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出会い 1
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リンゴーン、リンゴーンと鐘の音が空へ融けるように鳴り響く。
祝福の声、それらに紛れてズッと鼻を啜る音がした。一瞬自分の出した音かと思って、あわてて周りを見渡した。主役達が挨拶をしている神殿の庭を見つめる恐ろしく熱い、暑苦しいくらいの熱情を湛えた男が泣いていた。
ここは遠い席だから主役達は気づいていないだろう。
「あんた、みっともないから早く泣き止んだほうがいいよ」
俺が渡したハンカチで涙を拭き、男は「親切だな。あんたもハンカチいるんじゃないの?」
と言った。
「俺は別に。ただ、職場で一番身分が高くて性格のいいやつがいなくなったなってだけで……」
ああ、身分が高いだけにしとけばよかったと思いながらグラスを煽る。さすが伯爵家、いい酒を振る舞っている。
「ふぅん」
返してくれたハンカチは濡れてしまって使えそうにない。アンリの名前が透けて見える。これで泣くこともできない、そう思ったらスッキリしてもう一杯給仕についでもらって飲み干した。
「あんたは彼女の方に未練があるみたいだな。ずっと見てたし」
「わかるほど見てたか?」
「まぁ、それなりに」
「まいったな」
目を隠していた茶色の髪を掻き上げれば、そこには驚くほど整った顔があった。片頬を少し上げた困り顔は、泣いていたせいか鼻の周りと目の縁が赤くなっていた。
「あんたみたいな美形を振るなんて、彼女は大物だな」
新郎は王に仕える文官の一人で、俺の先輩だ。男同士も女同士も結婚できるこの国だが、貴族の嫡子はやはり異性を娶ることが多い。愛人に同性を選ぶなんてこと、あの真面目な男がするはずもなくて、俺は見ているだけの恋に終止符を打った。優しくて誠実な先輩の妻になる人はやはり先輩を思ってくれる優しい人がいい。
まぁ最初から相手になんてされてなかったけどな。
「お前は、諦められるのか?」
男の真摯な目は彼女に釘付けだ。自分は諦めるつもりがないという意味だろうか。
「あんたは?」
「泣かせたくはない」
そこにいるだけで周囲の目を惹きつけるこんな男に言い寄られてふらつかないなんてこと、あるんだろうか。先輩は本当にいい人なんだ。だから辛い思いをして欲しくない。だからといって、この男を止まらせる術が俺にあるわけでもないが。
結婚式、新婦は新郎じゃない男と手に手をとって……。そんな馬鹿な想像と思いながらも、小説の中だけじゃなくてここで見ることになるかもしれないと唾を飲み込んだ。
いや、駄目だ。しかたない。席がたまたま横だったし、聞いてしまった以上先輩のために一肌脱ぐのが男だろう。
「なぁ、飲もうぜ。俺の名前はアンリだ。あんたは?」
「クロード・リス――」
「いいよ、名前だけで」
家名なんて聞いてもしかたない。
「そうだな。名前さえあれば――」
男は気分屋なんだろうか。泣いていたのが嘘のように艶やかな笑みを浮かべて酒を注いでくれた。
「お前も飲めよ」
フラフラになって足下もおぼつかなくなれば、二人で逃げるなんてことにはならないはずだ。
「クロードだ」
「クロードっていうか、クロでいい。あんた昔飼ってた犬に似てる」
「ちょっと待て、私が犬だと」
「クロは格好いいんだぞ!」
思わずクロを褒めてしまった。ヤバいな、少し酔っているのかもしれない。
美形に犬っていったのは失礼だったかなと思ったけれど、まんざらでもないようだ。
「そうか、格好いいのか」
でも本当に似てるんだ。俺の兄貴面してた犬のクロに。黒い瞳とか、サラサラした茶色の髪とか。
「そうなんだ。クロは狩りも得意で……」
そんな話をしていた。していたはずだった。
祝福の声、それらに紛れてズッと鼻を啜る音がした。一瞬自分の出した音かと思って、あわてて周りを見渡した。主役達が挨拶をしている神殿の庭を見つめる恐ろしく熱い、暑苦しいくらいの熱情を湛えた男が泣いていた。
ここは遠い席だから主役達は気づいていないだろう。
「あんた、みっともないから早く泣き止んだほうがいいよ」
俺が渡したハンカチで涙を拭き、男は「親切だな。あんたもハンカチいるんじゃないの?」
と言った。
「俺は別に。ただ、職場で一番身分が高くて性格のいいやつがいなくなったなってだけで……」
ああ、身分が高いだけにしとけばよかったと思いながらグラスを煽る。さすが伯爵家、いい酒を振る舞っている。
「ふぅん」
返してくれたハンカチは濡れてしまって使えそうにない。アンリの名前が透けて見える。これで泣くこともできない、そう思ったらスッキリしてもう一杯給仕についでもらって飲み干した。
「あんたは彼女の方に未練があるみたいだな。ずっと見てたし」
「わかるほど見てたか?」
「まぁ、それなりに」
「まいったな」
目を隠していた茶色の髪を掻き上げれば、そこには驚くほど整った顔があった。片頬を少し上げた困り顔は、泣いていたせいか鼻の周りと目の縁が赤くなっていた。
「あんたみたいな美形を振るなんて、彼女は大物だな」
新郎は王に仕える文官の一人で、俺の先輩だ。男同士も女同士も結婚できるこの国だが、貴族の嫡子はやはり異性を娶ることが多い。愛人に同性を選ぶなんてこと、あの真面目な男がするはずもなくて、俺は見ているだけの恋に終止符を打った。優しくて誠実な先輩の妻になる人はやはり先輩を思ってくれる優しい人がいい。
まぁ最初から相手になんてされてなかったけどな。
「お前は、諦められるのか?」
男の真摯な目は彼女に釘付けだ。自分は諦めるつもりがないという意味だろうか。
「あんたは?」
「泣かせたくはない」
そこにいるだけで周囲の目を惹きつけるこんな男に言い寄られてふらつかないなんてこと、あるんだろうか。先輩は本当にいい人なんだ。だから辛い思いをして欲しくない。だからといって、この男を止まらせる術が俺にあるわけでもないが。
結婚式、新婦は新郎じゃない男と手に手をとって……。そんな馬鹿な想像と思いながらも、小説の中だけじゃなくてここで見ることになるかもしれないと唾を飲み込んだ。
いや、駄目だ。しかたない。席がたまたま横だったし、聞いてしまった以上先輩のために一肌脱ぐのが男だろう。
「なぁ、飲もうぜ。俺の名前はアンリだ。あんたは?」
「クロード・リス――」
「いいよ、名前だけで」
家名なんて聞いてもしかたない。
「そうだな。名前さえあれば――」
男は気分屋なんだろうか。泣いていたのが嘘のように艶やかな笑みを浮かべて酒を注いでくれた。
「お前も飲めよ」
フラフラになって足下もおぼつかなくなれば、二人で逃げるなんてことにはならないはずだ。
「クロードだ」
「クロードっていうか、クロでいい。あんた昔飼ってた犬に似てる」
「ちょっと待て、私が犬だと」
「クロは格好いいんだぞ!」
思わずクロを褒めてしまった。ヤバいな、少し酔っているのかもしれない。
美形に犬っていったのは失礼だったかなと思ったけれど、まんざらでもないようだ。
「そうか、格好いいのか」
でも本当に似てるんだ。俺の兄貴面してた犬のクロに。黒い瞳とか、サラサラした茶色の髪とか。
「そうなんだ。クロは狩りも得意で……」
そんな話をしていた。していたはずだった。
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