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あったかい布団に包まれてこのままもう少し眠っていたかった。
「おにぃちゃぁん……」
澪が泣いてる。どうしたんだろう。『運動会に来て』ってお母さんに言って断られたのかな。いつまでたっても澪はお母さんやお父さんに期待することを止めない。諦めない。どうしてそんなに強くいられるんだろう。
俺はもう、傷つくのが嫌でお願いなんてできなくなったのに。
今日澪がやってた乙女ゲームのヒーローの……攻略対象者だったっけ。赤い髪の……。あいつは俺に似てるって思った。
あれ、運動会じゃないか。澪はもう高校生だもんな。
「澪、泣くな……。兄ちゃんがやってやるから——」
遠足のお弁当も、進路相談も行ってやっただろう。泣いてる澪に手を伸ばして、頭を撫でてやった。
「うわん……っ、起きた! 見せつけられた!」
歓喜と涙で澪は忙しい。もう少し成長して、プリメリアみたいに……。
「リア……」
そこで意識がハッキリとした。
そうだ、ここは『花咲き誇るフラワーガーデン物語』の世界で。俺は御堂隆一ではなく、サイラス・ルゼル・オーディクス。攻略対象者だ。
俺が澪だと思っていた頭は、アルフォンスだった。
「私の名前は呼んでくれないのか」
切なげな眼差しに胸がツキンと傷んだ。
そうだ、『魔王の欠片』であるドッペルゲンガーを倒したのだ。そして、胸に闇の力を凝縮させたナイフをくらって俺は昏倒した。
アルフォンスは少し顔色が悪い。
「アルフォンス、お前、痩せたな」
「お前が早く起きないからだ」
ギュっと手を握られた。
ここには寝台に寝てる俺と俺の手を握るアルフォンスと、その後ろでキャアキャアしているミリア、何かを淹れているライファーがいた。侯爵家の俺の部屋だ。
ライファーの手元から何故かすごいにおいがしている。嫌な予感はするけれど、皆が何も言わないので触れないようにした。
「そんなに遅かったか?」
「お兄ちゃん、一週間も寝てたのよ!」
首を回しても、そんなに寝ていた感じはしない。
「ほら、サイ。これ飲んで」
嫌な予感は当たった。
匂いも色も飲み物の範疇から外れている。
「何このまずそうな……」
「身体に効くはずだ」
「お兄ちゃん、それポーションだよ」
ゲームの中で回復に使っていたポーションがこんなドロッとしたまずそうなものだったとは。
「……んぐっ!」
一息に飲み干そうとしたけれど、瞬間吐き出しそうになる。我慢して飲みこむと自然と涙が浮いてきた。目も痛い……。
「サイラス、これを」
アルフォンスが差し出したカップの中身は果物で作った果実水だった。何でもいいから口の中を洗い流したい気分だった。
「ありがとう」
飲み終えてため息を吐くと、アルフォンスは目元を緩めて指で俺のまなじりを拭った。
「そんなにまずかったのか」
笑うアルフォンスをみて、俺はホッとした。
「まずかった——。そうだ、あの後どうなったか教えてくれ」
ライファー説明を求めると、ライファーとミリアが気まずそうに下を向いた。チラッとアルフォンスを見るから、何かあったのだろうか。
「ドッペルゲンガーは消滅した。その際にお前に刺さった闇の力はミリアの聖なる力によって最小限に抑えらえた。だが消えなかった。おれはあの時ドッペルゲンガーの魔力を知ったから、感知できる。だが、あいつも言ってたように『魔王の欠片』と呼ばれるものはミリアやケヴィン以外誰でも持っているものなんだ。サイラスが持っていても生活に支障はないはずだ。夢を媒介にして大きくなることがわかったから、あんまり夢がやばかったらその時は相談してくれ。ミリアに時々浄化してもらえば、なお安心かもしれない」
ライファーは心配しなくてもいいと言った。
「ありがとう、助かった。何かの時には相談させてもらう」
「お兄ちゃん、あの、……勝手になんだけど私たちが前世で兄妹だったことを教えたの。『花』のことは言ってないけど」
ミリアが治療のためにずっと側にいると願っても、淑女がはしたないといって許可が下りなかったのだそうだ。前世で兄妹だったとしても今の時点で一ミリも血が繋がってないのだから許可されたことも謎だ。
ミリアはゲームと言いにくくて『花』と呼ぶことにしたようだ。
「ミリアは聖女として認定された。前世の記憶をもち、聖なる力が使えるということでな」
「……え?」
あくまでここは乙女ゲームの世界だったはずだ。聖女降臨などなかったはずだが。
「『花』の次のお話が……聖女無双ものだったから……」
「あれか!」
宣伝のチラシは覚えているが、確かあれは、……R18だったから澪は買えなくて悔しがっていた。
「お前が聖女なのか?」
「ううん、違う。ミリアじゃないよ。この国じゃなかったはずなのよね。確か隣の魔道王国だったはず」
「まぁ、いい。お前じゃないなら俺には関係がないからな」
何故か身体を起こした俺の胴体にアルフォンスが抱き着いた。
