35 / 53
まさか 3
しおりを挟む
それからは穏やかに何日かが過ぎていった。仕事中に変なことをされることもなく、起きたらやられてるなんてこともなく、仕事が忙しい日常がただ連なっている。夜ご飯は一緒に食べることはあっても誘われることもなく、寮の前まで送ってくれる。
「寄らないの?」
「ああ、ゆっくりお休み。明日、迎えにくるから――」
「そっか、そうだな。お休み」
クロードが話し合おうと言ってたのを思い出した。家に招待するとか言ってた。あのホテルのステーキとか食べられるのかと思うと涎がでそうだ。
「明日は泊まっていけるよね?」
「日曜日の夜は家に帰るけどな」
「そうだね。妹さんの結婚の話だったっけ?」
「あれは無くなったから……今度は良縁探さないとな」
まさかケヴィンが妹じゃなくて俺を……なんて思ってもみなかったからな。
「良縁ってどんな人が好みなの?」
「持参金が少なくても妹を邪険にしないやつかな。あと、妹は狩りが好きなんだ。よくケヴィンと狩りに行ってたから結婚するんだと勘違いしてたんだ。まさか二人とも狩りをしたかっただけなんて思わないだろ」
獲物がどうとか、なんか盛り上がってた。
「そうなのか。それなら紹介できる人がいるかもしれない。向こうに先に聞いてもいいかな? 付き合っている人がいないかとか調べないと」
「冗談じゃなく? お前、妹の顔もしらないのに勧めていいのかよ。あんまり貴婦人とか淑女って感じじゃないんだ」
「大丈夫だよ。もし合わないようなら違う人を紹介するよ」
「お前って……いいやつだったんだな」
何となくだけど、クロードは変な男を紹介したりしないだろう。
「ご褒美にキス、していい?」
「あ、いいけど――」
そう言えばキスもしてなかった。クロードと普通の友達みたいに過ごしていたら、別にそれはそれで満足できるというか、楽しくてすっかり忘れていた。
「アンリ、明日楽しみにしてるよ」
頬を撫でられて、ゾクッとしたところをゆっくりとクロードの唇が下りてきた。寮の前だからかクロードは舌を入れずに何度もついばむようなくすぐったいキスを繰り返した。
「クロード、お休み」
クロードが何を考えているのかはわからなかったが、もしかしたらこのままセフレも解消するつもりなのかもしれない。明日の話し合いがどういったものか考えるのが怖い。
「おやすみ、アンリ。いい夢を――」
セフレでなくなっても、きっといい上司として側にいてくれるような気がした。
どうせ部屋でヤって、食事して寝るだけだしと思ってギリギリホテルで恥ずかしくない服を着た。貧乏貴族の俺は城で働くための服か、反対に夜会できる服しかもっていない。
「もうソロソロかな」
ドンドン! と扉がノックされてクロードかなと思って出たら同僚だった。
「アンリ! お迎えが――」
「お迎えって……」
まぁ俺たちとは身分も違って上のクロードだからわからないでもないけれど、随分焦っているように見えた。
「今行くよ」
「早く!」
王族でも来たような慌てぶりだ。まぁ侯爵の息子だから俺たちにとっては……なんて思いながら下りていったら、薔薇の花を小脇に抱えたクロードが立っていた。
何? 思わず自分の後ろを確かめて、俺を迎えに来たんだよなと同僚に確認の視線を送った。
「おはよう、アンリ。迎えに来たよ。これ、朝に温室でつんできたんだ。部屋に飾って?」
「あ……ああ……。あり、がとう……」
両手で抱えないと落としそうな量の薔薇をもらって俺は困惑した。
「アンリにはピンクが似合うと思ったんだ」
「そうか……?」
多分クロードのほうが似合ってる。
「ああ、もちろんアンリの方が綺麗だよ?」
寮に住んでいるやつらの目線が恐ろしく刺さる。痛い……。
もしかして、好きだと言ったことへの嫌がらせなんだろうか。
「アンリ、出かけるんだったら花瓶に生けといてあげるわよ」
寮生の世話をしてくれているおばさんがそう言ってくれたから、薔薇の花を渡した。
「お願いします。うちには全部入る花瓶がないので、よかったら皆でわけてもらえますか? 俺は何本かあったら十分なので。クロードいいかな?」
「もちろん、アンリがいいなら構わないよ」
ここは城勤めでも比較的金をもっていない層の住人が多いから、皆歓声を上げた。多分、部屋に飾るのではなく、恋人にプレゼントするとか売り払うとかそういうことになるだろう。でもこんな沢山もらっても俺も困るんだ。
