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第2部 〈世界制覇〉編
74、キタナイモノ。……物語とは、違って。
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――あたしは、キタナイモノを知っている。
あたしが生まれ育った王都の孤児院は、司祭さまもシスターもみんな優しくて、いい所だった。
でも、劣悪な、一つの理由だけじゃなくて、劣悪な環境の孤児院もあることだって、知っている。
平和で豊かな王都の片隅に、明日をも知れない人たちが暮らす貧民窟があることだって、知っている。
……他の街よりは、そこがまだいい方だってことも知っている。
物心ついた頃から勇者として選ばれたあたしが接してきた一番身近な王族や貴族。
イルゼベール女王やその側近や騎士団長。あたしの一番大切な大好きな親友で王女のメルニベールこと、メルニー。
みんなクインブレン王国のために一生懸命で、本当に尊敬できる人たち。
でも、そうじゃなくて民を虐げ、私腹を肥やすことにだけ一生懸命な貴族がいることだって、知っている。その人たちがそれをなんとも思わないことだって知っている。
……その中に、いまの王国法では裁けない『悪』がいることだって知っている。
あたしは、勇者が魔王を倒したからって、本当の意味で世界が救われないことを知っている。
この世界は、複雑で、ぐちゃぐちゃで、いろいろで、いろいろ、いろいろすぎて。あたしにも、誰にもどうにもできないって知っていたから。
だから、魔王を倒して勇者の役目をちゃんと果たしたら、また旅に出ようと思っていた。……今度は、独りで。
あたしにできる範囲で、あたしの手が届く範囲の小さな世界だけでも。少しでも幸せにできれば、それでいいと思っていた。
でも、そんなとき。
「ふ。そうだな。勇者アリューシャよ。志を同じくする俺たちは言わば、同志と呼べるだろう」
――あたしは、ジュドーに出会った。
その言葉を交わしたときから、あたしにはわかった。
ジュドーが本気で世界を変えて、救おうとしていることが。
「……じゃあ、あともう一つを全力でするねー?」
そして、もっと言葉を交わして、戦って、譲れない信念をお互いにぶつけ合って、本当の意味でわかった。
「どうか俺に貴女の力を貸してくれ! 頼む! 人間たちの希望! 勇者、いや志を同じくする俺の同志! アリューシャよ!」
もしかしたらジュドーなら、本当の意味でこの世界を救えるのかもしれないって。
あたしには持てない、一度この世界の枠組みを全て壊して、そして新たに創る覚悟を持ったジュドーなら。
――あたしは、物語の英雄が嫌いだ。
閉じた世界で、自分の正義を疑わず、裏にあるかもしれない外の事情も省みず、ただ自分の役割を果たしただけで、何かを救った気になっている英雄が。
――そんなもの、あたしは望まない。
あたしは、あたしが英雄にも、たとえ勇者にも相応しくなくなっても、汚れても傷ついても。
そう。物語の中にすらないほどに完璧な、誰もが心から笑って暮らせる幸せな世界が欲しい。
だから、そのために。あたしが信じたジュドーの覇道のために、あたしは戦う。
――だから。
ぽた、ぽた、ぽた。
「く、がっ……! はぁっ……! はぁっ……! お、の、れ……!」
だから、現実が、この戦いが、物語のように綺麗に終わらなくても、いい。
――べっとりと血濡れの剣を手に、あたしは前を見る。
そこに、英雄が跪いていた。
――手、足、腕、肩、腰、腿、脛、指。
致命には至らない――けれど、夥しい数、夥しい箇所を、あたしに刻まれて。
満身創痍の体で、いまだ尽きない憎悪をたぎらせてあたしを睨みつけ。
カ、シャン。
「ぐ、ぅ…………!」
――たったいま、剣すらついに握り、支えきれなくなった英雄が。
あたしが生まれ育った王都の孤児院は、司祭さまもシスターもみんな優しくて、いい所だった。
でも、劣悪な、一つの理由だけじゃなくて、劣悪な環境の孤児院もあることだって、知っている。
平和で豊かな王都の片隅に、明日をも知れない人たちが暮らす貧民窟があることだって、知っている。
……他の街よりは、そこがまだいい方だってことも知っている。
物心ついた頃から勇者として選ばれたあたしが接してきた一番身近な王族や貴族。
イルゼベール女王やその側近や騎士団長。あたしの一番大切な大好きな親友で王女のメルニベールこと、メルニー。
みんなクインブレン王国のために一生懸命で、本当に尊敬できる人たち。
でも、そうじゃなくて民を虐げ、私腹を肥やすことにだけ一生懸命な貴族がいることだって、知っている。その人たちがそれをなんとも思わないことだって知っている。
……その中に、いまの王国法では裁けない『悪』がいることだって知っている。
あたしは、勇者が魔王を倒したからって、本当の意味で世界が救われないことを知っている。
この世界は、複雑で、ぐちゃぐちゃで、いろいろで、いろいろ、いろいろすぎて。あたしにも、誰にもどうにもできないって知っていたから。
だから、魔王を倒して勇者の役目をちゃんと果たしたら、また旅に出ようと思っていた。……今度は、独りで。
あたしにできる範囲で、あたしの手が届く範囲の小さな世界だけでも。少しでも幸せにできれば、それでいいと思っていた。
でも、そんなとき。
「ふ。そうだな。勇者アリューシャよ。志を同じくする俺たちは言わば、同志と呼べるだろう」
――あたしは、ジュドーに出会った。
その言葉を交わしたときから、あたしにはわかった。
ジュドーが本気で世界を変えて、救おうとしていることが。
「……じゃあ、あともう一つを全力でするねー?」
そして、もっと言葉を交わして、戦って、譲れない信念をお互いにぶつけ合って、本当の意味でわかった。
「どうか俺に貴女の力を貸してくれ! 頼む! 人間たちの希望! 勇者、いや志を同じくする俺の同志! アリューシャよ!」
もしかしたらジュドーなら、本当の意味でこの世界を救えるのかもしれないって。
あたしには持てない、一度この世界の枠組みを全て壊して、そして新たに創る覚悟を持ったジュドーなら。
――あたしは、物語の英雄が嫌いだ。
閉じた世界で、自分の正義を疑わず、裏にあるかもしれない外の事情も省みず、ただ自分の役割を果たしただけで、何かを救った気になっている英雄が。
――そんなもの、あたしは望まない。
あたしは、あたしが英雄にも、たとえ勇者にも相応しくなくなっても、汚れても傷ついても。
そう。物語の中にすらないほどに完璧な、誰もが心から笑って暮らせる幸せな世界が欲しい。
だから、そのために。あたしが信じたジュドーの覇道のために、あたしは戦う。
――だから。
ぽた、ぽた、ぽた。
「く、がっ……! はぁっ……! はぁっ……! お、の、れ……!」
だから、現実が、この戦いが、物語のように綺麗に終わらなくても、いい。
――べっとりと血濡れの剣を手に、あたしは前を見る。
そこに、英雄が跪いていた。
――手、足、腕、肩、腰、腿、脛、指。
致命には至らない――けれど、夥しい数、夥しい箇所を、あたしに刻まれて。
満身創痍の体で、いまだ尽きない憎悪をたぎらせてあたしを睨みつけ。
カ、シャン。
「ぐ、ぅ…………!」
――たったいま、剣すらついに握り、支えきれなくなった英雄が。
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