「おにぃちゃぁん……」
澪が泣いてる。どうしたんだろう。『運動会に来て』ってお母さんに言って断られたのかな。いつまでたっても澪はお母さんやお父さんに期待することを止めない。諦めない。どうしてそんなに強くいられるんだろう。
俺はもう、傷つくのが嫌でお願いなんてできなくなったのに。
今日澪がやってた乙女ゲームのヒーローの……攻略対象者だったっけ。赤い髪の……。あいつは俺に似てるって思った。
あれ、運動会じゃないか。澪はもう高校生だもんな。
「澪、泣くな……。兄ちゃんがやってやるから——」
遠足のお弁当も、進路相談も行ってやっただろう。泣いてる澪に手を伸ばして、頭を撫でてやった。
「うわん……っ、起きた! 見せつけられた!」
歓喜と涙で澪は忙しい。もう少し成長して、プリメリアみたいに……。
「リア……」
そこで意識がハッキリとした。
そうだ、ここは『花咲き誇るフラワーガーデン物語』の世界で。俺は御堂隆一ではなく、サイラス・ルゼル・オーディクス。攻略対象者だ。
俺が澪だと思っていた頭は、アルフォンスだった。
「私の名前は呼んでくれないのか」
切なげな眼差しに胸がツキンと傷んだ。
そうだ、『魔王の欠片』であるドッペルゲンガーを倒したのだ。そして、胸に闇の力を凝縮させたナイフをくらって俺は昏倒した。
アルフォンスは少し顔色が悪い。
「アルフォンス、お前、痩せたな」
「お前が早く起きないからだ」
ギュっと手を握られた。
ここには寝台に寝てる俺と俺の手を握るアルフォンスと、その後ろでキャアキャアしているミリア、何かを淹れているライファーがいた。侯爵家の俺の部屋だ。
ライファーの手元から何故かすごいにおいがしている。嫌な予感はするけれど、皆が何も言わないので触れないようにした。
「そんなに遅かったか?」
「お兄ちゃん、一週間も寝てたのよ!」
首を回しても、そんなに寝ていた感じはしない。
「ほら、サイ。これ飲んで」
嫌な予感は当たった。
匂いも色も飲み物の範疇から外れている。
「何このまずそうな……」
「身体に効くはずだ」
「お兄ちゃん、それポーションだよ」
ゲームの中で回復に使っていたポーションがこんなドロッとしたまずそうなものだったとは。
「……んぐっ!」
一息に飲み干そうとしたけれど、瞬間吐き出しそうになる。我慢して飲みこむと自然と涙が浮いてきた。目も痛い……。
「サイラス、これを」
アルフォンスが差し出したカップの中身は果物で作った果実水だった。何でもいいから口の中を洗い流したい気分だった。
「ありがとう」
飲み終えてため息を吐くと、アルフォンスは目元を緩めて指で俺のまなじりを拭った。
「そんなにまずかったのか」
笑うアルフォンスをみて、俺はホッとした。
「まずかった——。そうだ、あの後どうなったか教えてくれ」
ライファー説明を求めると、ライファーとミリアが気まずそうに下を向いた。チラッとアルフォンスを見るから、何かあったのだろうか。
「ドッペルゲンガーは消滅した。その際にお前に刺さった闇の力はミリアの聖なる力によって最小限に抑えらえた。だが消えなかった。おれはあの時ドッペルゲンガーの魔力を知ったから、感知できる。だが、あいつも言ってたように『魔王の欠片』と呼ばれるものはミリアやケヴィン以外誰でも持っているものなんだ。サイラスが持っていても生活に支障はないはずだ。夢を媒介にして大きくなることがわかったから、あんまり夢がやばかったらその時は相談してくれ。ミリアに時々浄化してもらえば、なお安心かもしれない」
ライファーは心配しなくてもいいと言った。
「ありがとう、助かった。何かの時には相談させてもらう」
「お兄ちゃん、あの、……勝手になんだけど私たちが前世で兄妹だったことを教えたの。『花』のことは言ってないけど」
ミリアが治療のためにずっと側にいると願っても、淑女がはしたないといって許可が下りなかったのだそうだ。前世で兄妹だったとしても今の時点で一ミリも血が繋がってないのだから許可されたことも謎だ。
ミリアはゲームと言いにくくて『花』と呼ぶことにしたようだ。
「ミリアは聖女として認定された。前世の記憶をもち、聖なる力が使えるということでな」
「……え?」
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「『花』の次のお話が……聖女無双ものだったから……」
「あれか!」
宣伝のチラシは覚えているが、確かあれは、……R18だったから澪は買えなくて悔しがっていた。
「お前が聖女なのか?」
「ううん、違う。ミリアじゃないよ。この国じゃなかったはずなのよね。確か隣の魔道王国だったはず」
「まぁ、いい。お前じゃないなら俺には関係がないからな」
何故か身体を起こした俺の胴体にアルフォンスが抱き着いた。
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