「行こうか」
「ああ……」
朝からあんまりビックリしすぎた。でも、これはまだ序奏ににすぎないことに今の俺は気付いていなかった。
「うわっ!」
ここは城の端にあるとはいえ、城の一部だ。そこにキラキラ美しい馬車が止まっていた。家紋はリスホード侯爵家のもの。
「どうぞ?」
差し出された手を思わず握って、クロードを見た。
「なんで家紋入りの馬車なんだよ!」
「城の中を自由に馬車で走らせようと思ったら家紋入りじゃないと駄目でしょ」
困った子だ、みたいな顔で言われても……。
「でもっ」
「乗って乗って。ここ、立地が悪くて家紋入りじゃないと馬車で迎えに来られないだよね」
そりゃ、そうだ。もうツッコむのも疲れて、大人しく乗った。こんな豪華な馬車乗ったことないよ。
「アンリ?」
「いや、尻の下がやわやかすぎて、ちょっと……」
乗り心地はいいんだけど、居心地が悪い。
「ならこっちにおいで」
「なっ! んで……」
膝に乗せられた。最近スキンシップが減ってたから、ちょっと嬉しい。
「ふふっ、静かになったね」
クロードはらしくなく、悪戯もしなかった。ただ、窓の外を見ていたり、時折俺を見て微笑む。
まるで理想の王子様のようだ。
俺はホテルまでの短い時間をクロードの香りに包まれて過ごしたのだった。
「寄らないの?」
「ああ、ゆっくりお休み。明日、迎えにくるから――」
「そっか、そうだな。お休み」
クロードが話し合おうと言ってたのを思い出した。家に招待するとか言ってた。あのホテルのステーキとか食べられるのかと思うと涎がでそうだ。
「明日は泊まっていけるよね?」
「日曜日の夜は家に帰るけどな」
「そうだね。妹さんの結婚の話だったっけ?」
「あれは無くなったから……今度は良縁探さないとな」
まさかケヴィンが妹じゃなくて俺を……なんて思ってもみなかったからな。
「良縁ってどんな人が好みなの?」
「持参金が少なくても妹を邪険にしないやつかな。あと、妹は狩りが好きなんだ。よくケヴィンと狩りに行ってたから結婚するんだと勘違いしてたんだ。まさか二人とも狩りをしたかっただけなんて思わないだろ」
獲物がどうとか、なんか盛り上がってた。
「そうなのか。それなら紹介できる人がいるかもしれない。向こうに先に聞いてもいいかな? 付き合っている人がいないかとか調べないと」
「冗談じゃなく? お前、妹の顔もしらないのに勧めていいのかよ。あんまり貴婦人とか淑女って感じじゃないんだ」
「大丈夫だよ。もし合わないようなら違う人を紹介するよ」
「お前って……いいやつだったんだな」
何となくだけど、クロードは変な男を紹介したりしないだろう。
「ご褒美にキス、していい?」
「あ、いいけど――」
そう言えばキスもしてなかった。クロードと普通の友達みたいに過ごしていたら、別にそれはそれで満足できるというか、楽しくてすっかり忘れていた。
「アンリ、明日楽しみにしてるよ」
頬を撫でられて、ゾクッとしたところをゆっくりとクロードの唇が下りてきた。寮の前だからかクロードは舌を入れずに何度もついばむようなくすぐったいキスを繰り返した。
「クロード、お休み」
クロードが何を考えているのかはわからなかったが、もしかしたらこのままセフレも解消するつもりなのかもしれない。明日の話し合いがどういったものか考えるのが怖い。
「おやすみ、アンリ。いい夢を――」
セフレでなくなっても、きっといい上司として側にいてくれるような気がした。
どうせ部屋でヤって、食事して寝るだけだしと思ってギリギリホテルで恥ずかしくない服を着た。貧乏貴族の俺は城で働くための服か、反対に夜会できる服しかもっていない。
「もうソロソロかな」
ドンドン! と扉がノックされてクロードかなと思って出たら同僚だった。
「アンリ! お迎えが――」
「お迎えって……」
まぁ俺たちとは身分も違って上のクロードだからわからないでもないけれど、随分焦っているように見えた。
「今行くよ」
「早く!」
王族でも来たような慌てぶりだ。まぁ侯爵の息子だから俺たちにとっては……なんて思いながら下りていったら、薔薇の花を小脇に抱えたクロードが立っていた。
何? 思わず自分の後ろを確かめて、俺を迎えに来たんだよなと同僚に確認の視線を送った。
「おはよう、アンリ。迎えに来たよ。これ、朝に温室でつんできたんだ。部屋に飾って?」
「あ……ああ……。あり、がとう……」
