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8・僕らの気持ち
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焼いてもらった餃子はとても美味しかった。焼き面はパリッとしていて、餡からこぼれる肉汁が口の中を幸せで満たす。
「もう僕はコンビニのお弁当じゃ満足できない体になってしまったかもしれない」
目の前に並べられた暖かなご飯を見ながら、思わず呟いた。恭介の作ってくれるご飯は美味しくて暖かくて、心も腹も満たされる。
今日は土曜日、週明けからまた家に帰るつもりだった。
またあの冷たい家に戻ると思うと心根から冷えていく。この心地よい空間が僕にとって幸せな空間になっているのだと改めて実感した。まだ一泊しかしていないというのに。
「月曜になったら、家、帰るのか?」
「ああ、心配なんてしてないが、さすがに……な」
「なぁお前さえ良ければ、ここにずっといたっていいんだぜ?」
恭介の言葉に、ぐっとくる。それができたらどんなに幸せか。そう心が叫ぶ。
「それは出来ない」
「なんでだよ、帰りたくないんだろ? だったらっ!」
「高校を……高校を卒業するまでは耐えるって決めたんだ。大学に入って、もしくは就職をして……それであんな家から出てってやるって。逃げるんじゃなくて、自分から出て行ってやるって」
小さな復讐心のようなものだった。
僕のことを捨てた母親を今度は僕が捨てるんだって。
「だからって……」
「……だけど恭介、たまに遊びにきて、ご飯をご馳走になってもいいだろうか……?」
気恥ずかしくてうつむいたまま呟いた僕の願い。一度感じてしまったら手放すのが怖くなったこの空間での居心地の良さ。
「ったりまえだろ」
ぱっと顔を上げると、恭介も口元に手をあて恥ずかしそうに顔を俯かせていた。
「ありがとう」
風呂から上がり恭介の部屋へ戻ると、ベッドに寝転がった恭介が参考書を開いていた。
そういえば英語の勉強を教えると言って、何もしていなかったことを思い出す。
「勉強全然してないな」
「んー、まぁいいんじゃね? たまにはさ」
ごろごろと転がりながらベッドの中央から端へよけると、僕の入り込むスペースを作ってくれる。やはり今日もここで一緒に寝るのかと、少しそわそわした。
「なぁ恭介のことを聞いてもいいだろうか」
「んー?」
言葉を慎重に選びながら僕は気になったことをぶつけてみる。
「母親は小学生の頃に死んだっていったろ?」
「ああ」
「病気で……家で倒れてそのままあっさりでさ。それより前から親父はあんまり家にかえってこなくて、母親が死んでも帰ってこなかった。それだけでも親父のこと最悪な奴って軽蔑しかないのによ、遺品整理してるときに母親の日記を見つけて、親父が浮気してる事知ってさ、もう嫌悪しかないよな」
そう早口で言う恭介の顔はとても、とても複雑そうな顔をしていた。
この表情は知っている。僕が母さんのことを考えるときこんな顔になる。
恭介もきっとそうなのだ、憎いと思っていても、どこかで期待をしてしまう。
僕を、僕を見てくれるんじゃないかって。優しい言葉をかけてくれるんじゃないかって。
そうして期待した分、裏切られたときの反動が大きく、より一層憎しみが増していく。
「っ」
そう思うとたまらなくなり、僕は恭介を抱きかかえた。
「な?! おい、どうしたっ」
引っ付く僕をはがそうと恭介がもがくが、僕はかまわず両腕に力を入れた。
人の温もりが心地よいのは昨晩体験した。ひどく安心し、僕は一人じゃないんだと思うことができた。その温もりを今度は恭介にも感じてもらいたい。
「はは……子供かよ……」
やがて諦めたようで強張っていた恭介の体から力が抜けていく。
