黒と金のストレイシープ

東雲

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1・金と黒

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 僕は学校の廊下で立ち尽くした。受け入れがたい物が僕の目を捉えて離さない。
 前期中間テスト結果(三年生)という見出しで張り出された紙には、何人かの生徒が名前を連ねている。

 一年から二年の終わりまで僕が毎回一番上、つまりは一位に名前を書かれていた。そして三年になって初めてのテスト結果でもそれは揺るがないはずだった。

「目黒……恭介? 誰だそれは……」

 僕の名前があるはずの場所にあった名前は聞いたことも見た事もない名前。だが名前の横に書かれているクラスは僕と同じクラスだった。どういうことだ? 転校生? いいや、そんな奴は来ていない。

「そうだ。先生に聞いてみよう」

 考えてもわからない事は知っている人に聞くのが一番手っ取り早い。
 今は昼休みだから誰かしらいるはずだ。複数の疑問が頭の中をぐるぐる回っている。
 わからない事は早々に解決しなければ気持ちが悪い。

「失礼します。」

声をかけるとほぼ同時に職員室の扉を開ける。が、先生たちは僕が入ってきたことに気がつかない。
 職員室の中心部に人だかりが出来ており、先生たちはそこにいるか、そこに意識を向けているからだった。


「だぁかぁら……何度も言ってんだろ?! 俺はカンニングなんてしてねぇって!」

「お前なんかがあんな点数を取れるわけがないだろ!! 何だその髪色はっ、体中に穴あけおって!」

「穴って……ピアスぐらい最近じゃ普通っしょ。てかセンセーがお前なんかとか言っちゃっていいわけ?」

 どうやら何か揉め事の最中らしい。遠巻きに様子を伺ってみると、三年担当の先生たち何人かが一人の生徒を取り囲んでいる。先生たちの隙間からちらりと見える生徒の後頭部は見事なまでの金髪だった。ふわふわとゆれる様に目を奪われる。

「あの、お取り込み中申し訳ありませんが……」

「今忙しいんだ……ん、金森か。どうした。」

「中間テストの結果で聞きたいことが……って君が目黒恭介?!」

 僕の目に飛び込んできたのは学校指定のかばん。金髪の生徒が持っているかばんのネームプレートには汚い字で『目黒恭介』と記されていた。

「んぁ?」

 うんざりした表情で目黒恭介は僕に視線を投げてくる。
 確かに目黒恭介という人物は存在した。が、ますます謎は深まるばかりだ。こんな派手な見目の男は見たことがないし、名前にも覚えがない。だが彼は僕の顔を見ると表情を明るくした。

「ああ、同じクラスの……なんだっけ?」

「金森だ、金森悠一。同じクラスと言ったが、僕は君を知らない。本当に同じクラスなのか?」

「まぁ数日しか顔出してないし、髪も黒かったし、覚えてなくて当然じゃね? それより、俺のカンニングが無実だってことを一緒に証明してくれよ! マジやってねぇってのに誰も信じてくれねぇんだ。」

「……僕も信じられない。」


 日の光に透けてきらきらと光る金髪。両耳にはずらっと並んだピアス。顔にもいくつかピアスがついていて、見ているだけで痛々しい。……鼻にあいたピアス穴から鼻水は垂れないのか気になる。だらしなく着崩された制服もジャラジャラと装飾品が見え隠れしていて……ああ、パンツも少し見えている。
 とにかく彼が僕よりもいい点を取ったとは信じられない。信じたくなかった。


「カンニングをしたに決まっている! ったく留年までして、今度は停学処分にでもなるつもりか?!」

 鼻息荒くまくし立てるのは生活指導の斉藤先生。知らないけどきっとそう、とでもいいたげな様はいただけない。助け舟を出すつもりはなかったが、あまりにも理不尽に思えた。

「彼がカンニングをしたという証拠はあるんですか?」


 僕がとってかかると思っていなかったのだろう。先生たちが一瞬ぎょっとした顔をする。

「見た目だけで物事を判断するというのは少々強引すぎませんか? こう見えて彼は努力家かもしれないし、趣味が手芸というかわいい人なのかもしれませんよ?」

「手芸なんてやんねぇし」

「斉藤先生だって、少々強面で生徒達から怖がられていますが、本当は生徒たちを心から思っているとてもやさしい先生だと言うことを僕は存じています。」

 手を大きく広げ僕は大げさに訴えかける。こういう場合は雰囲気で飲んでしまうのが一番いい。

「い、いやしかし……」

「それに彼は去年同じ問題をやっているのでしょう? 覚えていたって不思議ではありません。」

「あ、うん……確かに……」

「それでも納得がいかないようでしたら各教科で監視下の元、小テストを行い彼の結果を見てみればよいのではないでしょうか?」

「ああ、それなら……そうだな、証拠がないのに決め付けるのは良くなかったな。来週にでもテストを実施しよう。」

「げぇまたテストすんの?」

 おいお前、誰の為に提案してやったと思っているんだ。僕は苦い顔をしている彼をじろりと睨む。
 そしてちょうど良いタイミングで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

「よし、お前らさっさと午後の授業に行け。来週テストするからな。」



「テストはマジやだけど助かったわ。サンキュー。」

「別に助けたわけじゃない、ただ先生たちの決め付けた態度が気に入らなかっただけだ。」

「ハハ、ツンデレかよ」

 あわただしく教室へ戻ろうとする生徒たちに混じり、僕たちも教室へ向かう。

「ところで、なぜ留年? 本当にカンニングをしていないのなら君は馬鹿ではないんだろう?」

「結構ぐいぐい来るね~。事なかれ主義と思ってたけど、意外とおせっかいな面もあるし……ほんと見た目で判断しちゃ駄目だな」

 ぱっと顔が赤くなるのを感じた。事なかれ主義。そうだ、僕はそうやって来たはずだったのに……、調子が狂う。
 いや、ただ単に興味が打ち勝っただけだ。きっと好き勝手やってきたであろうその見た目に反して、自分よりも優れているという裏を僕は知りたい。

「んー、お決まりのパターンだよ。ケガの入院が長引いた。リハビリで通院も長引いた。結果出席日
数が足りずに留年。」

「ケガ……?」

「そ、ケガ。」

 何のケガと聞く前に教室へ着いてしまった。中へ入るとそれぞれの席へと散る。彼の姿を見てクラスメイトがざわついたが、すぐに見なかった振りをする。異物を感じても気にしないふりをして通り過ぎるのを待つ。そんな様子だ。


 なぜか少し嫌悪を覚えた。僕も同類だというのに。
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