両手で抱えないと落としそうな量の薔薇をもらって俺は困惑した。
「アンリにはピンクが似合うと思ったんだ」
「そうか……?」
多分クロードのほうが似合ってる。
「ああ、もちろんアンリの方が綺麗だよ?」
寮に住んでいるやつらの目線が恐ろしく刺さる。痛い……。
もしかして、好きだと言ったことへの嫌がらせなんだろうか。
「アンリ、出かけるんだったら花瓶に生けといてあげるわよ」
寮生の世話をしてくれているおばさんがそう言ってくれたから、薔薇の花を渡した。
「お願いします。うちには全部入る花瓶がないので、よかったら皆でわけてもらえますか? 俺は何本かあったら十分なので。クロードいいかな?」
「もちろん、アンリがいいなら構わないよ」
ここは城勤めでも比較的金をもっていない層の住人が多いから、皆歓声を上げた。多分、部屋に飾るのではなく、恋人にプレゼントするとか売り払うとかそういうことになるだろう。でもこんな沢山もらっても俺も困るんだ。
「行こうか」
「ああ……」
朝からあんまりビックリしすぎた。でも、これはまだ序奏ににすぎないことに今の俺は気付いていなかった。
「うわっ!」
ここは城の端にあるとはいえ、城の一部だ。そこにキラキラ美しい馬車が止まっていた。家紋はリスホード侯爵家のもの。
「どうぞ?」
差し出された手を思わず握って、クロードを見た。
「なんで家紋入りの馬車なんだよ!」
「城の中を自由に馬車で走らせようと思ったら家紋入りじゃないと駄目でしょ」
困った子だ、みたいな顔で言われても……。
「でもっ」
「乗って乗って。ここ、立地が悪くて家紋入りじゃないと馬車で迎えに来られないだよね」
そりゃ、そうだ。もうツッコむのも疲れて、大人しく乗った。こんな豪華な馬車乗ったことないよ。
「アンリ?」
「いや、尻の下がやわやかすぎて、ちょっと……」
乗り心地はいいんだけど、居心地が悪い。
「ならこっちにおいで」
「なっ! んで……」
膝に乗せられた。最近スキンシップが減ってたから、ちょっと嬉しい。
「ふふっ、静かになったね」
クロードはらしくなく、悪戯もしなかった。ただ、窓の外を見ていたり、時折俺を見て微笑む。
まるで理想の王子様のようだ。
俺はホテルまでの短い時間をクロードの香りに包まれて過ごしたのだった。
3
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
あの日、北京の街角で
ゆまは なお
BL
5年前、一度だけ体を交わした彼が、通訳として出張に同行するーーー。
元留学生×駐在員。年下攻め。再会もの。
北京に留学していた上野孝弘は駐在員の高橋祐樹と街中で出会い、突然のアクシデントにより、その場で通訳を頼まれる。その後も友人としてつき合いが続くうちに、孝弘は祐樹に惹かれていくが、半年間の研修で来ていた祐樹の帰国予定が近づいてくる。
孝弘の告白は断られ、祐樹は逃げるように連絡を絶ってしまう。
その5年後、祐樹は中国出張に同行するコーディネーターとして孝弘と再会する。
3週間の出張に同行すると聞き、気持ちが波立つ祐樹に、大人になった孝弘が迫ってきて……?
2016年に発表した作品の改訂版。他サイトにも掲載しています。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。
影武者は身の程知らずの恋をする
永川さき
BL
孤児院出身のライリーは農場で働いている傍ら、冒険者を副業としている。
しかし、農場では副業が禁止である上に、冒険者は孤児院で嫌悪の対象となっている。
解雇や失望されてしまう可能性があっても冒険者として働くのは、貧しい孤児院に仕送りをするためだった。
そんなある日、冒険者ギルドから帰宅する途中、正体不明の男に尾行される。
刃を交え、ギリギリのところで男を振り切ったが、逃げ切れていなかったとわかったのは、その数日後のこと。
孤児院に現れたのは王宮の近衛騎士の三人。
そのうちの一人であるユリウスは、ライリーが尾行を振り切った正体不明の男だった。
自身の出自を餌に、そして言外に副業やその内容をバラすと脅され、王宮に行くことを決意したライリーを待ち受ける運命とは……。
近衛騎士×元孤児の影武者の切ない身分差BL。
顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる