妹は稀代の聖女と崇められているのだから、婚約者様のこともパパっと治してさしあげたらいいと思います

貝瀬汀

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妹は聖女様


 聖女は二人いる。この事実は一部の人間にしか知らされていない。
 天真爛漫な性格が好ましいのか、表向きの聖女は妹ソワノーラだった。少女が一人健気に重い役目をこなしている、という印象を与えられるのもよかったのかもしれない。もしくは唯一の聖女に無理はさせられないだろう? という民の良心への訴えか。

「――姉様。次の方からあとは、全員お願いね」
「……わかったわ」

 五年ほど前から、ソワノーラとわたくしの力量に、差を感じ始めていた。その少し前から妹は今日のように患者の大半を、わたくしに押しつけるようになっていたので。勉強と実践の差だと思っているけれど。大切なお役目なのだから怠けてはダメだと注意しても無駄だった。
 自分でもそれに気がついているのか、今では「姉様のほうが素晴らしい力を持っていらっしゃるのだから、よいではないですか」と開き直っている。
 そのくせ、普段は自分こそが聖女だと。崇められていると。己の優位を示してくるのだから意味がわからないのだが。

 もともと造作が似ている顔をさらに化粧で妹そっくりにして。わたくしは入ってきた妹と交代に休憩室から出ていくのだった。
 はぁ……。こき使われすぎてわたくしが死んだら、困るのはあなたでしょうに……。



 んん……?

「――姉様! 姉様っ! リュノワ姉様っ!!」

 妹の声とドアを叩く音で、目を覚ましたわたくしはライトを点けた。ベッドから下りて寝間着に上着を羽織る。

「ソワノーラ、どうしたの?」

 ドアを開けて廊下に立つ妹に問う。

「ねっ、姉様!」
「ええ――緊急の方?」
「そうです! とにかく、速くっ!」
 
 涙を流す妹に腕を引かれながら廊下を走った。

「どなた? 容体は?」
「あ……私じゃ、治せないんですっ。ユアル様が……っ!」

 要領を得ないが。妹の婚約者――平民の出で、騎士団長にまで出世したユアル・ヴァリロエが怪我をしたのだろう。
 治癒室につくと、むせかえるような濃い血の臭いがした。急がなければ。

「騎士団長様! 今から治癒いたしますので、どうかご安心なさってください!」

 ぐったりとベッドに横たわるユアル様に少し大きめの声をかけると。わたくしは集中して手のひらに力を込めて、負傷を治していった。
 体や周囲につく血はそのままだが、これで怪我はなくなったはずだ。

「――ふぅ……。無事に、治癒完了いたしました」

 ユアル様が薄く目を開けた。

「……ありがとう、ございます」
「いいえ。こちらこそ、いつも国を護ってくださってありがとうございます」

 彼の美しい顔はまだ疲労の色をにじませていたので、

「ここで寝ていただいて、かまいませんから……」

 と声をかけながら胸元をポンポンと優しく叩いた。

「――ユアル様! よかった、ご無事で! 心配いたしました!」

 近くで治療を見ていたソワノーラは、横になる彼に覆い被さり抱きつこうとする。しかし彼は、妹を腕で制し起き上がり、ベッドの縁に腰かけた。

「……ソワノーラ、様。あなたは聖女様ではないのですか?」
「あっ」

 わたくしたちは顔がかなり似ていると思うのだが、さすがに婚約者のユアル様は騙せなかったか……。まあ二人一緒にいるし無理か。

「……申し訳ありません、ユアル様。聖女は妹とわたくしの二人で担っているのですが、国の方針で表向きは一人ということになっております。どうか他言無用でお願いいたします」
「そう、なのですか……」

 わたくしは頭を下げてお願いをする。顔を上げるとユアル様は俯いていた。そして彼はしばらくして顔を上げ口を開いた。

「ソワノーラ様。申し訳ないのですが、婚約の解消をお願いできないでしょうか?」
「なっ、なんで……っ!?」

 取り乱すソワノーラ。修羅場の気配に固唾を呑んで見守る。少し妹が可愛そうに思えなくもないが……。

「以前お伝えした通りなのですが……。昔……まだ、ただの平民だった頃に。一度治癒を施してくださった聖女様を、俺は敬愛しております。ソワノーラ様がそれを覚えていてくださったので、婚約を了承したのですが……」
「だったら――」
「――ですが。心の中では幾度も違和感を覚えていたのです。一度だけですが、お会いできた聖女様とはなにかが、違うと」
「そんなはずは……」
「本当に、俺のことを覚えてくださっていますか? 彼女は、聖女様は治癒してくださったあとに、『よく頑張ったわね』と頭を撫でてくださいました。――その手つきは。今、さきほど、治癒をしてくださったソワノーラ様のお姉様の手つきにそっくりだったのです」

 ん? ――わたくし? 確かに、治癒のとき子供の頭を撫でることはたまにあるけれど……。
 自分の行動を思い返していると、ふと、ユアル様のほうから視線を感じる。彼はベッドから下りると、わたしくの前に歩いてきた。
 自然とユアル様を見上げるかたちになる。純粋で吸い込まれそうな緑の瞳と目が合った。

「えっと、……なにか?」
「――聖女様。俺、あなたを護るために騎士を志しました。俺と結婚してください。一生あなたの側で、あなたをお護りしたいのです」
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みんなの感想(5件)

みもり
2025.08.17 みもり

人違いかもしれないけど、姉に懸想していることが発覚したら、事情を知らない周りからみると人気な方の聖女様から婚約者を取ったとか思われそうですよね‥‥ちゃんと事情を明らかにすれば別ですが。根回ししとかないと。こういうのって先に言ったもん勝ちだから、妹が「それがお姉さまに‥(うるうる)」とかやっちゃったら、悪評が起きちゃうよなぁ。

解除
楓
2024.12.22

妹 →好みだったから適当な事言った?
騎士→人違いでプロポーズ?
姉 →そんな事も有ったような?

解除
ノーネーム
2024.12.21 ノーネーム

騎士団長にまで出世したユアル様の現年齢が気になります。まだ二十歳前後だったら物凄い猛者なのでしょう。主人公の聖女様は子供の頭をたまに撫でるというので、彼より年上ラブストーリー?続きを期待しております、有難うございました

解除

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