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第2部 〈世界制覇〉編
75、決着。天技将帝キルシュアーツ。……血と汗と泥と涙に塗れた、勝利。
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「――天・列・一閃っ―!」
戦いの趨勢は、あの瞬間についた。
天技将帝キルシュアーツの切り札のスキルに、あたしの切り札と日々の研鑽でなんとか打ち勝ったあたし。
「私は……! 私は、負けぬ……! 負ける、わけには、いかぬ……! 永世帝国の、ために……!」
深手を負った英雄が〈命石〉を砕き、回復する。
戦いはなおも続いた。けど、それから先は終始あたし有利に進む。
当たり前だ。最後の切り札まで使った天技将帝キルシュアーツに、もう打てる手はないのだから。
頼みの〈命石〉を全て砕かせ使い切らせたあとは、もうあたしの一方的だった。
吸い続けた『闇』の魔力で継続回復し、無傷に戻ったあたし。
無傷のときだけ、少しだけど常にあたしを強化してくれる、ジュドーの助言でとった勇者専用スキル〈揺るぎない光〉。
〈命石〉を失い、回復もできず傷から血を流し続け、動きにも精彩を欠く英雄。
その少しずつ傾き始めた天秤は、徐々に徐々に、やがて急速に急速に勢いを増し――結果、いま。
「ごふっ……満足……かっ……! 魔勇者……アリューシャ……!」
憤怒の形相。口の中の血泡と共に地の底から沸き立つような怨嗟の声を英雄が吐き出す。
「こうまで、してっ……! この、私の……!」
英雄が、歯をギリ、とはっきりと聞こえるほどに軋らせる。
「敗者の、尊厳を……! 徹底的に、踏み躙ってまで……! 殺さずに、勝利することがっ……! 貴様たち……のっ……! 私は……! 私はっ……!」
そして。
「私は……屈辱……だっ……!」
――その金の瞳から、涙が一雫流れた。
「ああ。満足だ。そして、敗者の弁などこれ以上いまは聞く気もない。――スリープ」
「っ……………………!」
ぷつり、と。
告げられた声と共に、涙の尾を引きながら、糸が切れた人形のように、天技将帝キルシュアーツが昏倒する。
「……ジュドー」
あたしは、後ろからやってきた、右手のひらを前にかざし、複雑そうに顔を歪めていた――けれど振り返ったあたしに気づくと、すぐに微笑みをつくったジュドーに。
「ふ。よくやってくれた。流石はデスニアと並ぶこの魔王ジュドの左腕、魔勇者アリューシャだ。この天技将帝キルシュアーツを生かして捕らえたことは、必ずやこの俺の覇道。そして、その先に創る新たな世界に――っ!?」
――最後まで言い終わるのを待つことなく、その胸に、飛び込む。
「ごめん、ね……。ジュドー……。でも、少しだけ、こうさせ、て…………」
少しの間、躊躇うように手が宙を泳ぐ気配がして。
「アリューシャ」
想いを込めて、あたしの名前を呟くと共に、その手がそっと、抱きしめるでもなく、ただあたしの体を支えるように、そっとあたしの背中に添えられる。
「っ…………!」
……その胸の中で、あたしは泣いた。
自分でもよくわからない、ぐちゃぐちゃで、どろどろとした、ないまぜになった、ぐるぐるとした、どうしようもない感情のままに。
あえて言うならば――――勝利の。
あたしのものではない、血と汗と泥と涙に塗れた勝利の味を、あたしはジュドーの胸の中で噛み締め続けた。
……大切な、同志。大切な、共犯者。大切な――――の胸の中で。
いつのまにか暮れた、月明かりの下。
そっと、優しく。赤く艶やかな長い髪を労るように、愛しむように、撫でられながら。
――そっと、優しく。
戦いの趨勢は、あの瞬間についた。
天技将帝キルシュアーツの切り札のスキルに、あたしの切り札と日々の研鑽でなんとか打ち勝ったあたし。
「私は……! 私は、負けぬ……! 負ける、わけには、いかぬ……! 永世帝国の、ために……!」
深手を負った英雄が〈命石〉を砕き、回復する。
戦いはなおも続いた。けど、それから先は終始あたし有利に進む。
当たり前だ。最後の切り札まで使った天技将帝キルシュアーツに、もう打てる手はないのだから。
頼みの〈命石〉を全て砕かせ使い切らせたあとは、もうあたしの一方的だった。
吸い続けた『闇』の魔力で継続回復し、無傷に戻ったあたし。
無傷のときだけ、少しだけど常にあたしを強化してくれる、ジュドーの助言でとった勇者専用スキル〈揺るぎない光〉。
〈命石〉を失い、回復もできず傷から血を流し続け、動きにも精彩を欠く英雄。
その少しずつ傾き始めた天秤は、徐々に徐々に、やがて急速に急速に勢いを増し――結果、いま。
「ごふっ……満足……かっ……! 魔勇者……アリューシャ……!」
憤怒の形相。口の中の血泡と共に地の底から沸き立つような怨嗟の声を英雄が吐き出す。
「こうまで、してっ……! この、私の……!」
英雄が、歯をギリ、とはっきりと聞こえるほどに軋らせる。
「敗者の、尊厳を……! 徹底的に、踏み躙ってまで……! 殺さずに、勝利することがっ……! 貴様たち……のっ……! 私は……! 私はっ……!」
そして。
「私は……屈辱……だっ……!」
――その金の瞳から、涙が一雫流れた。
「ああ。満足だ。そして、敗者の弁などこれ以上いまは聞く気もない。――スリープ」
「っ……………………!」
ぷつり、と。
告げられた声と共に、涙の尾を引きながら、糸が切れた人形のように、天技将帝キルシュアーツが昏倒する。
「……ジュドー」
あたしは、後ろからやってきた、右手のひらを前にかざし、複雑そうに顔を歪めていた――けれど振り返ったあたしに気づくと、すぐに微笑みをつくったジュドーに。
「ふ。よくやってくれた。流石はデスニアと並ぶこの魔王ジュドの左腕、魔勇者アリューシャだ。この天技将帝キルシュアーツを生かして捕らえたことは、必ずやこの俺の覇道。そして、その先に創る新たな世界に――っ!?」
――最後まで言い終わるのを待つことなく、その胸に、飛び込む。
「ごめん、ね……。ジュドー……。でも、少しだけ、こうさせ、て…………」
少しの間、躊躇うように手が宙を泳ぐ気配がして。
「アリューシャ」
想いを込めて、あたしの名前を呟くと共に、その手がそっと、抱きしめるでもなく、ただあたしの体を支えるように、そっとあたしの背中に添えられる。
「っ…………!」
……その胸の中で、あたしは泣いた。
自分でもよくわからない、ぐちゃぐちゃで、どろどろとした、ないまぜになった、ぐるぐるとした、どうしようもない感情のままに。
あえて言うならば――――勝利の。
あたしのものではない、血と汗と泥と涙に塗れた勝利の味を、あたしはジュドーの胸の中で噛み締め続けた。
……大切な、同志。大切な、共犯者。大切な――――の胸の中で。
いつのまにか暮れた、月明かりの下。
そっと、優しく。赤く艶やかな長い髪を労るように、愛しむように、撫でられながら。
――そっと、優しく。
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