が目を覚ました。最初は横になったまま寝ぼけまなこだったが、やがて意識が覚醒する。途端、飛び跳ねるように起きると同時に、掛布団を引っ張り上げて首から下を隠した。

「な、なんであんたがここにいるのよ!? 夜這い!? 私が美人だから!?」
「夜這いじゃねえよ! ……じゃなくて、緊急事態だ。異世界転生軍にここがバレた」
「……何ですって」

 テンパっていた竹の目がスッと鋭くなる。意識の切り替えが早い。さすがは輪廻転生者の協賛者スポンサーとして遣わされただけはある。

「今、カルルが馬車を待たせている。ずらかるぞ」
「分かったわ。…………」
「……ん? どうした?」

 ふと竹が剣呑とした目でこちらを見ているのに気付いた。何だろう。

「早く出て行ってくれるかしら」
「え? おう、そりゃ出るけど。どうしてそんなに急かすんだ?」
「……アレ」

 竹が指差した先、壁際のハンガーにはブレザーが掛けられていた。竹が着ていたものだ。ブレザーがあそこにあって、竹がこの反応をしているという事は今、掛布団の下の竹はパジャマ姿ではない可能性が高い。最低でも下着姿という事になる。よく見れば、布団の隙間から見えるのは生肩ではないだろうか。
 あるいは、それ以上の格好をしているという事も――

「早く出てって言ってるでしょ!」
「すいまっせんした! すぐけます!」

 竹の怒号に弾かれるように俺は慌てて部屋から飛び出た。



「お、来た来た。遅いですぞ、何やっていたんでつか……何ですか、二人とも。顔が赤いですぞ」
「……いや、別に。何もねえよ」
「……そうね、何も起きてはいないわよね。起きては」
「?」
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