僕は……僕たちは一人ではないのだ。こうして同じ感情を、やり場のない気持ちを抱える僕らはきっとお互いの隙間を上手く埋められるんじゃないだろうかと、そう考えながら僕は眠りに落ちていった。
「もう僕はコンビニのお弁当じゃ満足できない体になってしまったかもしれない」
目の前に並べられた暖かなご飯を見ながら、思わず呟いた。恭介の作ってくれるご飯は美味しくて暖かくて、心も腹も満たされる。
今日は土曜日、週明けからまた家に帰るつもりだった。
またあの冷たい家に戻ると思うと心根から冷えていく。この心地よい空間が僕にとって幸せな空間になっているのだと改めて実感した。まだ一泊しかしていないというのに。
「月曜になったら、家、帰るのか?」
「ああ、心配なんてしてないが、さすがに……な」
「なぁお前さえ良ければ、ここにずっといたっていいんだぜ?」
恭介の言葉に、ぐっとくる。それができたらどんなに幸せか。そう心が叫ぶ。
「それは出来ない」
「なんでだよ、帰りたくないんだろ? だったらっ!」
「高校を……高校を卒業するまでは耐えるって決めたんだ。大学に入って、もしくは就職をして……それであんな家から出てってやるって。逃げるんじゃなくて、自分から出て行ってやるって」
小さな復讐心のようなものだった。
僕のことを捨てた母親を今度は僕が捨てるんだって。
「だからって……」
「……だけど恭介、たまに遊びにきて、ご飯をご馳走になってもいいだろうか……?」
気恥ずかしくてうつむいたまま呟いた僕の願い。一度感じてしまったら手放すのが怖くなったこの空間での居心地の良さ。
「ったりまえだろ」
ぱっと顔を上げると、恭介も口元に手をあて恥ずかしそうに顔を俯かせていた。
「ありがとう」
風呂から上がり恭介の部屋へ戻ると、ベッドに寝転がった恭介が参考書を開いていた。
そういえば英語の勉強を教えると言って、何もしていなかったことを思い出す。
「勉強全然してないな」
「んー、まぁいいんじゃね? たまにはさ」
ごろごろと転がりながらベッドの中央から端へよけると、僕の入り込むスペースを作ってくれる。やはり今日もここで一緒に寝るのかと、少しそわそわした。
「なぁ恭介のことを聞いてもいいだろうか」
「んー?」
言葉を慎重に選びながら僕は気になったことをぶつけてみる。
「母親は小学生の頃に死んだっていったろ?」
「ああ」
「病気で……家で倒れてそのままあっさりでさ。それより前から親父はあんまり家にかえってこなくて、母親が死んでも帰ってこなかった。それだけでも親父のこと最悪な奴って軽蔑しかないのによ、遺品整理してるときに母親の日記を見つけて、親父が浮気してる事知ってさ、もう嫌悪しかないよな」
そう早口で言う恭介の顔はとても、とても複雑そうな顔をしていた。
この表情は知っている。僕が母さんのことを考えるときこんな顔になる。
恭介もきっとそうなのだ、憎いと思っていても、どこかで期待をしてしまう。
僕を、僕を見てくれるんじゃないかって。優しい言葉をかけてくれるんじゃないかって。
そうして期待した分、裏切られたときの反動が大きく、より一層憎しみが増していく。
「っ」
そう思うとたまらなくなり、僕は恭介を抱きかかえた。
「な?! おい、どうしたっ」
引っ付く僕をはがそうと恭介がもがくが、僕はかまわず両腕に力を入れた。
人の温もりが心地よいのは昨晩体験した。ひどく安心し、僕は一人じゃないんだと思うことができた。その温もりを今度は恭介にも感じてもらいたい。
「はは……子供かよ……」
やがて諦めたようで強張っていた恭介の体から力が抜けていく。
僕は……僕たちは一人ではないのだ。こうして同じ感情を、やり場のない気持ちを抱える僕らはきっとお互いの隙間を上手く埋められるんじゃないだろうかと、そう考えながら僕は眠りに落ちていった。
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